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 802.11nでは物理層の高速化によって最大600Mビット/秒で通信できるようになる。ただし,これは実際のスループットを示していない。あくまでデータを送っている瞬間の最大値が600Mビット/秒ということであり,最終的なスループットはもっと遅くなる。

 理由は,複数の端末が一つのチャネルを分け合いながら,通信する機構を持つために,データを送っていない待ち時間ができてしまうからだ。回路の同期を取るためのプリアンブル信号が流れている時間もデータの送信には寄与しないため,スループットを低下させる原因になる。

 802.11nでは物理層の高速化だけではなく,データ送信時間を増やすことでユーザー・データのスループットを向上させる仕組みが規格化されている。

データ送信より待ち時間が長い

 スループットは単位時間当たりに通信できるビット数で決まる。では理論上のスループットを計算してみよう。

 802.11nの場合,前の機器の通信が終わってから,次のフレームを送るまでの待ち時間の平均が110.5マイクロ秒である。このほか,プリアンブルは36マイクロ秒分が割り当てられている。また,受信側がデータを受け取ったことを通知するACKフレームの返信などに,52.5マイクロ秒かかる。これらを合計すると199マイクロ秒となる。

 この待ち時間に実際にデータを送信する時間がかかる。600Mビット/秒で無線LANの最大ペイロード長である2360バイトを送る場合は,30マイクロ秒になる。待ち時間とデータ送信時間を合わせると229マイクロ秒。このうち30マイクロ秒しかデータが流れていないことから,スループットは78.6Mビット/秒(≒30÷229×600Mビット/秒)程度になる。

フレーム連結で通信速度の75%を達成

 そこで,802.11nで採用したのがフレーム・アグリゲーションという手法。送信データを多数連結することで,1回のフレーム送信で大量のデータを送信し,データ送信している時間の割合を増やす。

 連結には二つの方法が規定されている(図D)。MACヘッダーより後ろの部分を連結する方式「A-MSDU」(aggregation MAC service data unit)と,MACヘッダーも含んで連結する方式「A-MPDU」(aggregation MAC protocol data unit)である。連結できるデータの最大値があり,A-MSDUは8Kバイト,A-MPDUが64Kバイトである。A-MSDUにMACヘッダーを付けたものを多数連結してA-MPDUとすることも可能だ。

図D●802.11nで規定されたフレーム・アグリゲーションの方法
図D●802.11nで規定されたフレーム・アグリゲーションの方法
TCP/ IPパケットなどのデータをMACヘッダーの後ろに複数搭載するA-MSDUと,さらにA-MSDUで束ねたMACフレームを多数連結するA-MPDUがある。
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 A-MPDUによってデータを連結し,最大64Kバイトまで詰め込んだとすると,送信にかかる占有時間は874マイクロ秒となる。先の通信に使われていない時間(199マイクロ秒)と合計すると1073マイクロ秒となり,スループットは488Mビット/秒となる。これは通信速度の約8割に当たる。これらからMACヘッダーやエラー訂正用のデータなどが省かれるので,理想的な環境では通信速度の75%程度のスループットが達成できる。