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 2000年は3T(テラ)バイトだったデータ量が今は56Tバイトにまで膨れ上がっている──。製薬大手ファイザーにおけるデータの増加状況だ。「ビジネスの拡大とともにデータはもちろん,アプリケーションも増えている」とCITソリューション&エンジニアリング部システムサポート課の町田裕一担当課長は説明する。建設機械や自動車などの総合リースを展開する興銀リースも「システムによるが,社内のデータは年間で平均10~15%増えている」(情報システム部の蛭田祥史IT担当部長)という。

 データが増えている理由は,(1)業務のシステム化が進み扱う電子データが増えた,(2)画像など扱うデータのサイズ自体が大きくなった,(3)顧客とやりとりしたメールなどコンプライアンス(法令順守)の観点から捨てられないデータが増えた──ことなどが挙げられる。EMCジャパンの古谷幹則執行役員は「デジタル情報の量は2010年に現在の6倍以上に膨れ上がるという調査会社の報告もある」と警鐘を鳴らす。

高速ネットとハードの進化が常識を変える

 データの増加と歩調を合わせるかのように,それを蓄えるストレージは大容量化や高性能化,高機能化が進んでいる。ディスクは記録密度が向上し,数Tバイトのストレージが珍しくなくなった。CPUの高速化やメモリーの大容量化で処理性能も向上。ストレージが備える仮想化機能を使えば,異なるメーカーの複数ストレージをネットワーク越しに仮想的な一つの記憶領域として統合,管理することまでできる。

 こうした進化によって,増え続けるデータを扱うストレージ・ネットの構築方法が大きく変わりつつある。具体的には,(1)ファイル・サーバー,(2)データベース・サーバー,(3)ネットワーク・プロトコル,(4)データの配置方法,(5)災害対策システムの五つの領域で新たな常識が芽生えてきた(図1)。今回から5回にわたって,これらの新常識を見ていく。

図1●ストレージ・ネット構築の五つの新常識
図1●ストレージ・ネット構築の五つの新常識
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低価格NASを使いこなす

 第1回は,(1)のファイル・サーバーの用途で使える低価格NASを取り上げる。最近はディスクの低価格化が著しく,1テラバイト10万円を切る製品が増えてきた。「今まで,数Tバイトの容量を持つストレージはハイエンド製品しかなかったが,低価格の大容量ディスクが登場し,1T~2Tバイトのストレージを安価に導入できる時代になった」(大塚商会 マーケティング本部テクニカルプロモーション部ハードプロモーショングループの野尻英明スペシャリスト)。

 1テラ当たり数万円の低価格NASは主に個人の利用を想定したもの。ただ,複数ディスクを利用してデータの冗長化や処理の高速化を図るRAIDに対応する製品もあり,用途によっては企業でも十分利用できる。バッファローやロジテックのように企業での利用を想定してオンサイトの有料保守サービスを提供するベンダーもある。

気兼ねなくデータをため込める

 低価格NASの活用例は主に三つある(図2)。最も需要がありそうなのは,大容量ファイルの受け渡しや一時的な格納の用途だ。企業で扱うデータの容量は徐々に大きくなっており,大容量ストレージに対するニーズは高まっている。この結果,「高速でなくても構わないからユーザーが気兼ねなくデータをため込めるストレージとして,部門単位で(低価格NASを)導入するケースが増えている。従来のように,ユーザーごとに利用できる容量を制限して定期的にファイルを消してもらうといった運用は不要になる」(バッファロー 市場開発本部NAS事業部開発グループの實方淳プロダクトプランナー)。

