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 6年前、日本でBCP(事業継続計画)を策定している企業はほとんどなかった。その状況が、ここ数年で大きく変わってきている。取引先からの要請がスタートの動機だったりする企業も多いが、BCPの策定に本気で取り組み始めたのだ。連載の第3回と第4回は、国内における企業BCP策定の実態と、そこでITがどのように活用できるのかを紹介する。


 「とにかくBCPを持っていることが重要。2週間で作ってほしい」――。6年前、ある企業からこんな依頼を受けた。同社は、全世界でビジネスを展開する米国企業の日本法人である。本社からの監査に際してBCPの提出を求められたのだという。担当者は、「BCPという言葉自体、初めて聞いた」とのことだった。

 当時、このような状況は珍しくなかった。もちろん多くの企業が防災マニュアルを持ち、定期的に防災訓練を行っていた。しかし、「ビジネスを継続させる」という視点が欠けていた。

 緊急事態が発生したら、被害を最小化し、速やかに重要業務を回復するため何を優先的に行うべきか。また、緊急事態発生によって重要業務が中断しないよう、常日ごろから何をしておくべきか。こうした行動計画を立てるのがBCPである。自社の業務を洗い出す一方でリスクを特定し、事業継続の具体的な対策を立てる。企業規模にもよるが、2週間やそこらでできるものではない。何より、コンサルタントが机上で策定できるわけがない。企業の担当者自らが取り組まなければ有効なBCPは策定できない。多くの企業は、BCPの必要性や、策定の注意点を知らなかったのである。

 最近、この状況に変化が起きている。BCPや、BCPを常に実現可能な状態に保つための活動であるBCM(事業継続マネジメント)といった言葉は、広く知られるようになった。そして、実際にBCPを策定し、BCMに取り組む企業が増えている。

 連載の第3回と第4回は、日本企業におけるBCP策定の現状を紹介する。BCPの策定において、情報システム部門が担う役割は大きい。背景には2つの事実がある。システムがなければ業務が遂行しづらくなっている点と、BCMを推し進めるのにITの活用が有効という点だ。

取引先や業界団体から要請

 企業がBCPの策定に乗り出す理由はいくつかある。数年前は、冒頭の例のように、外資系企業が本社からの指示で策定するケースがほとんどだった。すでに米国では、全社的なBCP策定に乗り出す企業は珍しくなかったためである。

 最近になって増えているのは、取引先からの要請だ。製造業のメーカーなどは部品や在庫を削減すべく、SCM(サプライチェーン・マネジメント)に取り組んでいる。その一環で、緊急事態が発生した際のサプライチェーンにも目を向け始めた。自社のBCPを確立し、実行するためには、関係する取引先のBCP確立が必要になったというわけだ。そこでBCPが調達条件になったりする。

 実際、取引先からの要請が強い建設業界では、日本建設業団体連合会が昨年7月、「建設業のBCPガイドライン」を策定、公開した。この反響は大きく、その後、10月に内閣府が開催した「第3回企業の事業継続・防災評価検討委員会」では、各業界団体がそのガイドラインについて言及した(表1)。今は、業界団体や行政機関がBCPの策定を指導し始めている。

表1●2006年10月に内閣府が開催した「第3回 企業の事業継続・防災評価検討委員会」で報告された、各業界の状況
表1●2006年10月に内閣府が開催した「第3回 企業の事業継続・防災評価検討委員会」で報告された、各業界の状況

 調達条件になっていなくても、サプライチェーンの関係で、BCPを策定していないことが自社に不利に働くことがある。

 例えば1995年に発生した阪神淡路大震災では、特定の原材料を独占的に供給していた企業が被災し、その原材料を提供できなくなった。独占供給だったため、業界全体の製造に影響を及ぼしてしまう。最終的にその企業は、独占技術やノウハウを競合他社に開放し、その事態を乗り切った。それは同時に、自ら独占を放棄した瞬間でもあった。供給企業は、地震の直接被害を上回る大きな被害を被ったのである。