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 前回は,国民健康・栄養調査,メタボリックシンドローム予防事業の健康情報アウトソーシングなど,健康増進分野の「過剰反応」について考えた。今回は,第73回で取り上げた製品安全分野の「過剰反応」対策について,最近の動向を見てみたい。

製品安全法制の改正直後を襲ったノキア/松下ショック

 2007年8月14日,世界最大手の携帯電話機メーカーであるノキア(フィンランド)は,松下電池工業が2005年12月から2006年11月にかけて生産した携帯電話機用リチウムバッテリー電池パック「BL-5C」約4600万個について,充電中過熱する可能性のあることを確認し,交換措置をとることを発表した。日本では,ノキア・ジャパン,NTTドコモ,ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)が販売した携帯電話端末の電池パック16万760個が交換対象となっている(ノキア・ジャパン「日本における松下電池製ノキア電池パック「BL-5C」に関するお知らせ」,経済産業省「消費生活用製品の重大製品事故に係る公表について」参照)。

 リチウムイオン電池では,ソニーが,2006年度にノートPC用電池パック(総計約960万個)の自主回収および自主交換プログラム実施に関わる費用として512億円の引き当てを行ったことを発表している(「ノートブック型コンピュータ用電池パックの『自主交換プログラム』について」「2006年度連結業績のお知らせ」参照)。ノキア/松下のケースは,それを大幅に上回る回収/交換規模となった。

 現在,ノキア・ジャパンは,企業ホームページやコールセンターを通じて電池パックの交換に対応している。NTTドコモやソフトバンクモバイルは,新聞広告,企業ホームページ,携帯電話へのメール配信,ダイレクトメールで周知活動を行っている。

 経済産業省は,2007年3月30日付で,製品安全対策時の「過剰反応」に対する見直しを含む経済産業分野の個人情報保護ガイドライン改正を告示した(「「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」の改正について」参照)。5月14日には改正消費生活用製品安全法が施行されたばかりだった(「消費生活用製品安全法のページ」参照)。

 ガイドライン改正の告示3カ月後に,日本のメーカーが製造した部品を使って,フィンランドのメーカーが製造・輸出した製品を,世界中の通信キャリア/販売会社が回収/交換するという,ボーダレス社会を象徴するような出来事が起きている。個人情報保護の「過剰反応」対策には,国際間連携の整備が求められている。

個人情報保護がライフサイクル管理型ビジネスモデルを牽引する

 松下電池工業は,松下電器産業の100%出資子会社である。8月15日には松下電器産業が対策本部を設置するなど,グループ挙げての製品安全対策支援を打ち出している(「リチウム電池市場対策本部の設置について」参照)。

 本連載で以前取り上げたように,松下電器と言えば,製品安全における個人情報保護の「過剰反応」対策見直しの契機となった石油温風機リコール問題の当事者でもある。こちらの問題についても未解決で,回収/交換活動を継続しているのが現状だ(「謹告 21年~15年前のナショナルFF式石油暖房機を探しています」参照)。

 ここで,石油温風機と携帯電話機の違いを考えてほしい。石油温風機は,メーカー主導の売り切り型ビジネスモデルを前提として販売された商品だった。これに対して,携帯電話機は,モバイルユーザー主導のライフサイクル管理型ビジネスモデルを前提として販売された商品である。短期的な収益確保の観点からは,顧客との関係性維持のために費用がかかるライフサイクル管理型モデルよりも,売り切り型モデルの方が有利であろう。だが,ブランド力の強化,顧客のマインドシェア獲得,製品安全対策上のリスク管理などの観点から見ると,双方向的なライフサイクル管理型モデルの方が圧倒的に有利である。

 ライフサイクル管理型のビジネスモデル運用の中核を担うのは,顧客の個人情報データベースである。そこで,個人情報保護の「過剰反応」対策を一時的な「費用」に終わらせることなく,データベース・マーケティングの通常プロセスに組み込むことができれば,中長期的な製品安全リスクの低減とブランド力の強化を同時に図ることができる。

 例えば,NTTドコモグループの場合,400テラバイト規模の顧客データウエア・ハウスを構築し,様々なマーケティング分析を行っているが,同時に個人情報管理にも膨大な労力を費やしているという。これに対し,サプライチェーンの上流に位置するメーカーが,売り切り型ビジネスモデルに依存した個人情報保護対策や製品安全対策を取り続けたら,どういうことになるか想像してほしい。ノキア/松下ショックは製造業全体に問題を投げかけている。

 次回は,盗難・紛失による個人情報漏えい事件について取り上げてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/