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 中堅・中小ユーザーでも一般の独立企業とグループ傘下にある子会社では、たとえ企業規模が同じでも業務特性が大きく異なる場合が多い。親会社と子会社との関係まで考慮したシステムを提案しなくてはならないし、親会社の“受け皿会社”といった立場の企業もあるため、極めて慎重かつ柔軟な姿勢が求められる。

 筆者は長年、大手製造メーカーで電子機器の開発・設計者としてシステムを利用する立場にあり、その後はグループ会社の代表取締役として、販売・生産・経理関連のシステム構築を経験した。

 そこで今回は、ある一部上場会社の100%子会社であるA社のシステム化の事例を基に、ソリューションプロバイダに対する見方など発注側から感じたことを述べたい。グループ企業の子会社の場合、同じような規模の中堅・中小企業でも独立企業とは攻略法が少し異なるようである。

図●今回のシステム構築にかかわったA社メンバーからのITベンダーに対するコメント
図●今回のシステム構築にかかわったA社メンバーからのITベンダーに対するコメント

親会社との関係をどこまで視野に入れるか

 A社は年商50億円で従業員は約200人である。創立から40年が経過しており、6年前には電子機器の設計・製造・販売会社とソフトやデザインなど製造を伴わない設計会社と合併していた。新しくなったA社は小回りの良さを売り物に親会社の仕事を70%こなし、扱う製品は少ロットではあるが繰り返し生産や受注生産による品目が混在している。生産を伴わない人材派遣ビジネスも行っている。親会社の受注残を処理するための“受け皿会社”といった性格もあり、管理する部品数は約40万点に上り、生産品目数は約4000種類にもなるという。

 システム面では、電子メールやインターネットなどはセキュリティ対策の一環で親会社の管理下で運用されていることが特徴だ。A社では専任のIT担当者は4人おり、社内ネットワークや受注・生産管理システムなどの構築・運用・保守などを担当している。ただし古いオフコンで処理していたため、システムの再構築が求められていた。

 こうした環境のA社を攻略するには、どうすべきか。まずは親会社との関係を視野に入れ、システムでも親和性を考慮すべきだろう。特に連結経営や全体最適化が叫ばれている昨今、親子でトータルにシステムを再構築をしないと無駄が多い。

 しかし、システムをすべて親会社と一緒にするべきか、というと必ずしもそうではない。システムを親に依存してしまうと小回りが利かなくなるのでは、と子会社は心配するからだ。子会社としての独自性も重要であり、すべて親会社と同様にすることが良いわけではない。もちろん別システムの場合は、どのように互換性を維持するかも検討の対象となる。システム提案では、この辺のバランスをどうするかが重要になる。

 A社では業務体系や財務など親子で方向は似ていたが、今回のシステム化ではグループ経営は強化せずに次回の課題とすることにした。たとえそうした結果になったとしても、ソリューションプロバイダは親子の関係を視野に入れて提案すべきであった。しかしA社のケースでは、ソリューションプロバイダはあまり考慮せず、ひたすらA社へ自社のシステムを売り込むことに熱心だったようだ。

 A社の場合、グループ企業間で“情報システム連絡会”がある。A社が親会社に状況を報告し、了解をもらいながらシステム化を進めることになっている。ソリューションプロバイダが親子双方を攻めることができれば理想だが、現実には親会社にコンタクトすることは困難である。だからソリューションプロバイダは子会社を攻める前に、「親がどう考えるか」を十分に考慮しておくべきなのである。

同じ中堅・中小でも一般企業とは違う

 さらにA社の場合、その業務特性にも注意すべきだろう。実はグループ企業の傘下にあるA社のような企業は一般の中堅・中小企業と異なり、特に製造業では部品や生産品目の数が多くなりがちである。グループ内で業務再編や製造移管が頻繁に行われるため、要件が大きく変動するからだ。そうした場合でも柔軟に対処できるように事前に見積もっておく必要がある。

 当初、A社はERP(統合基幹業務システム)ソフトの導入を考えていたが、費用対効果や親会社のシステムとの親和性などを考慮するとフィットするものがなかった。そこでERPソフトの採用はあきらめ、会計パッケージだけを導入し、他の機能は自社開発した。

 こうした過程を経て、プロジェクトチームがいくつかのソリューションプロバイダと接触して感じた本音を図に示した。こうした点にうまく対応することができれば攻略に成功すると思うので、参考にしてほしい。

 ソリューションプロバイダの選定時に重視したポイントは、業務に対する熟知度、IT技術に対する考え方、導入後のサポート体制、価格などである。IT投資できる範囲は一般に言われているように売上高の2%前後だろう。望ましいソリューションプロバイダの姿は前述の攻略ポイントに加えて、対応の迅速性と将来を含めたシステム提案ができることである。そして発注側とユーザー企業側の双方が互いに理解し協力し合える関係を構築できると良い。

 逆に敬遠するソリューションプロバイダは、こちらの要望を理解する姿勢がなく、自社の技術・ノウハウを押し付けたり、将来性を考慮しない相手ということになる。

 A社の場合、一挙に導入するとなると開発パワーや社内教育の点で無理があるので、優先度をつけて段階的な導入を選んだ。まずは販売・生産・手配・会計の開発およびネットワークの高速化、次いで原価計算・仕込品の管理を実現させた。人事制度や旅費精算など主に総務関係の業務は親会社との関連が深いため、ここは親会社のソフトを使用した。現在、すべてのシステム構築が終了し、順調に稼働している。

淺野 秀藏 ITC総合研究所代表/ITC多摩協議会理事
大手製造メーカーで長年電子機器の製品開発に従事、その後グループ会社の代表取締役となり、自社の基幹系システム構築に携わった。現在は、ITコーディネータで組織した有限責任事業組合の代表。