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 日本で公衆無線LANサービスが始まって約5年が経過した2006年末,これまでにないサービスが日本に上陸した。スペインに本部を持つ英フォン・ワイヤレスが提供する「FON」である(以下,事業者を指す際は「フォン」と,サービスを指す際は「FON」と表記)。開始から約7カ月が経過した2007年6月中旬の段階で,アクセス・ポイント(AP)数は1万8000近い数に達している。他の公衆無線LANサービスのエリア数が, 多くて6000程度であることを考えると,瞬く間に国内最大規模のサービスに成長したことになる。

 フォンは従来の公衆無線LANサービスとは,根本的に異なるビジネスモデルを打ち出し,攻勢に出る。エリア展開を完全にユーザーに委ね,通信サービスは極力無償で提供。通信以外の収益でビジネスを成立させようと目論んでいるのだ(図1)。

図1●FONと既存の公衆無線LANサービスの違い
図1●FONと既存の公衆無線LANサービスの違い
FONは,インフラ構築の考え方やビジネスモデルなどあらゆる点で,既存の公衆無線LANサービスと対照的だ。

1980円のFON APがエリアを作る

 FONは,エンドユーザーが自宅の無線LANAPを開放し,他の利用者に無償または有償で公衆無線LANを提供するサービスだ。スペインで通信事業などに携わっていた起業家であるマーティン・バルサフスキー氏が2005年11月に開始した。

 多くの個人が自分のAPを他の利用者に開放して,巨大な公衆無線LANサービスを作るというFONのアイデアは,目新しいものではない。例えばバッファローなどが中心となって提供中のFREESPOTや,かつて米国で事業を展開していた米ジョルテージ・ネットワークスのサービスなども,サービスの形はFONとよく似ている。だがこれらのサービスは概して大きな流れになり得てはいない。

 FREESPOTなど先行するユーザー主導型の公衆無線LANサービスと比較するとFONは,FONに対応する無線LAN AP「La Fonera」を1980円という格安の値段で販売している点が新しい。La Foneraは手のひらサイズのコンパクトなきょう体ながら,IEEE 802.11b/gの無線LANルーターとして必要十分な機能も備えている。

 La Foneraを購入したユーザーは自宅のブロードバンド回線に接続し,他のFON利用者にAPを開放。するとその対価として,世界中にあるFONのAPを無償で利用できるようになる仕組みだ(図2)。1980円という無線LAN APの安さによってユーザーを獲得し,エリアを拡大しようというフォンの目論みは,現状では成功していると言える。

図2●APを他の利用者に開放する代わりに,世界中のFONのAPが無償で使えるようになる
図2●APを他の利用者に開放する代わりに,世界中のFONのAPが無償で使えるようになる
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広告やコミュニティ・ビジネスで収益をあげる

 もう一つFONならではの特徴は,FONのサーバーがFONのAPの状態を適時チェックし,場合によってはファームウエアの自動更新まで手がける点だ。どんな利用者がAPにアクセスしているのかも逐次把握できる。

 これらの機能によって,ユーザー同士のコミュニティ化を促進するサービスが可能になる。現時点では,接続可能なAPを地図上に表示するサービスや,どの利用者がAPにアクセスしたのかを管理する機能を提供している。将来的には「地域ごとに広告を配信するサービスなども検討している」(フォン・ジャパンの藤本潤一CEO)という。

 地域ごとに利用者の状態を把握できるというFONの機能は,今後様々なビジネスに適用できるだろう。こうした点に米グーグルやルクセンブルクのスカイプ・テクノロジーズといったWeb上で有力サービスを提供する企業が賛同し,フォンに対する巨額の出資を決めている。

 日本では2007年3月に,大手商社である伊藤忠商事がフォンへの出資を決めた。同社の瓜生裕明・情報産業ビジネス部ITベンチャー開発推進課プロジェクトマネージャーは「既存の公衆無線LANサービスは設備投資が重くて回収が難しいモデルだが,FONは設備投資がかからない。ビジネス的に大きな可能性がある」と期待する。

 ゲーム機などで無線LANを搭載した機器が増えている点もFONを後押しする。藤本CEOは,フォンではこうした機器を持つユーザーこそ「FONのターゲット・ユーザー」と見る。さらには「端末にFONへ自動ログインする機能を埋め込めば,端末メーカーから収入を得られるだろう。将来的にはフォンの収益の柱の一つにしたい」(藤本CEO)と構想を語る。

 このようにフォンは,極力通信以外の部分で収益をあげていくことを考えている。ユーザーの力によってエリアを拡大し,その上で広告ビジネスやコミュニティ・ビジネスを花開かせようとしている。なお海外では「Bill」や「Aliens」という名称で,有償で第三者がFON APを利用するサービスも展開中。日本でもこの秋を目処に,Aliensサービスを開始する計画だ。藤本CEOは「有償サービスの開始は,どちらかと言えばFON APを設置してくれるユーザーを増やすための施策」と,収益の柱とはみなしていない点を強調する。

FON APの設置にはプロバイダの承諾が必要

 もっともユーザーを増やすためには,格安のAPの販売だけでは不十分。なぜなら少なくとも日本の場合,インターネット接続事業者(プロバイダ)がFONの利用を認めていないと,原則FON APを設置することはできないからだ。FONの仕組みは,AP所有者のブロードバンド回線を第三者に利用させることで成り立つ。プロバイダによっては約款で,プロバイダ加入者が第三者へ回線を提供することを禁じているケースもある。フォンのユーザー登録画面には,プロバイダがFON APの利用を承諾していることを,ユーザーに確認する一文が記載されている。このためプロバイダの規約に違反してFON APを設置した場合,ユーザーに責任が生じる。

 現在のところ日本における提携プロバイダは,エキサイト,ISAO,ブラステル,インターリンク,インターネットレボリューションの5社。フォン側でも,「FONを理解してもらえるように,時間をかけてプロバイダと話し合いを進めている。年内に国内すべてのプロバイダと提携できるとは思えないが,じっくりと提携先のプロバイダを増やしていきたい」(藤本CEO)という。

出典:日経コミュニケーション 2007年6月15日号 40ページより
(記事は2007年6月末時点の情報を追加したものです。現在では異なる場合があります)