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 近年、企業の合併・経営統合が盛んだ。銀行、商社、航空会社に次いで、最近では百貨店、家電などで大型合併が相次ぐ。行政改革の分野でも合併・統合が進む。まず10年前の橋本行革では省庁再編という名の大型合併が起きた(総務、国土交通、厚生労働、文部科学など)。市町村の数もここ数年の“平成の大合併”により4割方減った。残りは都道府県だがこれも道州制の時代に向けて実質的に数が減るだろう。だが、筆者は行政改革の手段としての合併や組織統合にはいささか懐疑的だ。

 企業の場合、合併・統合は再生につながりやすい。企業は合併交渉の前に徹底した自助努力をする。その上で先を見越して経営統合に踏み切る。経営統合する企業には「スリムな肉体」と「先見性の頭脳」が備わっている。

 ところが行政機関はそうではない。合併・統合は多くの場合、政治判断だ。官僚組織は自分の意思で決めない。従って統合前のスリム化や統合後の業務の見直しもなかなか進まない。要は、死に体寸前での救済や政治主導の合併が多い。

行政組織は「解体」「分割」すべき

 昨今の行政改革では「統合」「合併」が好まれる。確かに組織の名前が変わると気分は変わる。組織の数が減れば“数合わせ”の数値目標も達成できる。だが「統合」「合併」だけでは経営の本質は変わらない。

 行政改革の手段としては、「分割」「別法人化(外出し)」をもっと考えるべきだ。例えば国鉄改革。民営化だけでなく地域分割の効果が大きかった。競合の地元バス、マイカーに対抗するローカル運賃の設定や新駅設置が進んだ。あるいはJR九州の韓国向けジェットフォイル事業は全国一律の企業体なら生まれなかった。

 また橋本行革では旧大蔵省が「分割」された。金融監督庁を「別法人化(外出し)」するとともに予算編成機能の一部を経済財政諮問会議、つまり官邸サイドに移した。そしてこれが小泉改革の“官邸主導”のエンジンとなった。

 さて、この伝に従ってこれまでの行政改革を見直してみると、今後への教訓として以下のようなことが見えてくる。

(1)自治体の現業部門を別法人化して独立採算性に
 自治体改革で最も重要なことは市町村合併や道州制の実現ではない。むしろ自治体の現業部門(上下水道、学校給食、公営交通、病院、公園・道路管理、公営住宅など)を役所の外に「別法人化(外出し)」すべきである。つまり現業事業部門を丸ごと独立行政法人、株式会社、あるいは財団法人化する。そして独立採算制のもとで経営責任をはっきりさせる。

(2)省庁本体に残る現業機能の独法化/民営化を
 中央省庁について、省庁本体に残る現業機能を独立行政法人化、あるいは民営化する。航空管制、各種検査業務など外出しできる機能は多い。行革の目玉として最近「独立行政法人」の廃止が話題になる。だがこれは些事に過ぎず、全く優先課題ではない。むしろ本庁機能の独立行政法人化の問題から国民の目をそらすために周到に用意された茶番劇に過ぎない。英国では中央省庁の業務の大半が独立法人化された。官邸主導で英国と日本の詳細な比較分析を行うべきだ。

(3)道州制導入の場合も現業機能の外出し・解体が必要
 さらに道州制の導入や大都市部の行政機構の再編にも現業機能の外出し・解体が必要だ。例えば大阪市と大阪府。それぞれが水道、公立大学、公営住宅、卸売市場などを保有し二重行政の弊害が大きい。そこで「府市統合」が叫ばれるものの政治的実現性は薄い。そこで急がば廻れである。まずそれぞれの事業を独立法人化する。そのうえで府の各法人と市の各法人を分野ごとに経営統合する。その上で民営化する。例えば大阪全体にサービスする「大阪水道株式会社」、つまり電力・ガス同様の企業体を作る。こうして重要な事業を順次、外出し・統合していけば事実上の府市合併が実現する。

 企業同士の合併でも最初はは一部事業の提携から始める。そこから分野を広げ信頼関係を深める。小さな市町村の合併ならいざ知らず、大都市部の組織再編や道州制の導入にはこうした手順が必要だ。ちなみにEU統合も当初は石炭と鉄鋼の共同事業から始まった。

 昨今、第3セクター、外郭団体、あるいは独立行政法人に対する世論の風当たりが強い。経営破たんの経験や天下りの受け皿となるといった危惧から新規設立も容認されにくい。だが巨大かつ強固な行政組織を丸ごと改革するのは容易ではない。ましてや非効率なまま合併させるとかえっておかしくなる。むしろ個々の事業を切り出して「別法人化」すべきである。組織を小さく、独立採算を追及し、責任の所在をはっきりさせると規律も働く。これからの行政改革の手法として「別法人化(外出し)」に注目していきたい。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省、マッキンゼー(共同経営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』『ミュージアムが都市を再生する』ほか編著書多数。