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 7月20日,経済産業省が設置した人材育成ワーキンググループ(有賀貞一委員長)の最終報告会が開催された。ここで説明されたのは,同WGが4月に公表した案に対するパブリックコメント(一般からの意見)を反映した,最終版の報告書。しかし,「情報処理試験制度やITSSはこう変わる!」というニュースで報じた通り,最終報告案そのものに詰めの甘さがあったうえ,寄せられたパブリックコメントが合計129件と多かったこと,事務局を務めていた経産省情報処理振興課の人事異動が7月上旬にあり,主な関係者が入れ替わったことなどから,少なくない粗さが残るものになった。

 では,どんな点に粗さがあるのか。報告書の内容は多岐にわたるため,情報処理技術者試験制度の抜本改定案や3つのスキル標準(IT技術者向けのITSS,組み込み技術者向けのETSS,ユーザーの情報システム部門向けのUISS)との整合性に関する議論に絞って紹介しよう。まず情報処理技術者試験制度は既報の通り,現在のものを改定して,エントリ試験,基礎試験,ミドル試験,高度試験という試験制度にする。それぞれが3つのスキル標準のレベル1,2,3,それに4の一部に相当する。

 粗さの一つは,エントリ試験に関わるものだ。合格すればレベル1と認定されるエントリ試験に関し,パブコメに対する回答において「エントリ試験は職業としてシステム化を図る人材ではなく,社会人一般としてシステムやITを利用して業務を遂行する人材を念頭に置く」と明記された。この結果,4月の案ではあいまいになっていた,「エントリ試験はITSSやETSSのレベル1を認定するのに果たして妥当なのか」という疑問が,改めて浮かび上がったのだ。例えばITSSではレベル1を「上位者の指導の下,チームメンバーとして担当領域に関わる一部の業務を実践できる」と規定している。

 エントリ試験に関しては,その創設に伴って基本情報処理技術者試験の次に受験者が多い初級シスアドを廃することへ危惧を呈する声も少なくない。収入面で試験制度を維持しにくくなるのでは,というものだ。実際,初級シスアドの応募者は今春実績で6万4000人強。受験料は5000円なので3億円を上回る収入になる。ところが理想はともかく,新試験制度はスキル標準との関連からも分かる通り,客観的に見るとIT人材向けの色が濃い。最悪の場合,受験者が激減し,試験運営側にとっては大幅減収になる恐れがある。これに対する経産省の考えは,「ITを利用するすべての人を対象にし,受験者が広がることを想定して制度設計をしている」というものだが,思惑通りいくかどうかは不透明だ。

 ほかにもCBT(コンピュータによるテスト)化や,合否ではなく点数制にするといった課題も,エントリ試験については指摘されている。例えば,CBT試験ではいろいろなソフトやデータが入っている可能性のあるPCを使うわけにはいかないため,試験専用のPCを設置した受験設備(部屋)が必須。数年前に基本情報処理技術者試験のCBT化を検討・断念したときの理由も,そうした設備の確保が困難だったからとされる。当時に比べ,PCの価格や通信回線の料金が安くなったとはいえ,5000円という受験料のままで,そういった設備を常設で確保できるのかどうか。詰めはこれからだ。点数制にしても「合否」ではない分,受験者にとっての分かりにくさが残るうえ,場合によっては何度も受験しなければならないという不自由さがある。

 スキル標準のレベル2,3と認定するための“十分条件”と位置づけられた基礎試験(現・基本情報処理技術者)とミドル試験(現・ソフト開発技術者),それに高度試験については,今のところパブリックコメントを含めて大きな疑問は出ていない。「スキル標準のレベルでは実務経験も重視される。それを判定できる試験問題を本当に作れるのか」という疑問がある程度だ。これに関してある関係者は,「過去の試験問題のどれに,どういった受験者が合格しているのかというデータが蓄積されている。例えば業務実績を積んでいる人しか合格できない試験問題が分かっているので,そういった問題を作ることは可能」という。

 一方,制度全体を眺めると,別の粗さが顔を出す。一つは「スキル標準のレベル5以上は“試験の合否”に関わらず,業務経験や面談等で認定」となっていること。レベル4までが試験合格を必須としているのに対し,5以上は必ずしも受験の必要がないというのは不自然だ。レベル5以上であっても知識が不要ということにはならない。不公平感をなくす意味でも,高度試験の合格を必要条件とすべきである。

 また現行の試験制度にあるユーザー企業側人材向けの試験が,少なくとも名前の上で完全になくなるのは問題とのコメントもあった。上級システムアドミニストレータや情報セキュリティアドミニストレータ試験がそれだが,これについて人材育成WGのある委員は「新しい試験制度をどうやってユーザー企業に売り込んでいくのか。浸透しないのでは」と語る。委員でさえこう話すのは,議論に詰めの甘さが残っている証左だろう。

 もう一つ,パブコメの中で「(レベル認定を行う)人材制度のある会社については,再度,試験を受けることなく,認証できるスキームを提供して欲しい」という趣旨の意見があった。これに対し,経産省の回答は「試験はあくまでレベル評価の可視化のための,一つのツール。必ずしも試験合格をレベル評価の必須項目とするものではない。どう活用するかは各社の判断事項」というものだった。この回答自体は妥当といえるが,そうするとレベル1~3について試験合格を十分条件としたことと,矛盾が生じてしまう。

 このほか,政府調達における人材要件の明示(レベル5以上のプロマネを入札の要件とするなど),変化の早いIT分野における試験合格者の更新制度の導入,技術士(情報分野)やITコーディネータの位置づけ,などについても議論が不十分なまま終わった感がある。このうち更新制度は「情処試験は資格試験ではなく,能力認定試験であるという理由から導入しない。同一試験を受け直すことは可能」(パブコメへの回答)とされたが,それで試験制度への信頼が担保されるのか,IT技術者の受験意欲を喚起できるのか,といった疑問は残る。なお試験の資格化(業務独占)については,明確に棚上げとなった。

 とはいえ,人材育成WGで議論されたテーマは膨大かつ包括的。関係者の懸案となっていた試験制度の抜本改革をスタートさせたこともはじめ,同WGおよび経産省の功績は非常に大きい。現時点での案に粗さが残るにせよ,何もしないとか,無難すぎる案しか提唱しないのに比べると,はるかにましだ。問題は,同WGの最終報告書を受けて具現化を担うIPA(情報処理推進機構)や新設の産学官連携協議会が,残された課題をどう解消し,高度なIT人材が自律的に増加するような制度を構築できるかどうかにある(関連記事)。

 それを支援する意味も含めて,ITpro読者の方々には,現在実施中の「スキル調査」に,ぜひ協力していただきたい。この調査では,被調査者が保有するIT関連資格(認定)を聞いており,ある資格を保有している人のスキルがITSS,あるいはETSSに照らして,どの程度かを調べられる。こうした情報が,試験制度,および3つのスキル標準をより良いものにするために欠かせないからである。