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秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 「問題の芽をいかに発見し、対処するか」というテーマで講演を行ったときのことです。友人たちに「今度、企業の組織内不正について話をするんだ」と伝えると、「組織内の不正を真正面から取り上げたセミナーって、これまで行われていたの?」という質問を受けました。

 そこで調べてみると、過去、不正に関するセミナーが無かったわけではありません。しかし、それらは「不正アクセスをいかに防止するか」や、「粉飾決算をどう見抜くか」といった、個別具体的な問題への対処をテーマとしたものでした。「会社で発生する不正をどうマネジメントするか」という包括的な問題に言及するセミナーは、今までほとんど無かったことがわかったのです。

 では、なぜ「不正対策」のセミナーがなかったのでしょうか。

 おそらく幸いなことに、これまでの日本企業においては、不正対策そのものが経営レベルで論議するような重大な問題ではなかったのです。

 しかし、現在はグローバル化が進み、海外に工場を持つことなどを通して、私たちとは異なる価値観や善悪基準を持った人々と仕事をする機会が増えています。そうなると私たちの常識ではありえないことが、ごく当たり前のこととして普通に行われるといった事態に遭遇します。中途採用者の増加もまた、価値観と行動様式の多様化を促進しています。

 また、近年のテクノロジーの急速な進化も影響を与えています。私はちょうど紙とデジタルの合間の世代なのですが、若い人たちと仕事をしていると情報に対する接し方や取り扱い方がまったく違うことを実感します。メールの使い方一つにしても、本当に話し言葉のようなラフな書きぶりをしますが、実は、このような行為にはリスクがあります。冗談のように書かれたメールの文書が(当人たちは100%冗談のつもり)、なんらかの悪意の証拠にされてしまう危険性があるからです。社内においても、イントラネットなどで情報のシェアリングが進んだのはいいことですが、一部の人は内と外の区別がきちんとできておらず、秘密に相当する文書を平気で外に持ち出す傾向にあります。

 このように、一つの会社のなかでもさまざまな基準が混在するようになり、それらを適切にマネジメントしていかなければならない状況が生まれています。従来のように「君にすべて任せたからな!」式の、全員が同様の価値観を持つことを前提とした、素朴な性善説に立脚した管理方法だけでは対応することができなくなっているのです。そんなことから、この新しい時代に対応しうる「不正対応のマネジメント」の構築が不可欠となっています。

 そこで、これから8回にわたって「不正対応のマネジメント」の在り方について説明をさせていただきたいと思います。

 まず始めに、扱う問題の種類を整理しておきましょう。

 企業不祥事は、一般的に「不正」と「失敗」の2つに分類されます。「不正」とは、意図を持って実行されるものです。会社ぐるみで行われる不正としては、大がかりな粉飾決算がその典型でしょう。経営層の意志があるか、あるいは経営層を巻き込まないと粉飾決算は実行できません。同じような問題としては、談合や総会屋への利益供与などがあります。また、会社の利益に反して個人が行う不正もあります。横領や産業スパイ、インサイダー取引などはその代表例です。

 一方、「失敗」とは悪意のないもので、個人のちょっとした入力ミスや操作ミス、据え付けミスという個人レベルのものから、そのようなミスに対して予防の仕組みがなかったり、被害の拡大を防ぐ体制ができていないといった会社レベルの構造的な失敗もあります。さらに、この延長線には、何度も同じような事故が起きて問題の所在を認識していたにも関わらず、何の対策も行っていなかったというようなこともあります。こうなると意図がありますから、「失敗」か「不正」なのかあいまいな領域に近づきます。

 企業の内部統制システムは、不正と失敗の両方を防ごうとするものですが、この両者の性質は大きく違います。したがって、不正対策は不正対策として、しっかりとやっていかなければなりません。そもそも不正を起こそうとする人は、会社の中につくられた統制手段を理解した上で、それに対抗しようとしてくるのです。だからこそ、統制手段を堅固にするだけでなく、不正が行われたらすぐに発見され、厳正に対処される「不正対応の包括的なマネジメント」の確立に着手しなければならないのです。

 次週は、不正の問題に絞って話を続けたいと思います。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。

秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業