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 「10人日、ゼロ円」でマッシュアップ・サイト「出張JAWS」を開発した黒田氏は、Webサービス技術を活用して、道内の市町村で共同利用する「北海道電子自治体プラットフォーム(HARP)」を推進し、さらに業務アプリケーションをIT会社で長く開発した経験も持つ。同氏は外部のWebサービスAPIの普及は自然なことだと話す。(聞き手は小野口 哲)



マッシュアップによって、企業情報システムの作り方はどう変わるのでしょう。

写真●北海道庁 北海道企画振興部 科学IT振興局情報政策課 黒田哲司主査

 ブロードバンド化の浸透など環境整備が進んで、ネットの向こう側に“使える”サービスがあるようになれば、それを使うのは自然な流れです。もちろん、資金が十分にあって自分がシステムを作りたいのならそうしても構いません。

本当に優れたものが外部にあるなら使えばよい

 ですが、今は効率優先の時代です。企業や自治体のIT担当者は、あるものを使えばいいじゃないかという考え方に変わってきています。本当に優れたものが外部にあれば使った方が得ではないかということです。

 グーグルなどのサービスは、市場で鍛えられている。これを上回るサービスを、一から自前で開発するのは並大抵のことではありません。

道庁のような大組織でも、外部のWebサービスAPIやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を組み合わせて構築する時代が来るのでしょうか。

 いずれやって来ると思います。そこに向かって、徐々に“色分け”が進むのではないでしょうか。現在提供されているWebサービスAPIは参照系が中心ですが、社内の情報系のシステムなどなら十分利用できます。会議室予約や公用車の手配などのグループウエア的なシステムは、すぐにWebサービスAPIを使ったマッシュアップの方向に向かうと思います。

 一方、基幹系業務システムは、データ更新、登録処理が生じます。ここで問題になるのが、特に自治体のような組織で扱う機密情報や住民の個人情報を、グーグルなどのサーバーに保存していいかという問題です。海外の企業に行政のデータを預けることへの、様々な反応を考慮する必要があります。簡単ではないでしょう。

 給与計算や人事といった業務にかかわる基幹システムは、最後まで企業内に残るか可能性があります。しかし、これらの業務についても内部で利用する部分をWebサービスAPIとして実装し、外部から取り込めるアプリケーションとマッシュアップする方向に進むのではないでしょうか。このやり方のほうが開発効率は上がります。

 私が開発した出張JAWSも、本来ならば経路やホテル情報を調べるだけではなく、旅費精算して自分の入金口座に振り込まれるところまでできたほうが便利です。庁内の旅費清算システムとつないで初めて、出張のプロセスをすべてカバーできますから。こういった議論を進めることで、社内外のWebサービスAPIをどうマッシュアップするかが見えてくるのではないでしょうか。

 “向こう側”の企業に情報を置くべきかどうかは、セキュリティが担保できているかどうかで判断すべきかもしれません。実際、今だって道庁のデータも庁舎の中にあるわけではありません。外部にあるデータセンターに預けているわけです。

気に入ったら有償で使う方法が広がる

出張JAWSを外部に発注するとら、どの程度の費用が必要だと思いますか。

 SLA(サービス・レベル・アグリーメント)次第で大きく変わると思います稼働状況を監視したり、バグが出たとき修正するかどうかといったサポートの内容で額は大きく変わってきます。ソフトウエアは、全体のコストに占めるサポートの割合が大きなものだからです。

 IT会社がシステムを開発する場合には、マニュアルも用意しなければならないし、報告書も作らなければいけない。こういったことを勘案すると、作業時間は4~5人月くらいになるでしょう。月60万~70万円で技術者を利用できたとしても、300万~400万円程度になるんじゃないでしょうか。場合によって600万円くらいかかるかもしれませんね。

 金額による開発効率の比較は難しいのですが、出張JAWSは私のような“素人”が10日ほど完成できた。開発効率は極めて高いと言っていいと思います。

 IT業界の皆さんも気づいていると思いますが、これまでのビジネスの方法が通用しなくなる可能性があります。グーグルやアマゾンなどが提供するサービスは無料でありながら、通常の国内のIT会社のものよりもりサービス・レベルが高い。企業向けの有償の契約も用意しているケースも増えています。業務で利用するので、サポートが気になるなら、有償の契約を結ぶこともできます。

 まず無料で提供して使ってもらい、「いいな」と思ってもらうがプロモーションが可能になるのです。実際使ってみて問題なければ契約する。こういったビジネスが広がっていくのではないですか。「パッケージでいくら」というやり方は難しくなっていくでしょう。

人気のある外部のWebサービスAPIは信頼できる

プログラミングの世界も大きく変わっていくのでしょうか。

 WebサービスAPIを使ったプログラミングで変わったことは、「呼び出すAPIが遠くにある」ということです。遠くにあるモジュールは、自分でメンテナンスをする必要がなく、品質や性能や機能についても関知する必要がない。この違いは非常に大きいんです。

 意外かもしれませんが、公開されている外部のWebサービスAPIには、品質の高さを期待できます。不具合があったら全世界からクレームがくる。放っておいても、進化していくのです。多数に使われているものであるほど、健全な競争が生まれて一層進歩していきます。

 ソフトウエアを細分化して、それぞれの機能を部品化し、再利用性を高めるのは、何十年も前からIT業界の目標とされてきたところです。これまでも、外部サブルーチンのようにプログラムをモジュール化し、必要に応じて呼び出して使うという手法は従来からありました。

 ただこれを1社で「開発する場合には、すべてのプログラムに責任を持ち、全部検証しなければなりません。テストにかかる時間も膨大です。

“向こう側”が止まるとお手上げになる

 問題もあります。“向こう側”にあるサービスがダウンすると、“こちら側”はお手上げになってしまう。我々はサービスレベルは保証できないのです。ミッションクリティカルなシステムを作ろうと思ったときには、この問題をどうクリアするかが大きなテーマになっていくでしょう。

 個人レベルで試すなら、サービスが止まっていたら謝ればいいだけです。こちらについては、すでに使いやすい環境ができつつあるのではないですか。

マッシュアップ・アプリケーションを実際に開発して、運用していくうえでの課題は何でしょう。

 無数にあるWebサービスAPIをすべて把握するのは難しいことです。企業が利用するシステムの場合は、ある程度、投資して、サービスが動いているかどうかを定期的に監視して、止まっている場合はアラートを出す必要があるでしょう。サービスを提供する企業と契約も結んだほうがよい。

 ただ営利企業でない一般ユーザーがマッシュアップ・サイトを作る場合には、こういったことは難しいでしょうね。


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