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星野リゾート 代表取締役社長 星野 佳路氏
星野リゾート
代表取締役社長
星野 佳路氏

 星野リゾートは軽井沢でリゾート開発に着手した1904年創業の会社である。14年に星野温泉旅館を開業した。軽井沢は戦後復興の時代に賑わいをみせていた。50~60年代は国内旅行が劇的に伸び、軽井沢も観光地として急成長を遂げた。しかし、円が変動相場制となり、手軽に海外旅行に行ける70年代に入ってからは、国内の観光地は需要の伸びが止まっている。海外との競争にさらされていたのだ。

 こうした環境の中、91年に社長に就任、私は星野リゾートの事業分野を「運営」に特化することを決断する。その背景は87年施行のリゾート法だ。リゾート法は、大手の開発会社と世界の投資家がリゾート事業に参入してくることを意味し、資本規模が小さく家業で営んでいる地方の会社に危機感をもたらした。私たちは運営に特化することで、新しくたくさんできるリゾートとの共存戦略を打ち出し、「リゾート運営の達人になる」を企業ビジョンとして掲げた。また、ビジョンを達成するために顧客満足度、経常利益率、エコロジカルポイントの具体的数値目標を設定し、同時達成することを目指している。

 現在、国内各地域でリゾートの運営と再生を手がけており、2005年からは温泉旅館の再生事業にも力を注いでいる。


個人客の大半はネット予約に移行する

 本題であるリゾートや温泉旅館におけるIT活用の最適化について、私たちの取り組みを紹介したい。私が経営を始めた91年から、この15年間でインターネット環境は劇的に変化した。国内旅行の情報をネットで得て、宿泊先をネットで予約する人が非常に増えている。個人旅行の予約ツールはほとんどネットになると感じている。それに対応して正しい戦略を打ち出さなければ、集客を維持することが難しい環境となっている。

 私たちは、自社ホームページで施設や料理、サービスを紹介し、予約ページで予約してもらうということを何となく行ってきた。私たちが所有・運営するそれぞれの施設が、それぞれのやり方でホームページを作成してきたのである。

 その中で、ある施設に比べ、別の施設の方がネットアクセスが圧倒的に多いという現象が見られた。また、ホームページに入ってから実際に予約を獲得する数にもばらつきがあった。それらの違いの原因を明らかにして、科学的な経営にしていくことが私たちの取り組みだ。

 最も重要なのは、顧客が私たちのホームページを見てどのように感じるかという「ユーザビリティ」である。ホームページに入ってきたユーザーがどのように動くのか、そのユーザーに対してどのような情報をどのように伝えると予約率が高まるのか。その指標を得たいと考えた。多くの会社を検討した結果、ビービットという会社と出会い、科学的手法を取り入れながらネットにおける消費者の行動観察を一緒に開始した。

消費者の行動を観察をもとに仮説を検証

 ネットの行動調査とは、消費者がホームページに期待していることを口頭で聞くだけでなく、旅館やリゾートのホームページを見るときに行動の裏に潜む原因、理由、心理を分析しながら行動を分析することである。実際に使ってもらって、その行動を見る。そして、「なぜ、そういう行動をしたのですか」と聞くことによって、私たちのホームページはどうあるべきかを考えていく「仮説と検証」を繰り返している。最も重要なポイントは、消費者の行動をちゃんと見ること、そして仮説を立てて数字で検証していくことだ。

 実際のテストには「アイトラッキング(視線追跡)システム」という手法を用いている。それによって、消費者が画面のどこを見ているかが分かる。例えば、想像以上に写真のインパクトが大きいこと、一生懸命書いた文章にはあまり目を向けてもらえないこと、アクセスマップも非常に重要だということが理解できた。デザイン的に素晴らしいホームページが予約獲得に直接結びつかないケースがあるということも判明した。

 アイトラッキングシステムを使うと、消費者が画面のどこでどのくらいの時間を費やすのかを正確に測定できる。ホームページの使用後には、「なぜ、ここで予約ボタンを押さなかったのか」ということを含めて消費者に話を聞いている。

ガイドラインで改善指標を統一

 こうした取り組みを通じて、旅行のポータルサイトや自社のホームページの重要さが理解できたので、「ユーザビリティガイドライン」を作成した。このガイドラインには、92項目のチェックリストが設けてあり、各施設が達成しているかどうかを点数化している。例えば、写真の内容がすぐ分かるか、施設の全体像が見えるか、アクセスマップは理解しやすい表示かなどである。

 ホームページをリニューアルする際の問題は、どこをどのように変えるのかという指標が施設の担当者によってバラバラだったことだ。各施設が思い思いに改善しているため、改善になっていないことがあった。たとえデザイン的に優れていたとしても、直接予約に結びつかない。それはネット上の消費者の行動ベースを考えていなかったからだ。現在はガイドラインにそった改善をすすめ、点数を上げるよう取り組んでいる。

 ホームページ上での予約獲得への取り組みは、科学的な数字に基づく仕組みづくりとしてなかなか進んでいなかった。しかし、私たちとしては以前よりはるかに科学的手法を取り込めたと考えている。同時に、「これでいい」という正解がないことも感じている。インターネットの世界では競合も素早く動く。消費者の行動も変わる。従って、安定するまでの間、ユーザビリティテストを繰り返しながらガイドラインを少しずつアップデートして改善を進めていこうと考えている。