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 『熱血!第三営業部』を再開します。受注実績が評価され、今年度下期に第三営業部は事業部に昇格しました。SEも加わり、製販一体でユーザー企業を直接開拓するプライム営業に臨みます。昇格者も出て、ますます気合が入る旧メンバーですが、SE部隊との間に微妙なあつれきが出始めているようです。さっそく、坊津君の怒号とも哀願ともつかない大声が聞こえてきました。


「なんで見積もってくれないんですか?」
「SEの稼働時間が取れないからです」
 坊津主任が必死に愛須第一開発課長のデスクで食い下がっています。
「いいですか、課長。見積もりがないとですね、提案ができません。提案ができないと受注ができないんです」  
 右手に持った資料を振り回して声を上げる坊津君。
 ディスプレイから顔を上げず愛須課長は答えました。「そんなことは、あなたに言われなくても分かってます。坊津さん」
「じゃあですね…」
 初めて顔を上げたと思うと、課長は人差し指でめがねをキリッと上げて、「この話はここまで。いまから品質保証会議ですから」と言いながら立ち上がりました。
「では、失礼」
 立ち上がると仕立ての良いタイトスカートのダークスーツ。実際より背が高く見えるのは華奢な体格のせいでしょうか。ヒールの音とコロンの香りを残して、坊津君の前を通り過ぎていきました。
 その後姿を見送ってつぶやく坊津君。
「なんだよー。もう間に合わないよー。どうすりゃいいんだ? やっぱ、氷の課長ってマジだったんだ。でも、ここまで冷たいとは…」
 怒りを通り越して半泣きの坊津君の横で、鼻をヒクヒクさせる巨体の男がいました。
「うわ。竜一郎さん!」

(イラスト:尾形まどか)

 第二開発課の松本課長です。第三事業部は営業7名、開発が約20名ですが、松本姓が多いからか、呼びやすさからか、みんなはこの人を「竜一郎」とか「竜ちゃん」と呼びます。若手はその威嚇ある風貌と技術力に親しみと敬意をこめて「竜一郎さん」と呼んでいました。
「デカイのに、音もなく近寄ってこないでくださいよー。びっくりするじゃないっすか」
「いいコロン使ってるなあ。さっすが、愛須課長。お前知ってるか? アルマーニだぜ」
「知らないっすよ。」
「バカ、それくらい知らなきゃ営業としてイカンぞ」
「それより竜一郎さん、聞いてくださいよ」
「どうした。相談なら今夜雀荘で聞いてやる。がははは」
「ちょっと待ってくださいよ。俺、あの、ああ…。マジかよ。行っちゃったよ。品質保証会議は大事かもしれないけど、受注がなきゃ保証するもんがないだろう!」
 一人ぼっちで立ち尽くす坊津君でした。

 そのころ、猫柳君と内藤課長代理は営業部のオフィスにいました。
「そうですか。分かりました…。また電話いたします」
「どうしたネコ」
「ブルドッグ自動車さん、あれから会ってくれないんです」途方にくれて受話器を置く猫柳君に内藤課長代理が話しかけます。
「ま、そういうときはまず行け、だな」
「僕もそういう気がするんで電話をかけてるんですけど、アポがとれないんですよ」
「だから、『困ったときは現場に行け』だってば。中田部長なら間違いなくそう言うね」
「あ、そうか。『考えてから動け、それが無理なら動いて考えろ』でしたね」
「そういうことだよ、猫柳君。作戦が立てられないのは情報が少ないからだ。そういうときはまず動いて情報を得る…by中田部長」

 そういった内藤課長代理の言葉尻に続けて猫柳君が茶化します。「作戦が立てられないのは情報が少ないことが原因ではなくて、俺の脳みそが少ないからじゃねえのか…by坊津」
「あ、告げ口しますよ。猫柳君」プッと吹きだしてしまった内藤課長代理でした。
 くるっと椅子を内藤課長代理の方に向けて、猫柳君は聞きました。
「ところで、中田部長はどこに行ってるんですか?」
「あ、ああ。アメリカとヨーロッパだって言ってたね」
「出発が去年の仕事納めだったから…もうそろそろ2週間ですよ。ぜんぜん帰ってこないじゃないですか。というか、今年はまだ顔を見てないし。帰国予定はいつなんです?」
「それは僕も分かんないんだよ」
「で、何しに行ってるんですか?」
「いや、それも…僕には…。まぁ、メールも、電話も通じるしね」

