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経営者の視点で考えることが情報システム部門に要求され始めた。IT(情報技術)の投資計画も同じだ。情報システムを中心に採算をはじいた投資計画書は,もはや役に立たない。これからは,ITを使ったビジネス全体で採算性を評価することが肝要だ。そのためには,経営企画部門で使われているのと同じ手法でIT投資を評価しなければならない。

宮本 明美

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 「2001年までに,情報システム部門の上級マネジャの40%は,IT(情報技術)戦略に関して新しい能力が求められるようになる。それは,ITがビジネスにもたらし得る潜在的な価値を見極め,ITを基盤としたビジネス戦略の仮説やその投資対効果を経営企画担当者や経営トップに提案する能力だ。2005 年までに,情報システム部門の上級マネジャの75%にこの能力が要求されるだろう」。これは,IT分野の調査会社であるガートナー・グループが,2000 年2月発行の『調査ノート』で挙げた予測の一つである。

 当然,情報システム部門は経営企画部門などと一緒に事業計画を練る場面が多くなる。ITを利用したビジネスが,「ビジネスとして収益性があるか,ないか」という判断を,情報システム部門自身も考えなければならなくなる。

従来のIT投資計画書は通用しない

 したがって,経営企画部門やユーザー部門が実施している事業計画手法とまったく同じやり方でIT投資計画を立案することが必要になる。業務効率の改善だけをうたった従来の「IT投資計画書」では不十分だ。ITのビジネス上の潜在価値を見いだし,新しい収益源や競争優位をもたらす戦略性を織り込んだ上で採算を見る必要がある。また,ある程度予測できるリスクに対して,それが起こったときの収益性を評価し,対策を練るリスク・マネジメントについても計画書に盛り込まれていなければならない。

 IT投資計画作りのお手本となるのは,経営企画部門などが日ごろから使っている事業計画の立案方法である。事業計画立案の主なプロセスは,次の3ステップに分けられる。(1)ビジネスにかかわるお金の流れ(キャッシュフロー)を予測する。(2)ビジネスの価値(採算性)を計算する。(3)ビジネスのリスク,戦略性を評価する,である。この三つのステップに沿って,今後求められるIT投資計画方法の基本的な手順を説明する。

ステップ1
投資対象のキャッシュフローの予測

 IT投資の評価は,まずはIT投資に伴って発生するキャッシュフロー(お金の流れ)を予測することから始まる。キャッシュフローとは,1年ごとに企業(または事業)に出入りするキャッシュの動きを表したものである。

 この分析のためには,IT投資のキャッシュフロー・モデルを作成する。このモデルは,「IT投資コスト・モデル」と「IT投資効果モデル」で構成する。キャッシュフローは,IT投資効果モデルで計算した金額からIT投資コスト・モデルで計算した金額を差し引いたものである(図1)。キャッシュフローを予測する期間は,意思決定を行う際に情報システムや事業のライフサイクルなどを考慮した上で決めておく必要がある。

図1●IT投資のキャッシュフロー・モデルの基本的な計算方法。当該事業に対するインプットとアウトプットの差に着目すれば,従来よりも効果を見積もりやすくなる
図1●IT投資のキャッシュフロー・モデルの基本的な計算方法。当該事業に対するインプットとアウトプットの差に着目すれば,従来よりも効果を見積もりやすくなる

 IT投資コスト・モデルは,社内・社外を問わず,事業に関連して発生するすべてのコストを基にしている。システムのライフサイクルにわたって,毎年どれだけのコストがかかるのか,時系列のモデルにする。モデルにするのは,単に情報システムにかかるコストだけでなく,情報システムによって実現される事業そのもののコストである。当然,プロモーション費や一般管理費といったものも含まれる。この点が,従来のIT投資計画書の内容とは異なる。事業に必要とされた従来のコストを基に,ユーザー部門の事業責任者へのインタビューを通じて事業全体のコストを見積もることが必要である。

 このうち,情報システムの導入コストについては,従来通りの見積もり方法で計算する。システム導入後の保守料,運用費,ディスク増設やソフトのバージョンアップ料金も含む。コンピュータのハードウエア及びソフトウエアについては,1年ごとのリース料または減価償却費を計上する。

 時間的な変化も考慮しなければならない。例えば,設備費や人件費などの値上がりや,逆に技術の進歩によるネットワーク回線費や追加ハードウエアの値下がりなどである。こういう細かい点にも注意していないと,IT投資コスト・モデルの精度が悪くなる。