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提案内容を的確に顧客に伝えることができなければ、それまでの営業努力は水泡に帰してしまう。そのため、営業担当者は提案書の作成やプレゼンテーションの進め方に神経を使っているが、ややもすれば表面的なテクニックの習得に走りがち。今回は情報の伝え方について考えてみた。

 「提案内容をうまくお客様に伝えることができない。どうしたらよいのか」。ソリューションプロバイダの営業担当者を対象にした勉強会の講師を引き受けると、必ずといってよいほど参加者から受ける質問です。

 提案営業は、お客様の課題を引き出し、それを解決するために製品やシステムを販売することです。いくら提案内容がよくても、「なるほど。これなら解決できるな」とお客様が納得してくださらなければ、仕事をいただくことはできません。営業担当者の多くが提案内容の伝達に四苦八苦するのは当然だと思います。

提案書やプレゼンテーションは「道具」

 講演を依頼してくるソリューションプロバイダの担当者は「提案書の書き方とプレゼンテーションのやり方について、うちの営業担当者に教えてください」と口を揃えます。提案内容をうまく伝えられないと悩んでいる営業担当者にとって、最大の関心事は提案書の書き方とプレゼンテーションの進め方のようです。実際、勉強会での質問は「提案書ではどのくらいの大きさの文字を使っているのか」とか「プレゼンテーションで話す時にどのような点に注意しなければならないのか」といったものです。

 見栄えが良い提案書のほうが、そうでない提案書よりも間違いなくお客様の目を引きます。また、見るからに仕事ができる営業担当者がプレゼンテーションの会場に登場した時のほうが、そうでない営業担当者の時よりも、お客様は「こいつに任せよう」という気持ちになるでしょう。提案書の書き方やプレゼンテーションの進め方に神経を使う気持ちは、同じ仕事をしている私にもよく理解できますが、それだけで提案内容をうまくお客様に伝えることはできません。

 提案書やプレゼンテーションは、提案内容を伝える「道具」にすぎないのです。テクニックを習得しておいて損はありませんが、情報を伝える際の基本的な姿勢を身に付けておかなければ習得したテクニックは生かせません。具体的には、情報を正しい方法で「深く」伝える姿勢が不可欠です。

 と言いながら、私も偉そうなことは言えません。私自身もIT業界に転職した直後、四六時中「どうしたら自分の提案書は目立つだろうか」とか「できる営業マンだと見られるには、プレゼンテーションでどんな身振りをすればよいのか」といったことを考えていました。提案書の書体を変えたり、著名なコンサルタントの真似をしてプレゼンテーションで派手な身振り手振りを交えたりするなど試行錯誤しましたが、思うように受注できませんでした。

 そんなある日のことです。「お客様が興味を抱き、記憶にとどめてくれるような情報をこれまで自分は提供してきたのだろうか」という疑問が浮かびました。そこで、これまでお客様に伝えてきた情報を見直したところ、表面的な情報しか伝えていないことに気付いたのです。

自分の会社の「強み」は何か考えよう

 伝えたい情報をうまくお客様に伝えるには、情報を一段と深く理解することが大切です。自分の会社をお客様に説明する時でも、それは言えます。自社の強み、歴史、製品やサービスが生まれた背景などを深く理解したうえで、効果的な伝え方を考えるべきです。短い時間で会社を紹介するために使う資料の作成は、そのための格好のトレーニングになります。

図●会社説明用の資料
図●会社説明用の資料
強みは成長力に加え、サポート力を背景にした取引先の安定的な増加。それを分かりやすく伝えることが大切
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 お客様に会社を紹介する時、年商や資本金、社員数、事業内容、取引先などを記載したパンフレットを渡しますが、いずれの情報もお客様の記録にほとんど残りません。お客様のところには入れ替わり立ち替わり営業担当者がやってくるので、いちいち会社の規模を示す数字など覚えられないのは当然です。自分の会社の「強み」を見つけ、それを前面に出して会社を説明しなければ、お客様は記憶にとどめません。

 現在、私が勤務している会社の2003年3月期の売上高は17億5000万円ですが、この規模の会社はいくらでもあります。年商を伝えている限り、その他大勢の会社の中に当社は埋没してしまいます。しかし、1991年に設立し、ここ数年に限って見ると年率20%近い勢いで成長しているソリューションプロバイダはそう多くありません。ですから、当社は成長企業であることを真っ先にお客様に伝えるべきです。そこで、私は直近の売上高を伝えるだけでなく、棒グラフなどを使って売上高の推移を時系列的に提示しています。

