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 私は,子供のころにアーサー・C・クラークの独創性に富んだ『2001年宇宙の旅』を読んだときのことを鮮明に覚えている。特に印象的だったことの一つは,宇宙船ディスカバリー号のミッションの不可欠な要素から,孤独な妄想者に変身していくスーパーコンピュータ「HAL 9000」であった。自己修復,自己改変,自己認識が可能なコンピュータは,その当時の最先端技術のはるか先を行くものであった。そして現在の最先端技術でもそのほとんどは実現できていない。

 ただし,クラークの思い描いたものにわずかながら近づいている分野もある。それは小さな問題や不適切な構成を実際に問題が発生する前に自動的に診断し,場合によっては修復までを試行するツールである。IBMはこの自動コンピューティングのビジョンを2,3年前から奨励しており,Microsoftは独自の「Dynamic Systems Initiative」を発表している。これらの大規模なマクロスケールのプロジェクトは結果が出るまでに長い時間がかかるだろうが,Exchangeの世界には最近成果を挙げているより小規模なプロジェクトがある。

 ここ2,3年無人島に取り残されていた読者のために付け加えておくと,私が説明しているのはMicrosoft Exchange Server Best Practices Analyzer(ExBPA),そしてSQL Server, Office Communications Server,およびその他のMicrosoft製品向けのその姉妹製品のことである。Microsoftはこれらのツールを使用してXMLファイルのセットとして提供されるルールコーパスを構築する。BPAをネットワーク上で動かすと,構成が事前に定義されたルールセットと照らし合わせてチェックされる。例外にはフラグが設定され,ネットワークのなかで標準および慣例から逸脱している個所を特定できるという仕組みだ。

 この機能はかなり有効であるように思えるが,長期的な視点ではどうだろうか。自動修復ツールはメッセージング管理やコラボレーション・サービスを生業としている人々にとっては,自分の仕事を失いかねない脅威になるのだろうか。

 確かに,これらのツールによってトラブルシューティング・スキルの必要性が薄れるという議論が出てくる可能性はある。その議論によれば,ExBPAなどのツールは自動的に問題を特定してくれるため,あまり知識の豊富でない管理者でも,よりスキルの高い管理者でなければこれまで特定および修復できなかった問題に対処できるようになる。これらのツールが改良されれば,おそらく修復機能が追加されることになるだろう(まず管理者に権限を依頼することになるだろうが)。

 私はまた,一部の管理者が,潜在的な問題を発見し,修復するのにツールに頼りすぎているという苦情も耳にしたことがある。この議論の別の側面はより説得力がある。Exchange,SQL Server,そしてその他のサーバーおよびインフラストラクチャ製品には,パフォーマンス,安定性,およびセキュリティに影響を与える可能性がある設定およびパラメータに,相対的にあいまいなものが多い。ExBPAなどの自動分析ツールは,かなり規模の大きいインフラストラクチャでも迅速にスキャンし,様々な潜在的問題を発見する手段を提供する。一つのサーバーのチェックであればそれほど大変ではないが,同じチェックを10台,あるいは100台のサーバーで迅速に実行するのは困難になる。

 セキュリティの世界では長い間,ログ分析および脆弱性の正確なスキャンを行う自動化ツールを信頼して利用することができた。その理由はこれらのタスクが非常に退屈であり,人間が最後まで完全に実行することが困難なためである。ExBPAおよび同種のツールは,管理するシステムの基本構成をチェックするための信頼できる手段を提供するため,新しい環境への移行,例えば仕事を変えるときやコンサルティング契約を開始するときに特に有効である。

 ただし,そのクオリティを過信してはいけない。読者の方々,およびトレーニングと管理について責任を持っている管理者は,ExBPAが実行するチェックの基本となるメカニズムを理解する必要がある。ExBPAの推奨事項がどのように決定されるかを理解し,各自の環境でその推奨以外の設定がOK(場合によっては必要)になるのはどのような場合かを知っておく必要がある。このような判断を下すには個々人の学習および研究が必要である。私はこのような学習や研究が常にIT産業の一部分であることを期待している。