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金融機関の合併や事業統合に伴う,情報システム統合プロジェクトを成功させるカギは,きっちりしたプロジェクト計画を素早く立てることに尽きる。合併後のあるべき情報システム像を描いてから,そのシステムを実現するための「包括的な」プロジェクト計画をまとめるべきだ。既存のシステムを単に一本化する計画だけではまったく不十分である。

伊藤 誠彦

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行の事業統合,住友銀行とさくら銀行の合併など,1999年は金融機関の大型合併・事業統合の発表が相次いだ年として,我が国の金融史に記憶されるだろう。2000年に入っても,銀行や保険会社,あるいは証券会社などで,さらなる企業再編が加速するに違いない。

 ここで問題となるのは,企業合併・事業統合に伴う情報システムの統合をいかに乗り切るかである。金融機関にとって,情報技術(IT)活用,すなわち情報システムの活用がきわめて戦略的な経営課題になっていることは議論の余地がない。

 ネットワークを活用した新しいサービス・チャネルの確立,新商品・新サービスの迅速な提供など,すべての戦略に情報システムはかかわってくる。それだけに,システム統合で失敗あるいは後れを取るようでは,その金融機関の株価や格付けに甚大な影響を及ぼしかねない。

 本稿では,企業合併・事業統合に伴う情報システム統合プロジェクトを成功させるための方策を検討する。銀行のシステム統合を念頭に置いているが,基本的な考え方は業種・業態を問わず通用するはずだ。銀行以外の他業種の方々にも参考にしていただければ幸いである。

統合の成否は計画段階で決まる

 銀行の合併に伴うシステム統合プロジェクトは過去,いくつかあった。しかし,邦銀をみても,米銀をみても,いくつかの問題点が指摘されている。システム統合それ自体が目的となってしまい,もともとの合併の戦略的意図と情報システムの関連が希薄になってしまった。

 あるいは,ばく大な経費を投入したにもかかわらず,統合システムの価値が高まらないどころか,旧システムの構造上の問題をそのまま引き継いでしまった,などである。とりわけ邦銀の場合,企業戦略としての合併と,情報システム統合プロジェクトの適合が今ひとつであったきらいがある。

 こうした問題点を避け,真に企業戦略に合致した情報システム統合を実施するためのカギは何か。それは,きっちりしたプロジェクト計画を素早く立てることに尽きる。当然のことながら,システム統合もまた一つのプロジェクトである。プロジェクトを成功させるための王道はない。プロジェクトの計画のでき次第で,その成否が大きく左右されるということは周知の事実であろう。

計画作りに欠かせぬ五つの作業

 プロジェクト計画段階の「品質」と「スピード」を保証するために,特に重要となる作業を五つにまとめた(表1)。(1)概念共有,(2)プロジェクト・オフィス,(3)新情報化戦略,(4)包括情報化計画,(5)情報化統治計画,である。

表1●企業合併・統合に伴う情報システム統合プロジェクトを成功させる五つのカギ。きっちりしたプロジェクト計画を素早く作ることに尽きる
表1●企業合併・統合に伴う情報システム統合プロジェクトを成功させる五つのカギ。きっちりしたプロジェクト計画を素早く作ることに尽きる

 「合併までの期間は限られている。計画ばかりいじりまわしていて,本当に間に合うのか」,「むしろ走りながら考えるべきではないか」といぶかる向きもあるかもしれない。しかし,「急がば回れ」ということわざはプロジェクトについて言えばまったく正しい。拙速に統合作業を進めては当初こそうまくいっているように見えるが,この五つの作業のどれかが欠けていると,システム統合は最終的に成功しない。以下,五つの作業を解説する。

(1)概念共有

 合併や事業統合が決まったときに直ちに着手すべきことは,二つの銀行の既存システムの状況を評価し,比較しておくことである。これを概念共有と呼ぶことにする。

 既存システムの評価結果などはすべて文書化しておく。これが統合プロジェクトに参加するメンバーの間で,お互いのシステムに関する共通認識を得るための土台になる。

 そもそも銀行が合併に踏み切るかどうかを決めるにあたっては,事前にお互いの事業内容などを評価する期間(デューデリジェンスと呼ばれる)を設けるのが通例である。デューデリジェンスのときに情報システムについてもきちんと評価しておけばよい。ただ,実際には,特に日本ではシステムの話は後回しになりがちである。お互いのシステムを評価し比較することが第一歩である。

(2)プロジェクト・オフィス

 概念共有と並行して,プロジェクト・オフィスを設置する。プロジェクト・オフィスは,情報システム統合に関する実務組織であり,その目的は3点ある。合併の戦略的目的と情報化戦略を適合させる,各事業部門の間の矛盾するシステム要件を迅速に整理・裁定する,情報システム統合を計画通り完了する,である。

 通常,銀行の合併・事業統合にあたっては,副頭取クラスが委員長を務める「合併準備委員会」あるいは「統合推進委員会」が設けられる。そして委員会の下に,リテール事業,ホールセール事業,人事,情報システムなどに関する検討部会ができる。プロジェクト・オフィスは,各検討部会とは独立した組織で,各部会で議論され決定された事業方針と,情報システムの整合性をとる役割を果たす。

 表2にプロジェクト・オフィスのチーム編成の例を示した。理想は,両行のメンバーを混在させた単一のプロジェクト・オフィスを設けることである。しかし,合併前から混在組織を作ることは現実にはなかなか難しい。各銀行にそれぞれプロジェクト・オフィスをおき,二つのプロジェクト・オフィスが密接にコミュニケーションをとっていくことになる。

表2●プロジェクト・オフィスのチーム編成例。企業合併・統合前から単一のプロジェクト・オフィスを設置することが理想
表2●プロジェクト・オフィスのチーム編成例。企業合併・統合前から単一のプロジェクト・オフィスを設置することが理想

 各チームのメンバーは,情報システム部門出身者が中心になる。ただし,合併に関する各部会と密接な連携をとる必要があるため,現業部門とも話をしやすい企画部門のメンバーを交えることが望ましい。