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本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

オープン・システムの標準化団体,オープン・グループのアレン・ブラウン社長に多種多様なITを使いこなす方法を尋ねた。アレン社長は,「ITの最新動向を幅広くウオッチし,足りないITはベンダーに働きかけて開発してもらい,それを標準化していく。さらに,自社で採用するITを体系立てて整理した,ITアーキテクチャを準備する」と指摘した。

 「情報システム担当者のミッションは,グローバルな競争の中で自社の競争力を高めていくこと。それには,新しいアプリケーションを次々に稼働できるフレキシブルな情報インフラストラクチャ(基盤)を用意する必要がある」。オープン・グループのアレン・ブラウン社長兼CEO(最高経営責任者)に本誌読者へのメッセージを求めたところ,こうした答えが返ってきた。

 アレン社長は,これはオープン・グループのミッションでもあるという。「柔軟な情報基盤は,真のオープン・システム環境なくして実現できない」からだ。真のオープン・システムとは,さまざまなITの間でインターオペラビリティ(相互運用性)が確立していること。「1ベンダーのITだけを使って全システムを構築することは現実には不可能。複数ベンダーのITがきちんと連携して動かなければならない」(アレン社長)。

 オープン・グループには,複数のITベンダーに加え,ユーザー企業も参加し,各種のITの標準仕様を作成,さらにその仕様通りに製品ができているかどうかを検証する作業を通じて,インターオペラビリティの確立に取り組んでいる(図参照)。全体をとりまとめているアレン社長に,柔軟な情報基盤を確立するためのコツを聞いた。

図●オープン・グループにおける標準化の仕組み
図●オープン・グループにおける標準化の仕組み
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提言1:ITの動向を幅広く見る

 「現在はさまざまなITが出回っている。どのITが自社に役立つものなのか,そして利用できる水準のITなのかどうかを検証することが,基盤作りの第一歩。この作業は,ユーザー企業同士が協力して行うべきだ。ユーザーがそれぞれ手分けをして,そのITが業務に使えるものかどうかを検証する必要がある」。

 アレン社長は,「多種多様なITの動向を見極めるには,我田引水だがオープン・グループの動きを見ることが効果的である」と続ける。実際,オープン・グループが標準化に関与しているITは非常に広範囲なものだ。ざっと挙げると,モバイル環境におけるアプリケーション連携,分散オブジェクト技術,インターネット・セキュリティ,ディレクトリ・サービス,運用管理ツールなど(表参照)。

表●オープン・グループが標準化を推進している情報技術分野の例。新規技術,エンタープライズ統合,プラットフォームの三つに大別できる
表●オープン・グループが標準化を推進している情報技術分野の例。新規技術,エンタープライズ統合,プラットフォームの三つに大別できる み

 オープン・グループはこうしたITを手がける主要ベンダーと協力している。気がかりは我が道を行くマイクロソフトだったが,アレン社長は「今後マイクロソフトはどんどんオープン・システムにコミットするようになるだろう。ユーザーも社会もそれを求めているからだ」と見る。

 実際,オープン・グループが進めてきた,インターネットでセキュリティを保つための公開鍵の基盤(PKI)の標準化にはマイクロソフトも参加している。 1999年12月に,エントラスト・テクノロジーズ,RSAセキュリティ,IBMらが立ち上げたPKIフォーラムにはマイクロソフトも参加した。

 さらに,オープン・グループはベンダーだけではなく,さまざまな技術コンソーシアムとも協力している。インターネットのプロトコルを標準化している IETF(インターネット・エンジニアリング・タスク・フォース)や,オブジェクト指向技術の標準化団体,OMG(オブジェクト・マネジメント・グループ)などである。

 IETFやOMGなどが標準仕様を決める。この仕様通りに製品が作られているかどうかの認証作業をオープン・グループが請け負う。オープン・グループは UNIXの標準化を進めていたX /OpenとOSFが合体した組織。UNIXの標準仕様策定と各メーカーのUNIXがその仕様に合っているかどうかを調べ,UNIXブランドを与えるという認証作業を長年手がけてきた。「標準仕様策定と認証のノウハウをUNIX以外にも展開した」(アレン社長)。

