NASの用途はファイル・サーバーだけではない。運用管理のしやすさを評価して,これまでSAN対応ストレージを利用するのが一般的だったデータベース用途で導入する動きが出てきた。こうした使い方を「DB on NAS」と呼ぶ。従来は性能が問題視されたが,ハードウエアの性能向上で状況は変わりつつある。NTTデータ先端技術の青木事業部長は「性能の要件が見合えばDB on NASを導入する価値は十分にある」と評価する。実際,NTTデータの社内基幹システム「INFOGRID」の一部でDB on NASを採用。社外向けのインテグレーションでも約30システムの導入を手がけた実績があるという。
ハードウエアの向上で適用範囲が広がる
SANとNASはいずれもストレージ用途ながら,仕組みと管理方法は大きく異なる(図1)。SAN対応ストレージは専用の管理ソフトを使わなければ中身が分からず,管理には専門知識が必要になる。ボリュームとサーバーは1対1の接続となり,サーバー間のデータ共有に手間がかかる。
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図1●SANとNASの違い
NASの特徴はストレージ上にファイル・システムがあり,ネットワークを介したボリュームの共有を前提としている点にある。これに対して,SANはファイル・システムがなく,基本的にボリュームとサーバーが1対1の関係になる。 |
一方,NASはファイル・システムを搭載しているので,ストレージに詳しくなくても管理できる。「SAN対応ストレージの場合はボリュームを変更するだけでも大変だが,NASはベンダーのSEに依頼しなくても容易に構成を変更できる。自社で運用管理をしたい企業に適している」(NTTデータ先端技術の青木事業部長)。ネットワークを介した共有が前提なので,サーバー間のデータ共有も容易だ。
注意したいのは,SAN対応ストレージに比べると,現状のNASは性能が劣ること。「元々SAN対応ストレージはメインフレームなどの基幹システムでの利用を想定しており,ファイル・サーバー用途を想定したNASとはキャッシュやディスク・コントローラの使い方が違う」(NTTデータ先端技術の青木事業部長)。
ネットワークが違うことも性能に影響を与えている。NASの場合「性能を出すにはNFSの設定をチューニングしたり,LANポートを束ねたりするなどの工夫が不可欠」(同)。一方,SAN対応ストレージは最大4Gビット/秒のファイバ・チャネル(FC)を使い,内部バスを延長したイメージで接続できる。「NFSやCIFSを使うNASは,ネットワークの帯域をフル活用できない。正直,FCとの性能差は2~7倍の開きがある」(同)。
それでも最近はNASのハードウエアの性能が上がっている。これに管理が容易である点が評価されて適用範囲が広がってきた(図2)。
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図2●DB on NASの導入メリットと注意点 NASなので安価な製品が多く,他サーバーとのデータの共有が容易だが,処理性能はファイバ・チャネル対応ストレージに比べて劣る。 |
基盤システムに適用する例も登場
DB on NASの事例を紹介しよう。大手インターネット接続事業者(ISP)のぷららネットワークスは,インターネット接続回線の認証システムのデータベースに日本ネットワーク・アプライアンスのNAS「NetApp FAS3000」を採用した(図3)。ISPである同社にとって,認証システムの停止は絶対に許されない。データベースには米オラクルの「Oracle Database 10G」とクラスタ・ソフト「Oracle RAC」(Real Application Clusters)を採用し,2台のサーバーを常時稼働の“Active/Active”構成で動かしている。
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図3●Oracle Database10GとOracle RACのストレージにNASを導入したぷららネットワークス
NASはディスク障害や拡張時の作業が容易で,コストが安い点を評価した。パフォーマンスに不安があったため,事前に性能を検証して問題がないことを確認した上で導入した。 [画像のクリックで拡大表示] |
このような重要なシステムにNASを採用した理由は,(1)自社で運用管理できる,(2)SAN対応ストレージに比べて導入コストが安い,(3)十分なパフォーマンスが出る──の三つ。(1)の運用管理は「障害時の対応や拡張の作業が自社でできる」(ネットワーク管理部の長谷部勇マネージャー)ことだ。一般に技術者個々のスキルは一律ではないが,それでも24時間365日の安定稼働は実現しなければならない。「障害が起こった際に専門家でなければ対処できないとなると,復旧に時間がかかることになる」(同)。(2)の導入コストは,「SAN構成に比べ,NASの方が20%から50%安かった」(同)。
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(3)のパフォーマンスは,導入前に入念な検証を実施した。同社のインターネット接続サービスに加入しているユーザーは約233万人(2007年3月末時点)。ピーク時の処理は400トランザクション/秒にも及ぶ。検証した結果,目標とした1200トランザクション/秒を上回り,最低でも1900トランザクション/秒は処理できることが分かった。「SAN構成の方が性能が高いのは事実だが,NASでも十分なパフォーマンスが出る」(長谷部マネージャー)と評価している。