 そこに坊津君が帰ってきました。ドカッと椅子に座ると「あー、もー、チキショー、アタマくるなーもう」とまくし立てます。
「なんでそんなに荒れてるんですか? 坊津さん」と猫柳君。
「氷の女課長だよー」
「坊津くん、それはセクハラ発言になりかねないよ」とたしなめる内藤課長代理。
「俺たち、事業部になってどうなんだ? 仕事は楽になってるのか? 第三営業部は事業部になった。俺と桜井は主任になった。内藤さんは課長代理、中田課長は営業部長になった。でも仕事はどうなんだよ?」
「まず営直案件(営業が自社のSEを使わず、直接外部ソフトハウスを活用する案件を、この会社ではそう呼んでいる)扱いがなくなったのが、大きな変化ですね」
「そうなんだよな、ネコ。って、なんか評論家みたいだな。お前、なんでそんな冷静なんだよ」
 猫柳君の椅子を蹴る坊津君です。
「もう、愛須課長に無視されたからって、ぼくに八つ当たりしないでくださいよー」
「そりゃ内部のSEに仕事をお願いしたほうが、品質面で安心だよ。坊津君」と内藤課長代理。
「今までSEが相手にしてくれなかっただけじゃないですか。僕らが見積もり頼んでも『どうせ取れないから見積もらない』って」
「だから僕たちの営業力が認められて事業部になった。今後は社内開発できるようになったわけじゃないか」
「ところが今度は『忙しいから見積もりできません』だって! いったい僕にどうしろって言うんですか?」

 坊津君は続けます。
「これなら協力会社と直接やったほうがいいですよ。そのほうが受注も売り上げもガッチリ上がりますって」
「うーん…今まで数件の案件しかなかったから、協力会社も僕たちから直接オペレーションできたけど…」
「それはどういう意味ですか?」
 そこに1本の電話が入りました。
「はい、第三事業部。桜井さん、お疲れ様です。僕、ネコですよ。えっ、なんですって? 楽多ソフト開発が…」
「楽多ソフトって菅原機械の開発をお願いしてる会社ですか? 内藤さん」と坊津君が聞きます。
「そうだ。なんかさっき血相変えて桜井が飛んで行ったんだが…」

 数時間前のことです。
「おっかしいなあ」リエピーこと後藤さんが何度も受話器をガチャガチャやってます。
「どうしたの、リエピー」
「あ、桜井主任。楽多さんの電話番号、変わりました?」
「ちょっと待って。どうなの? 楽多さんはちゃんとやってくれてる?」
「はい、毎回打ち合わせに出てますが、良い仕事をしてくれてます。もうすぐ単体テストなんで、打ち合わせ回数は減ってますが」
「うちの最後の営直案件だからね…。あった。これかな」
「あれ? これさっきからかけている番号ですよ」
「出ないの?」「はい」
「…ん。そうか。じゃ番号の末尾を変えてかけてごらん。ソフト会社っていうのはね、人の増減が激しいから部署ごとの電話番号はしょっちゅう変わるんだよ。それで、だめなら代表にかけてみて。末尾はゼロだよ。多分」
「気配りの桜井って言われてますけど、本当に桜井さんは細かいことに気がつきますね、あたしも見習おうっと…あれ」
「どうした?」
「かかりません。」
「なに?」
「末尾を変えても、ゼロも、なんにもかかりません。だれも出ません。引っ越したんですかね?」
「そんなバカな…。まさか」
「まさかってなんですか?」 桜井の真っ青な顔に気づいて笑顔が消えたりえぴーです。
「ひょっとして…どうしたらいい? 困ったときは…」
「現場に行け!」 声をそろえて2人は鞄と上着をひっつかんで出て行きました。
次回に続く

今号のポイント

 とかくシステムインテグレータの営業は、自分たちの仕事を商社的に理解しがちですが、ソフト開発は労働集約型の産業です。そして、装置産業と同じように稼働率管理(この場合はSEの稼働率管理ですが)が、事業利益に影響することも理解しないといけません。

 営業経費などから逆算して、自社SEの稼働だけでは売り上げが足りない場合、つまりCがマイナスの場合、協力会社のSE確保が必須となります。このCに対する戦略、つまり自社SEの確保数と付加価値、外注する協力会社の事業計画などを理解し戦略を立案することが、「どう売っていくか」「どう開発するか」に次ぐ、第3のテーマになるわけです。顧客とのリレーションに加え、内部調整と与信管理が新シリーズ『熱血!第三営業部 新たなる挑戦』のテーマです。

油野 達也
自らもトップ営業として活躍しながら、自社の営業担当者だけでなくパートナー企業の若手営業、SE転身組を長期にわたり預かる育成プログラムに尽力。ITコーディネータのインストラクター経験もあり。