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M&A(企業の合併・買収)は、システム子会社にとっても事業拡大に向けたチャンスだが、準備不足では好機を生かせない。まずは自社システムの課題や要員のスキルを把握し、そのうえで互いのシナジーが効くように展開を図る。M&Aを「攻め」に生かすには3つのパターンがある。

 前回までは、システム子会社の内外を漸進的な視点で見た生き残り策を論じた。革新的な視点で見た生き残り策として、今回はM&A(企業の合併・買収)をどうやって今後の事業拡大のチャンスに生かすか、を論じてみたい。次回は同様な生き残り策としてのオフショアリングについて解説する。

 特に最近は、国内でも生き残りや拡大の戦略として企業同士のM&Aが注目されており、実際にM&Aのケースも増加の一途をたどっている。こうした動きは、システム子会社においても決して例外ではなくなっている(図1)。

図1●システム会社のM&A件数推移
図1●システム会社のM&A件数推移
数字はボストン コンサルティング グループの調査による

 システム子会社のM&Aが進んでいる背景としては、ITベンダーがソリューション事業を拡大するため、ユーザー企業の業種・業務ノウハウを獲得したいという理由が多いようだ。このほか、親会社からのシステム受注などを目的にしたM&Aなどもある。最近の動向としてはグループ企業内での再編を目指したシステム子会社同士の合併も増えてきている。

 それでは親会社のシステム部門として、またシステム子会社として、このM&Aの波にどう向き合えばよいのか。以降では、親会社のシステム部門としての対応とシステム子会社の経営陣にとっての対応に分けて説明する。

M&Aは情報戦略を見直すきっかけになる

 親会社のシステム部門として、M&Aはどういう意味を持つのだろうか。一言で言えば、情報システム戦略を見直す契機になるということだ。

 一般にM&Aでは、事業戦略やオペレーションと同様に、システムにおいても相手企業と整合性を取る必要がある。

 例えば、(1)経営を支援する情報システムのあり方、(2)親会社システム部門/システム子会社/外部のITベンダー間の役割分担、(3)3社間のインタフェースをどうするか、といったことである。整合性を取る場合は、本来であれば事業論理にあった整合性の取り方を選ぶべきだろう。ここで言う事業論理とは、顧客への影響度、統合した企業にとっての経済合理性、成長への寄与度、変更に伴う社員の負担などを考慮して、統合した企業にとって最適な選択を行うことである。

 (1)の経営を支援する情報システムのあり方は、統合した企業の経営戦略の内容に大きく依存するため、ここでは割愛する。だが、それ以上にまずは企業同士のITインフラの整合性を取る必要があるだろう。たとえ同業種であっても、企業によって経営におけるITの重要度、活用度は大きく異なっている場合が多いからである。

 一方、(2)の親会社システム部門/システム子会社/外部のITベンダー間の役割分担と、(3)の3社間のインタフェースについては、システム部門が主導で考えるべき課題である。

外部との役割分担とインタフェースを再定義する

 まず3社の関係の中で、親会社とシステム子会社を合わせたグループ企業内部のシステム部門と、外部のITベンダー間の役割分担およびインタフェースについて述べる。

 親子の場合、「保有すべきものは親子で保有し、保有する必要のないものは外部に委託する」という原則を徹底することが必要になるだろう。親子で保有すべきものとは、企業の根幹をなすもの、強みの源泉になっているものであり、保有する必要のないものとは、そこにグループ企業の強みが存在していないものである。例えば、製造業における製造機械や製品に内蔵されている組み込みソフト、小売業における顧客データベースなどは前者に当たり、企業におけるメールサーバーや通信回線などの情報系インフラといった部分は後者になるだろう。

 重要な点は、統合後の企業において保有すべきものと外部に委託するものを、どこで線引きし、あるべき姿にどうやって持っていくか、というシナリオを描くことである。あるべき姿に近づけようとすれば、現在は一方の会社においてシステム子会社に委託している内容を外部委託に切り替えたり、あるいはM&Aをきっかけに整理統合したりすることが必要になるかもしれない。

 また、統合対象となる企業のシステム子会社自体の位置付けそのものをもう一度見直し、外部に売却するという手段も考えられる。複数のシステム子会社を保有したりしている場合は、システム子会社同士を統合する必要も出てくる。

 こうした役割分担を最初に決めることで、次に統合した親子のグループ企業と外部のITベンダー間のインタフェースの再定義に入る。統合した企業のどの部門が、どのITベンダーに、どのようなプロセスで対応するか、ということを明らかにしていくのである。

親子間の役割分担とインタフェースを再定義する

 外部のITベンダーとの役割分担が決まれば、次は親子間の役割分担およびインタフェースの再定義である。

 再定義に向けた作業には、M&Aに関連する各社のシステムを標準化すること、業務ノウハウやシステム運用ノウハウなどの暗黙知を形式知にすること、レガシーシステムの機能やデータの棚卸しをすることなどがある。要するに「システムの可視化」を行うことである。システムの可視化ができれば、その後は明確になった業務プロセスやシステム構成に従って、親会社システム部門のミッション、各社員の役割、責任や権限を明確化し、ユーザー部門とのインタフェースを再定義する。

 こうしたシステムの可視化は本来、M&Aとは無関係に進めておくべき課題である。しかし、ユーザー部門との対応や現行のシステム対応に追われて、多くの企業では可視化が進んでいないだろう。M&Aはこうした本来実施しておくべき作業の棚卸しをするきっかけになっているのだ。

 換言すれば、結婚(M&A)によって、引越し(システム統合)が必要になり、引越しに際して荷物の整理(システムの可視化)が必要になったということであろう。