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 2007年7月29日から8月31日にかけて,東京・銀座に期間限定の仮想水族館が登場した。ソニーが映像機材のデモンストレーションのために,水族館の映像を200インチのスクリーンに上映したものである。このイベントで実物と間違えそうなリアルな魚を映し出したのが,デジタルシネマ用に開発されたプロジェクターだ。ソニーが積極的にプロモーションを行う背景には,普及が進まない日本のデジタルシネマの事情がある。

 デジタルシネマ対応の映画館が日本に登場したのは2000年である。それから7年が経過したにもかかわらず,現時点の対応スクリーン数は全国でわずか75にすぎない。一方,デジタルシネマの本拠地である米国の対応スクリーン数は3595とまさにけた違いだ。米国の映画市場の規模自体が大きいという理由もあるものの,日本とは大きく差が開いているのが実情だ。

デジタルシネマ導入によるメリットとデメリット
表●デジタルシネマ導入によるメリットとデメリット
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 映画のデジタル化には,制作から配給,興行(上映)のすべての面でメリットがある()。それにもかかわらず日本で普及が進まないのは,上映機材の導入に当たって映画館が支払う初期費用が高いのが原因だ。デジタルシネマの上映に必要なプロジェクターとサーバー機器1セットの価格は,標準的な「2Kシステム」でおよそ700万円程度であり,フィルム映写機を導入するコストのおよそ2倍になる。ハイエンドの「4Kシステム」では,1セットで1500万円に達する。


 上映システムの価格が高いのは米国でも同様だが,米国の市場には機材リース会社が存在する点が大きく異なる。米国では,デジタルシネマ市場の成長性に注目した投資家や市場の活性化で本業が潤うプロジェクターメーカーなどが出資した機材リース会社がある。こうした会社が映画館に上映機材を貸し出すことで,映画館は初期投資を抑えながら,容易にデジタルシネマに移行できる環境が整っている。このシステムの特徴は,リース会社が機材貸出先の映画館からリース料を徴収するだけでなく,配給会社からも「バーチャルプリントフィー」と呼ばれる代金を徴収する点にある。映画をフィルムで配給する場合,1本の作品を複製するのに20万~30万円のコストが発生するが,デジタルシネマではこの費用がなくなる。つまりリース会社の機材を映画館が導入した結果,配給会社で削減できたフィルムの複製コストを,リース会社が受け取るという仕組みだ。一見すると強引にも思えるが,上映機材の導入にかかる費用を一方的に映画館だけに負担させるのではなく,デジタル化によって業界全体が受けられる恩恵を再分配する仕組みとして機能している。

 ところが日本にはこうした仕組みがなく,機材導入の費用は基本的に映画館が負担する。さらにデジタルシネマの導入例が少ないためデジタルで配給されない作品もまだ多く,フィルムの上映機材も手放せない。結局二重投資で経費が余計にかかり,なかなか普及が進まないという悪循環に陥っている。日本のデジタルシネマの普及を進めるには,上映機材の導入に当たって映画館の負担をできるだけ小さくし,制作から上映までの完全デジタル化で受けられる恩恵を,業界全体でバランス良く享受できる仕組みの導入が欠かせない。