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■商談や開発の打ち合わせで重要になるのがヒアリング。上手なヒアリングのためには、質問力を高めなければいけません。質問力を高めるための具体的な方法論を紹介します。今回は「仮説」。営業現場では「ヒアリングの前に仮説を持て」とよく言いますが、実はこの仮説が曲者で・・・。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 顧客に営業訪問する際、事前に顧客のことを調べておくのが鉄則である。顧客はどんな事業を展開しているのか? 顧客のビジネスはどのような流れになっているのか? 今日お会いする方はどんな方なのか? 昨今では、インターネットなど公開されている情報からたくさんのことを知ることができる。

 そして課題のヒアリングにあたっては、顧客がどんな課題を持っているのか、という仮説をあらかじめ立てておく。

 いきなり顧客に訪問して「御社の課題は何ですか?」と大ざっぱに聞くより、「御社の課題は業務の効率化ではないですか?」、「御社は営業部門の改革に力を入れておられるようですが、営業プロセスの改革が課題ではないですか?」などど、仮説にもとづいてクローズ質問を投げかける方が、顧客の課題の核心に触れることができる。

 この「仮説を持つ」ということ、たしかに重要なことである。しかし、これが正しいと言えるには条件がある。それは、かなり高度な質問力を持つ人の場合のみに限られるということだ。思い切ったことを言うが、普通の質問力の人は、仮説など持たない方がいい。

仮説が真実を歪ませる

 それはなぜか。仮説こそは真実を歪ませるもっともやっかいなものだからだ。

 そもそも、公開されている情報から想定される仮説などは、たかが知れている。どの企業でもあてはまる抽象的なものばかりだ。

 たとえば、「経理業務の効率化が課題ですか?」と聞かれれば、どの企業でもたいてい思い当たる。『言われてみればたしかに・・・』というレベルであっても、「そうですね」と答えてしまえば、もう「経理業務が非効率的である」ということが事実として独り歩きしてしまう。

 情報には「客観的事実」「評価」「仮説」の3つがある。

 「月末の数字を締めるのに3日間かかる」というのは事実だが、「月末の数字を締める業務が非効率になっている」というのは「非効率である」と、その人が評価している情報だ。その人にとっての主観的な事実ではあるが、客観的な事実ではない。

 また、「経理部のA氏が、『非効率で困る』と言った」というのは事実だが、「経理部門全体が非効率な業務に悩まされている」というのは、「経理部門全体がおそらく悩んでいるだろう」という仮説である。

 人は、客観的事実と評価、仮説を混在させて話をする。主観的な評価や仮説があたかも客観的な事実であるかのように話す。物事の本質を理解するには、相手から引き出された情報が、客観的事実なのか、評価なのか、仮説なのか、しっかりと区別していかなければならない。

客観的事実を知るための質問は仮説を排除する

 質問者がまず把握するべきは、客観的な事実である。

 「経理業務がとても非効率なんですよね」と言われても鵜呑みにしない。その人に「非効率」と思わしめる客観的な事実があるはずだ。それが何かを探るのだ。

「非効率とはどういうことですか?あなたにとっての非効率の基準とは何ですか?」
「非効率と思わせる具体的な事実は何ですか?」

 これを聞くのだ。これを聞き出すためには、「聞き方」もあるが、まず何よりは中途半端な仮説を持たないことだ。自分なりの仮説があると、ついつい「やっぱりそうか」と自分自身が誘導されて、真実と遠い方向へ行ってしまう。

「経理業務のどこが非効率なのですか?」
「たしかに、それは非効率ですね。」
「どのように効率化しようと考えておられますか?」
「ちなみに当社のソリューションでは・・・」
 と、挙句の果てには、どこにでもあてはまる営業トークへと行き着くことになる。

 私も顧客に訪問する際には、事前にあらゆる情報を調べるが、そのゴールとして素朴な疑問をたくさん見つけるようにしている。そして、それらの素朴な疑問についてあえて仮説は持たないようにして疑問のままにしておく。ヘタに仮説を持つとこちらの質問力を鈍らせてしまうからだ。

 私が敬愛するゴルゴ13は、常に言う。
「オレには推測も仮定も想像もない。あるのは事実だけだ」
これぐらいのスタンスでいきたい。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。