図2●低価格NASの活用例
図2●低価格NASの活用例 
大容量ファイルの一時的な格納やファイル・サーバーの二次バックアップ先などの目的で導入しているケースが多い。導入コストが抑えられるので,クライアント・パソコンのバックアップ用途にも使える。
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 ディスク・バックアップの用途にも向く。ただ,「大手メーカーのバックアップ・ソフトに対応していない製品が多い。各社が独自のバックアップ・ツールを提供しているが,途中で問題が起こっても原因が分からず,やり直しになる。処理速度も遅く,バックアップに時間がかかる」(あるインテグレータ)といった指摘もある。一次バックアップ先ではなく,二次バックアップ先と考えた方が良さそうだ。バッファローの實方プロダクトプランナーによると,「二次バックアップ先としてテープからディスクのバックアップに切り替えるユーザーは多い」という。

 クライアント・パソコンのバックアップにも有効だ。低価格NASの多くは,フォルダやファイルを指定してクライアント・パソコンに保存したデータを定期的にバックアップできるツールを付属している。ディスク・イメージごとバックアップするツールを利用すれば,クライアント・パソコンのハード・ディスクの故障にも即座に対処できる。これまではストレージが高価だったのでクライアント・パソコンのバックアップまでは手が届かなかったが,低価格NASの登場で実現しやすくなった。

性能や信頼性はあまり期待できない

 安価で便利な低価格NASだが,注意点もある。性能や信頼性,機能はあまり期待できないことだ。一般にストレージは,容量が同じでも製品によってディスク・アクセスなどの性能や実装部品の信頼性,運用管理機能などが大きく異なる。

豆知識1 面倒なユーザー登録は不要
バッファローの低価格NAS「TeraStation」は外部の認証サーバーと連携できる。この際,面倒なユーザー登録作業を割愛できるケースがある。具体的には「認証テスト用共有フォルダ」を作成する。ユーザーがこの共有フォルダをダブルクリックすると,外部の認証サーバーに問い合わせ,認証に成功した場合はユーザー名を自動登録する。ユーザーが接続した時間,フォルダやファイルの操作ログ(作成/変更/削除)を取得することも可能である。

 性能を重視した製品は,高速なCPU,大容量のメモリーやキャッシュ,回転数の速いディスクを搭載するなどしてディスクの読み書きの速度を高めている。また信頼性を売りにした製品は,データを複数ディスクに書き込む機能やディスクの二重障害に対応できる機能を搭載するほか,電源やファン,LANポート,ディスク・コントローラなどを冗長化して可用性を高くしている。さらに「耐久性の高い部品を利用しており,故障率も低い。何千万件のデータを常に検索するような読み書きが激しい用途にも耐えられるように設計されている」(NTTデータ先端技術 データベースソリューションビジネスユニット長の青木俊一・基盤ビジネス事業部長)。

 機能面では運用管理やセキュリティ対策機能などに違いが出る。運用管理はバックアップや障害の分析機能,セキュリティはデータの暗号化や改ざん防止機能などだ。

 この点,低価格NASは性能や信頼性を過度に追求せず,機能を絞ることで低価格を実現している(図3)。個人向けだけでなくSOHOや中小企業向けに低価格NAS「TeraStation」を販売するバッファローは「(TeraStationは)信頼性を高めるために個人向け製品とは異なるパーツを利用するなどして法人向けに作り込んでいる」(市場開発本部マーケティング部の中村智仁マーケティンググループリーダー)と説明する。とはいえ,低価格を実現するために「ある程度のところで割り切っている。本格的に事務処理計算を実施するような用途には向かない。機能もWindowsのファイル・サーバーに比べて劣る」と中村リーダーは続ける。

図3●低価格NASとエンタープライズ向けNASの違い
図3●低価格NASとエンタープライズ向けNASの違い
低価格NASは製造コストを抑えるため,搭載する部品の信頼性や機能を必要十分に抑えている。一方,エンタープライス向けNASは性能や信頼性を重視しており,価格は高い。

 インテグレータの中には「万一データが消えたら取り返しがつかない」として低価格NASを提案しないところも多い。それでもこうした特徴を理解していれば,低価格NASはデータ洪水の防波堤として活用できるだろう。