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 日本インターネットプロバイダー協会など通信関連4団体は2007年10月にも,インターネットの帯域を大量に消費するヘビーユーザー対策として,帯域制限技術を導入するための業界共通の運用基準作りの検討を開始する方針である。P2P(Point to Point)技術を利用したファイル共有ソフトなどを使って大容量データのダウンロードを行う一部ユーザーのトラフィック(通信量)が,ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)のバックボーンを占有し,一般ユーザーの通信速度を低下させてしまうといった問題を回避するための措置である。

 こうした対策は既に一部のISPでは行われている。例えば,緊急避難的に数時間といった短い間サービス全体の総トラフィックを抑えたり,ファイル共有ソフトの特定の通信パターンを判別してアプリケーション単位で利用可能な帯域に制限をかけたりするものである。こうした制限はISPが独自の判断で行っているのが現状で,ユーザーに対して帯域制限を発動する基準を明示していない場合があるほか,「通信の秘密の侵害」といった電気通信事業法の禁止事項に抵触する可能性も指摘されている。こうした状況から総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」は9月20日に報告書を公表し,「ユーザー保護の観点から業界共通の運用基準を検討すべき」とした。これを受けて業界団体らが帯域制限の法的な位置付けを含め,共通の運用ルールを検討する協議会を立ち上げることになった。

 P2P技術は,「1対多」のサーバー・クライアント型の配信方法に比べてデータの配信元が分散するため,大容量の映像ファイルなどをやり取りする際に,ネットワーク全体ではトラフィックの集中を防ぐ利点がある。ところが,ネットワークのある地点に着目すると,一度に大量のファイルをやり取りすることで,電子メールや一般のWebサイト利用などほかの用途に使う帯域を狭めてしまう。

 このため複数のユーザーが共有するISPのバックボーンでは,ネットワークの公平なコスト負担が成立しなくなることが問題視されている。そこで総務省の懇談会は今回報告書で,「定額料金のブロードバンド(高速大容量)通信サービスを維持するには,ユーザーの公平性を保つための帯域制限の実施はやむを得ない」という見解を示した。

 しかし,映像配信などコンテンツの充実により,インターネットのトラフィックは今後も増加する。ユーザーの利便性を損なわず,映像配信ビジネスなどを活性化するには,帯域制限といった対応だけでなく,ISP自身が適切な設備投資を行って,取り扱えるトラフィックの総量を増やす努力も必要となる。これから検討される帯域制御の運用ルールには,ISPの経営努力や公平な競争を損なわないための仕掛けも必要とされるだろう。