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サプライチェーン・マネジメント(SCM)は,新たなビジネス・モデルの創造まで含む全社的な経営戦略である。業務改善の活動やそれに伴うIT活用だけを指すものではない。ところが,経営者や情報システム部門はSCMについてさまざまな考えを持っており,しばしば混乱が見られる。経営者とシステム部門が共通認識を持てるように,SCMを解説する。

奥井 規晶

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 筆者が日ごろの経営コンサルティング活動で得た感触では,多くの経営者のサプライチェーン・マネジメント(SCM)に対する考え方は混乱している。「SCMは効率化のための業務プロセス改革とITの活用であり,かつてのTQC活動の延長である。特に目新しいことはない」と言い切る経営者がいる一方で,「SCMは超効率経営を実現する特効薬らしい」と期待をかける向きもある。

 あるいは,「メーカーではデルコンピュータやシスコシステムズ,小売業ではウォルマートなどが成功例で,いずれもネットワークを中心とした膨大なIT投資が不可欠のようだ。予算面でも,要員の面でも当社にできるだろうか」と悩んでいる経営者もいる。

 これらの発言をすべて間違っていると決めつけることはできないが,かなりの誤解が含まれていることは否めない。はっきり言って,コンピュータ・ベンダーのアジテーションと,それを不正確に翻訳した情報システム部門によって,経営者のSCMに対する認識は混乱したのではないか。

 多くの大企業は,SCMの担当部署として情報システム部門をアサインしている。多くの情報システム関連の雑誌がこの1~2年,SCMを主要な題材としている。しかし,本当にSCMはITの問題なのであろうか。

 筆者がSCMに関して経営者や情報システム部門に伝えたいメッセージは次のようなごく簡単なものである。

 「SCMは単なる効率化のための改善活動やIT活用だけを指すのではない。SCMは,ビジネス・モデルの大変革を含めたトータルな経営戦略のことである」。

 すなわち,SCMには三つの側面がある。既存のビジネス・モデルの効率化とIT活用,そしてネットワークを活用して複数企業を結びつけ,新たなビジネス・モデルを創造することである(図1)。筆者はネットワークを活用して新たなサプライチェーンやビジネス・モデルを創造するSCMを,「e.SCM (イー・ドット・エスシーエム)」と呼んでいる。経営者は今こそ,e.SCMについて考えるべきだ,というのが筆者のメッセージである。

図1●サプライチェーン・マネジメント(SCM)の三つの側面
図1●サプライチェーン・マネジメント(SCM)の三つの側面

 ともすれば,三つの側面が混在して語られるので,SCMが分かりにくいものになっている。三つのうち,どの側面に着目してSCMを推進するべきか。これは経営者が判断すべき戦略上の案件である。つまり,経営者にとってSCMとは事業戦略そのものであり,本来なら情報システム部長に「うちのSCMへの取り組みはどうなっている」などと聞いてはいけないのである。

 逆に情報システム部門も,プロジェクトの予算がとりたいからといって,「××というソフトを買えば,SCMができます」などと経営者に提案してはならない。メーカーの売り込み話にのってそんなことをしていると,SCMはSIS,ERP,CSSなどと同様の「ITバズワード(はやり言葉)」となり,そのうち消えていきかねない。