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信頼性・拡張性・柔軟性を高める技術

 NGNは,急増する情報流通ニーズを支えること,および既存電話網に代わる社会インフラとしての責任を果たすことの二点で期待される。これを支えるIPプラットフォームへの要件として,信頼性,拡張性,柔軟性の三つが挙げられる。

 信頼性が特に強く求められるのが企業向けネットワーク・サービスである。例えばIP-VPNなどのサービスではSLA(service level agreement)を設けてサービスを提供することが多い。それを裏付けるネットワークの信頼性を確保する技術が重要である。

 拡張性が重要なことは今のインターネットを見れば明らかである。インターネット・トラフィックは依然として年に2~3倍増加している。近い将来ユビキタス・コンピューティング・サービスの普及とともに家電が接続され,映像コンテンツが増大することから考えて,ネットワークの容量を十分に拡張できる技術が重要である。

 また,インターネットはIPパケットを相手に届ける到達性の追求から始まったわけであるが,ビジネスや社会生活のさまざまな場面でネットワークが活用されるためには,利用シーンに沿った環境を柔軟に提供するための技術が重要である

 これらの要件に対応する技術を,IPプラットフォームにおいて実際にパケットを転送するユーザー・プレーンと,ルーティング・プロトコルやQoSの制御管理などを実行するコントロール・プレーンに分けて見ていこう(図5)。

図5●ユーザー・プレーンおよびコントロール・プレーンで使われる各種技術
図5●ユーザー・プレーンおよびコントロール・プレーンで使われる各種技術
これらの技術を組み合わせて信頼性・拡張性・柔軟性を高めていく。
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障害を素早く検知し切り替える

 ユーザー・プレーンの信頼性向上では,障害が起こったときにパケット転送に影響を与えずに,冗長構成の機器に切り替えるヒットレス・スイッチオーバーなどの技術が開発されている。

 MPLSのパス障害時にバックアップ・パスに切り替える技術もある。グローバル・リペアとローカル・リペアの2方式があり,後者はファスト・リルートとして実用化されている(図6)。

図6●ファスト・リルートの動作
図6●ファスト・リルートの動作
経路に障害が起こったときのルートをあらかじめ決めておき,短時間でそちらのルートに切り替える。
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 パケット・レベルで障害を検出・通知するOAMも実用化段階に来ている。隣接ルーター間で用いられるBFD(bidirectional forwarding detection)やIEEE802.1ag/ITU-T Y.1731 Ethernet OAMなどがある。

 ネットワークの信頼性を計測する技術としてはネットフローがある。計測された情報に従い,コントロール・プレーンからパケット転送を制御する。

仮想化進むリソース管理

 拡張性についてはネットワーク装置や回線を仮想的に扱う技術が開発されている。複数の機器や線を一つに扱ったり,逆に一つの機器を複数の機器として扱うことでスケーラビリティを向上させる。

 例えば機器についてはクラスタリングがある。マルチシェルフ化による装置容量拡張であり複数台の装置を増設するイメージで順次拡張できる。初期投資を抑制できる利点がある。一方,論理ルーターは1台のルーター装置内のリソースを論理的に分離し,サービスなどの使用目的ごとに別々のルーターが設置されているように使用できる技術。物理的には1台の装置であり,運用者の運用操作性を統一できる。

 回線についてはロードバランス,リンク・バンドリングがある。どちらも複数の物理・論理インタフェースを仮想的に1本のインタフェースとすることで,インタフェース当たりの帯域を拡張する。特にリンク・バンドリングでは,100Mビット/秒と1Gビット/秒など速度の異なるイーサネットを1本のイーサネット・インタフェースとして扱える。

 このほか回線の拡張性の技術として40Gビット/秒の高速インタフェースがある。ネットワークの帯域やスループット向上の技術である。さらにITUグリッド準拠の40Gインタフェースをルーターに直接収容することで,不要な光ケーブル敷設や波長変換装置の設置を抑制する利点がある。

 冒頭で説明したIPv6もアドレスの範囲を大きく拡張する点で,拡張性の技術の一つとなる。家電やセンサーなども接続されるユビキタス・ネットワークの実現に必須である。

 パケット転送の柔軟性に関する技術としては前述のIPマルチキャストやQoS制御技術がある。マルチキャストは受信者が離散的に存在する映像配信において,ネットワーク内のリソースを効率的に利用できるようにする。

 IPレベルでのQoS制御技術としてはDiffservIntservがある。Diffservはパケット転送の優先度を制御する。Intservはパケットの転送・遅延時間や帯域の絶対値をポリシングシェーピングと組み合わせて提供する。これらの技術により,同一プラットフォーム上でVoIPトラフィックを優先し,映像トラフィックの帯域を確保しながらインターネット接続など複数サービスが実現できる。

サービスを止めずに更新・再起動

 コントロール・プレーンでは,サービスを中断せずにルーティング・プロトコルなどのソフトウエアの更新を行うヒットレス・ソフトウエア・アップグレードなどの信頼性向上技術がある。

 ヒットレス・ソフトウエア・アップグレードの際に使う技術としてグレースフル・リスタートの実装が進んでいる。隣接する装置間でパケット転送を継続しながら,ルーティング・プロトコルを段階的に再起動する。OSPFBGPからLDPといったMPLS関連プロトコルに適用されるようになってきた。

 IGP(interior gateway protocol)ファスト・コンバージェンスはネットワーク障害などで変動するネットワーク内経路を高速に収束・安定させる技術。OSPFの例では,隣接を確認するパケットの送信間隔を短くすることで,高速な障害検出を可能とするファスト・ハロー,経路の再計算間隔を指数的に増加させるSPF(shortest path first)イクスポーネンシャル・バックオフ,影響のある部位のみ経路再計算を実施するインクリメンタルSPFなどが実装されている。

 拡張性についてはマルチパスの技術がある。一つのあて先に対して複数の経路をネットワーク上に持たせ,トラフィックの負荷分散を実現する。OSPFの等コスト・マルチパス(equal cost multi-path)や,BGPで複数のピアから受信した経路がベストパス選択時にタイブレークとなったときに,両経路にトラフィックを転送するBGPマルチパスなどの実例がある。

 NGNにはアドミッション制御の技術がある。NACF,RACF機能の制御を受け,ネットワークへのトラフィック転送の許可,必要とされるリソースの確保を行う技術。利用するサービスに応じたリソースの確保はルーター装置に対するQoS制御で実現される。

IPプラットフォームを構成する機器

 これまでに述べたように,IPプラットフォームを構成するルーター装置には多様な機能,信頼性,拡張性,柔軟性が要求される。

 これらを達成する装置として富士通は,米シスコシステムズと共同でコア・ルーターFujitsu and Cisco CRS-1を開発している。2006年10月にはその製品ラインナップに40Gビット/秒×4スロットモデルを追加し(写真1),320Gビット/秒からマルチシェルフ構成による92Tビット/秒までのさまざまな場面でNGNのコアを構成する要求に応えている。

写真1●富士通とシスコシステムズの共同ブランド製品CRS-1のエントリ・モデル
写真1●富士通とシスコシステムズの共同ブランド製品CRS-1のエントリ・モデル

加藤 正顕(かとう・まさあき)
富士通 ネットワークサービス事業本部 基幹ルータ事業部 プロジェクト部長
1985年,東京大学工学部電気工学科卒業。同年富士通入社。X.25パケット交換,ATM交換のソフトウエア開発を経て,2000年よりIPルーティング・ソフトウエア開発に従事。現在シスコシステムズとの共同開発を担当する。2003年10月より現職。