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 現在,国内でフェムトセルの市場投入を表明している事業者は,ソフトバンク・グループとNTTドコモの2社だ。

 ソフトバンク・グループは6月末にフェムトセルの実証実験開始を発表。7月頭には協力ベンダー8社と共に,報道陣向けにその取り組みを披露した(関連記事)。2008年春の商用化を目指す。

 一方のNTTドコモは,7月半ばにフェムトセルの開発を発表(関連記事)。既に実用化済みの小型基地局をさらに小型化・低価格したもので,ソフトバンク・グループよりも半年早い2007年秋の実用化を見込む。

 NTTドコモのフェムトセルのスペックとソフトバンク・グループがベンダー各社に提出した要求仕様を比べると,基本スペックはとてもよく似ている(表1)。いずれも同時通話数は最大4であり,電波の送信出力も最大20mWと同じ。共に半径数十メートルのエリアをカバーする。ソフトバンク・グループが最初からHSDPA対応としているのに対し,NTTドコモは後からソフトウエア・アップデートによってHSDPAに対応する以外は,ほぼ同じ基本スペックと言える。

表1●NTTドコモとソフトバンク・グループのフェムトセルのスペック
  写真1 写真2
  NTTドコモの
フェムトセルのスペック
ソフトバンク・グループの
フェムトセルの要求仕様
通信方式 W-CDMA
ソフトウエア・
アップグレードで
HSPAに対応可能)
HSDPA 7.2Mビット/秒
(HSUPAのサポートも)
最大同時通話数 4 4
周波数帯域 2.1GHz 2.1GHz
最大送信出力 20mW 20mW

 ただNTTドコモとソフトバンク・グループがそれぞれ描くフェムトセルの活用方法はかなり違ったものとなっている。同じフェムトセルという技術を使っていても,エンドユーザーから見た両社のサービス像は,まったく別物に見える可能性がある。

あくまで基地局扱いのドコモと,新サービス導入を狙うソフトバンク

 まず大きく異なるのが両社の戦略の違いだ。NTTドコモはフェムトセルをあくまでエリア拡大のための超小型基地局として扱うのに対して,ソフトバンク・グループはフェムトセルによって新たな通信サービスを形作ろうとしている()。

図●NTTドコモとソフトバング・グループのフェムトセル戦略の違い
図●NTTドコモとソフトバング・グループのフェムトセル戦略の違い
ドコモはフェムトセルをこれまでの基地局を小型化し,効率良く屋内のカバレッジを広げるツールとして位置付けている。一方のソフトバンクは,フェムトセルを新サービス導入のための戦略ツールとして活用する考えである。
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 NTTドコモは,フェムトセルをドコモの設備として家庭内に設置し,あくまで既存の基地局と同じように運用する。NTTドコモの尾上誠蔵・無線アクセス開発部長は,「家庭内のカバレッジを広げるために,数年前からフェムトセルの開発を進めていた」と語る。フェムトセルをマンションの高層階や地下など携帯電話の電波が届きにくい「不感地域」の解消に活用する意向だ。

 現行の法制度ではフェムトセルと携帯電話網をつなぐ伝送路にフレッツなどの家庭用ブロードバンド回線を使えないため,ドコモが光ファイバ専用線が用意する形になる。既存の基地局と同じ扱いであるためドコモのフェムトセルはアクセス制限などは設けず,どんなユーザーでも接続できるという。

 一方のソフトバンク・グループは,もちろんドコモと同様にフェムトセルを家庭内カバレッジの改善ツールとして活用する考えを持つが,それだけに止まらない。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役員兼CTOは「本当にやりたいのはフェムトセルとホームサーバー機能を一体化し,家庭内のデジタル機器に様々なインターネット・サービスを提供していくこと」と強調。新たなサービス導入の足がかりとして戦略的に活用したい考えを示す。

 同社はフェムトセル導入による料金面でのメリットについても触れている。月額980円で話し放題となる同社のホワイトプランは現在,トラフィックが集中する21時から午前1時の時間帯は定額の対象外だ。しかし,フェムトセルの導入によって「この制限を取る可能性がある」(宮川CTO)という。

 フェムトセルの扱い自体もドコモのように自社で管理・設置するのではなく,ユーザー自身が設置する形を考えているようだ。現状では制度面の制約からそれはできないが,総務省へ制度改正を働きかけるという。ソフトバンクモバイルの宮川CTOは「フェムトセルは,こちらからお願いして家庭内に置いていただく形からスタートするだろう。価格は当初は無料が望ましい」と語る。場合によっては,Yahoo! BBの開始時にモデムを配布した時のように,フェムトセルを街中で配布するケースも出てくるかもしれない。また家庭に設置したフェムトセルは,ドコモのように誰でもアクセスできるのではなく,利用ユーザーを制限する形を考えているという。

 フェムトセルと携帯電話網をつなぐ伝送路は,商用のブロードバンド回線の利用を見込んでいる。こちらも現状では制度面から利用できないが,制度改正した上で可能にしていきたいとしている。同社のフェムトセルのトライアルでも,Yahoo! BB ADSLサービスなどの商用のブロードバンド回線を使った接続実験を進めている。宮川CTOは「いずれはNTTのBフレッツとも接続できるようにしたい」と,他キャリアの伝送路も積極的に活用したい考えを示す。もっともNTTドコモも商用のブロードバンド回線の利用に技術的な問題はないため,「将来的にはBフレッツの利用も検討していく」(NTTドコモの尾上部長)という。

 まとめてみれば,NTTドコモが現行の制度に沿った形で,あくまで基地局としてフェムトセルを運用開始するのに対して,ソフトバンク・グループは制度改正を考えた上で,フェムトセルで新しい通信サービスを形作ろうとしている。ソフトバンク・グループが考えるフェムトセルを実現するには,制度面での課題のクリアが最も大きな壁になるが,この点については本連載の第5回で詳しく述べる。

アーキテクチャの違いがサービスに反映されることも

 なお両社の間では,ネットワーク・アーキテクチャが異なる可能性もある。ドコモのフェムトセルはIP伝送路を使えるようにした以外は,既存基地局と同じ扱い。音声もデータも携帯電話網経由で他の通信網に中継される。本連載の第2回で紹介した,携帯電話網との接続方法の(1)Iub over IP型が,NTTドコモが採用するフェムトセルのアーキテクチャに該当する。

 これに対してソフトバンクは,携帯電話網の制御機能をフェムトセルに装備して,携帯電話網を経由せずにインターネット接続させるといった柔軟な運用を図ろうとしている。おそらく接続方法の(3)崩壊(collapsed)型が,ソフトバンク・グループが有力候補としているアークテクチャだろう。

 両社のアークテクチャの違いは,柔軟なデータ・トラフィックの制御の有無となって現れる。これがサービスの違いに反映される可能性もある。