 この結果,アレン社長によれば,「オープン・グループはさまざまなITに関するポータル・サイト(窓口)のようになっている」。さまざまなIT関連の団体をユーザーがいちいちウォッチするのは負荷が重い。とりあえずは,オープン・グループで議論されている話題を見れば,世界各国のベンダーやユーザーが関心を持っているITが一通り分かるという。

 扱うITを拡大するとともに,ユーザー企業に参加してもらう努力をオープン・グループは継続してきた。各ITの標準化を議論するプログラム部会のリーダーはほとんどがユーザー企業の情報システム責任者になっている。

 オープン・グループに参加しているユーザーのIT購買力は,全世界のIT購買の4分の1を占めるほどになっているという。各部会では,ベンダーの利害を調整するのではなく,ユーザーからはっきりとした要求を挙げてもらい,その要求についてベンダーとユーザーが議論を戦わせて標準仕様を策定していくよう努めている。

 「例えば,PKIについては,ボーイングなどの先進ユーザーが実際に利用した結果を報告。それをたたき台にさらにPKIの仕組みを改善する議論を進めている」(アレン社長)。したがって,オープン・グループの各部会に参加すれば,「自分が関心あるITのベンダーはもちろん,すでに利用しているユーザーとも議論できる」(同)。

提言2:必要なら標準を自ら作り出す

 「ITの標準化は新しい段階に入っている。始めに標準を決め,それに準じてベンダーが製品を出す動きになってきた。かつてのように,いくつか製品が出てしまってから,標準を決めようとすると難しい。この標準策定は当然,ユーザーが主導すべきだ」。

 1999年11月,オープン・グループは,「アプリケーション・インスツルメンテーション・アンド・コントロール(AIC)」と呼ぶ新しい技術の標準をまとめた。おおざっぱにいうと,AICは業務アプリケーションにおけるトランザクションを,そのトランザクションの重要性に応じて制御するための技術である。単にアプリケーションの稼働を監視するのではなく,重要な価値を生むトランザクションについては優先的に処理をするといった,きめの細かい運用をするための仕組みという。

 AICは大手銀行であるJPモルガンと運用管理ツール大手のコンピュータ・アソシエイツ(CA)によってオープン・グループに提案された。こうした機能を求めていたJPモルガンが1998年6月に仕様作りを始め,1999年はじめにはCAと協力してプロトタイプを完成。これをオープン・グループに提出し,6カ月で承認にこぎつけた。

 アレン社長によると,「BMCソフトウエア,チボリ・システムズ,ヒューレット・パッカードといった大手の運用管理ツール・ベンダーからもAICは前向きな反応を得た。今後,各ベンダーがAICを標準として製品に取り込んでいくことになるだろう」。

 大手ユーザーであるJPモルガンが,自分が使いたい機能をオープン・グループを通じてツール・ベンダーに命じて作らせているようにも見える。しかし,アレン社長は,「AICはオープン・グループに入っている他のユーザーからも,役に立つ機能だと承認された。すべてのユーザーに役立つし,ツール・ベンダーも独自機能を出して孤立することがなくなる」と,全体の利点を強調した。

 「オープン・グループはAICでの実績のように,短期間で標準仕様をまとめるように努力している。いいアイデアがあっても,標準の策定に時間がかかっていては意味がない。日本のユーザーもどんどん提案をして,標準化を後押ししてほしい」(アレン社長)。

 日本でも一部の超大手ユーザーがITベンダーに命じて,自分が欲しい機能を開発させることがしばしばあった。しかし,結局はその大手ユーザーだけの特注品になってしまい,かえって保守費用が高くついた。この繰り返しに懲りた大手ユーザーは最近になって,「この機能を世界標準にしろ」などと外資系ITベンダーに強要するようになってきた。こうしたユーザーはぜひとも,オープンな場に出て,世界のベンダー各社にその機能の開発を呼びかける度量が望まれる。