 また、成長の原動力になっている要因についてもお客様に伝えるように心掛けています。当社は営業力がある会社ですが、取引先を増やせた最大の要因は受注した後のサポートにあります。取引先の数の推移を示すグラフも提示しながら、「取引先が着実に増えているのはサポートを評価していただいているからです」と伝えることによって、お客様に安心感と信頼感を持っていただけます。その際、サポート部門が質の高いサービスを提供するために、日夜たゆまぬ努力をしていることや、エンジニアのこだわりなども伝えています。ストーリー性のある話は強く心に残るうえ、お客様に好印象を与えることができるからです。

 当社に限らず、事業規模が大きくないソリューションプロバイダにとって、売上高に代表される事業規模を示すデータの提示はほとんど無意味です。事業規模を強みとして使えるのは、ごく一部の大企業に限られます。しかし、事業規模が小さいことに落胆する必要はありません。幸い、事業規模によってお客様に安心感を与える時代は終わり、規模が小さくても、時代への適応力やアイデアなどで大手に勝てるようになってきました。

 IT業界に転職して間もない頃のことです。ある大企業のWebシステムの開発のコンペに参加しようとしたところ、その大企業の窓口になっている担当者から売上高や社員数について尋ねられました。私が直近の数字を挙げると、その担当者に「当社はこれまで大企業だけに発注してきました。その規模では受注できる見込みはありません。コンペに参加しても時間の無駄だから、ご遠慮いただいたほうがいいと思います」と言われ、悔しい気持ちになったことがあります。今から思うと、情けなかったのは事業規模という「土俵」に乗ったまま会社に戻ったことです。この時に会社の強みは事業規模だけではないと気付いていたら、展開が違っていたかもしれません。

 当社の場合は、成長性が強みですが、もちろん強みは会社によって異なります。例えば、IT関連資格を取得した技術者の人数が毎年増加しているのであれば、その推移と増加要因を伝えることによって、技術力をアピールできます。「自社に強みは何か。そして、どういう情報があればそれを伝えることができるのか」という視点で、自分の会社を見直してみてください。

 製品やサービスを紹介する時でも、お客様の興味を引くように情報を伝えることを忘れるべきではありません。パンフレットに書かれている内容や研修で教えられた内容を伝えるだけでは、単なるメッセンジャーにすぎないのです。製品やサービスの開発時の思い、注力したこと、苦労したことなどを開発担当者から聞き、それをお客様に伝えることは製品やサービスの良さを印象付けるのに効果的な方法だと思います。

 開発過程の苦労話を技術者に聞くメリットはそれだけではありません。製品やサービスを開発した担当者の思いやこだわり、苦労を知ることによって、製品やサービスに対して営業担当者も愛着を感じるようになります。そうすることによって、「開発の連中が良い製品を開発しないから、売り上げが伸びないんだ」といった開発部門に対する無益な敵対意識を燃やすことはなくなります。

開発の苦労話を織り交ぜ「生きた情報」へ

 導入事例の紹介でも一歩踏み込んだ情報を提供すべきです。過去に導入したお客様についての概要とシステム構成図などを紹介するのが一般的ですが、ソリューションプロバイダ各社が同じような事例紹介をしていることを考えると、お客様の記憶にはほとんど残っていないと思います。では、どうすべきでしょうか。

 開発過程の苦労話を紹介するのと同じように、システムを納品してから本格的に稼働するまでのエピソードを紹介したらどうでしょうか。システム納品後にお客様から指摘を受け、仕様を改善することがよくあります。差し障りのない範囲で、仕様変更の話をシステムの導入を検討しているお客様に紹介してみましょう。

 納品した時点での仕様とお客様の指摘でどのように改善されたのかという「生きた情報」は、間違いなくお客様の興味を引きます。お客様の意見で改善したところは、別のお客様にとっても「なるほど」とうなずかせるものがあるからです。

 製品・サービスの説明と言えば、性能や仕様をこと細かく紹介するものと思い込んでいる営業担当者が少なくありません。数字中心の話は無機質で、お客様の記憶には残りません。担当者の思いや苦労なども加えることによって初めてお客様の心の奥に届くのです。最近、お客様と話していて強くそう感じています。

串戸 一浩 アイル マーケティング部長
専門商社で中近東やアフリカ、東南アジア向けマーケティング業務を担当。97年4月に中堅ソフト開発会社に転職し、大手鉄道会社や流通会社などにソリューションを提案、そのうち9割近くを受注した。
http://www.ill.co.jp