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共通の価値観を持ち、真実を追究していく組織文化が、営業の「人間力」を育てる。これがソリューションプロバイダにとって本質的な営業力と言える。もはや小手先の提案営業は通じない時代だが、たとえトレンドは変わっても「人間力」は普遍的な力になる。

 営業力の強化というと、現場担当者の業務知識や商談などのビジネススキルの強化が、何よりも先に思い浮かんでしまう方も少なくないと思います。確かに営業担当者の個人スキルの強化は大事なことでしょう。しかし、それは課題の1つであっても、すべてではありません。

 私は、営業力の強化はむしろ「組織」に着目する必要がある、と感じています。営業は会社の「成長」を担う重要な部門です。企業が持つ「ビジョン」を基に「戦略」を実現していくことが営業のミッションです。それだけに営業は、会社と同じ価値観をしっかりと持っておく必要があるべきです(図1)。

図1●組織力を構成する6つの要素
図1●組織力を構成する6つの要素
「ビジョン」を基に「戦略」を実行するため「体制」を強化し、「人材」や「教育」計画を立てる。より効果的な運営をするため、それぞれの構成要素ごとに「仕組み」を設計する
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いつの時代も本質的な営業力は「人間力」

 もし営業担当者が、会社の価値観とは異なった個人の価値観をばらまいていては、決して強くはなりません。顧客との関係を強化するということも、会社が重視している価値観を、お客様と共有化することだと私は考えています。いわば全社員が共通の価値観をベースにビジョンや戦略を実行するから、正しい方向に向かうのです。本質的な営業力の強化を考えるならば、まずは全社員に共通の価値観を持たせるための戦略が欠かせないのです。

 商談は顧客と営業担当者、すなわち人と人です。顧客との力関係や異なる価値観などの弊害を乗り越え、商談を営業がコントロールしていかなくてはなりません。営業の世界は、小手先のテクニックなどより最終的には、その人の魅力、つまり「人間力」が勝負の決め手です。一流の営業を目指すということは「人間力」を鍛えていくことだと思います。その力を磨く方法は、「本質を見極める」「真実を追究する」「原理原則をつかむ」の3つの努力が必要ですし、組織的な取り組みとして、実行していくことが重要になってくるのです。つまり日々の業務の中で、議論したり指摘し合えるような、組織的文化にしていくことが求められてきます。

 例えば当社では、顧客に対してパートナー意識を持つことを重視しています。それは顧客とフィフティ―フィフティの意識を持って営業活動するというものです。ソリューションプロバイダとして顧客のソリューションをお手伝いするということは、顧客から強い要望があろうと受注金額のボリュームが下がろうと、顧客の判断が間違っているときは、はっきりとアドバイスするべきだ、と私は思っています。

 つまり「買い手は強者」「売り手は弱者」と考え、お客様は神様の意識を持っていては、言葉でいくらソリューションと語っていても、正しい行動はできないでしょう。これが真実です。当社では、できる限り正常な状態でソリューション活動ができるように、前述したようなスタンスを全社員の「共通の価値観」として浸透させています。これは顧客との正しい関係についての事例ですが、様々な物事を材料にして、真実を追究する習慣を持ちましょう。論理力などの訓練になるだけでなく、何よりも組織的に問題意識を高める仕組みになるからです。

責任者の弱さが部下の成長を止めている

 ただし課題もあります。経営トップが、全社員の「共通の価値観」を浸透させようと情熱を燃やしても、それを正しく受け取り実行する部門責任者に問題があれば、現場担当者にその共通の価値観は浸透していきません。

 例えば、重要な商談のクローズにマネジャーが同行することはよくあることです。しかし、ここで着眼すべき点は、同行している上司の意識です。部門計画の達成が頭によぎり、「この商談は落とせない」「こいつでは難しい」「だから自分が決めよう」と、上司自らが決着担当者として行動してしまってはいないでしょうか。

 このマネジャーの気持ちは痛いほどよく分かりますが、組織としては成り立ちません。営業担当者は、自分でクローズすることの「快感」を得ることもできず、自信も身に付かないため、本当の意味で力になりません。人は仕事に対する責任感を与えられ、自分の力で1つの成果を出したときに「快感」を得ると思います。自ら勉強し仕事に取り組む、いわば自立心を持たせるマネジメントこそが鍵となるのです。人材が育たない原因は、多かれ少なかれ組織のマネジメントの問題によることが少なくないのです。

 マネジャーには心の奥底で、部下に対し「こいつにはできない」という意識もあるかもしれません。こうした意識のまま、「お前ならできる」などと部下を指導すると、どうなるでしょうか。いくら言葉では良いことを言っていても、「お前にはできない、頼りにできない」という意識が態度に出ているのです。

 その結果、部下は、頼りにされていないことを感じ取り、自信を失い、いつまでたっても成長できない悪循環に陥っていくのです。これでは、クローズ経験を積めないだけでなく、「人間力」も向上するわけがありません。このような本音と建前の乖離かいりが、人材育成における大きな問題ですし、人間力形成に向けた組織文化作りの大きな弊害となるのです。

 部下に任せられない本当の原因はどこにあるのでしょうか。チーム計画達成ができなかった場合の、営業マネジャー自身に降りかかる責任問題に対する恐怖心が行動の真の原因なのです(図2)。

図2●営業マネジャーの行動理論の例
図2●営業マネジャーの行動理論の例
部下に任せることができない理由を、自分自身に目を向けて徹底的に追究していくことにより、「自分自身の弱さ」に出会う。ここを変革することが問題解決のスタートラインになる
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 「自分の弱さ」が、部下に力をつけさせることより、目先の数字を重視してしまっているのです。このように組織を担う責任者の方は、まずは部下の力を問う前に、自分が人を育てる上で正常な状態にあるかを追究してみることです。本当に強い組織を作ろうと考えているならば、部下の勇気を育てることです。営業も戦いですし、人を育てることも戦いです。どちらも勇気が必要なことです。

思い切りバットを振れる環境に

 部下を「過小評価」していることは、その部下の可能性を勝手に決めてしまっているのです。自分ができなかったから部下もできないだろうと、自分の枠に当てはめて考えている場合もあります。それでは、人材の可能性を伸ばすことはできません。本人の「無限の可能性」を信じ、自分以上の可能性を引き上げていくことが組織の責任者の使命なのです。

 たとえ部下がクローズを担うことで商談の流れが悪くなった場合でも、「失敗は何よりも良い経験となる」⇒「その部下が失敗しても回避する方法を考えておこう」など、自分がフォローして流れを戻すストーリーを用意しておき、失注を回避する方法を考えておけばよいのです。

 人を育てる任務があるマネジャーは、苦しい状況に直面するかもしれません。しかし、そうした場合でも常に正しい思考回路を保つようにしましょう。冷静な態度が、人を育てるときには欠かせません。

 成功している人たちは、成功の連続だったわけではなく、何度も失敗の経験を積み重ねてきたのだと思います。そして彼らは、失敗を敗北として扱わない限り勝利への道につながるということを信じています。たとえ失敗しても、足だけは止めず自分の血肉としてきた結果、1つの成功を収めることができたのだと思います。このような視点が持てるかどうかで、自分の「人生」が変わるだけでなく、部下の人生にも大きく影響するのです。

 人間の可能性は自分が思っている以上に大きなものだと思います。高い志をもって可能性にチャレンジしてこそ、価値ある人生になるのではないでしょうか。人生は一度きりです。思いっ切りバットを振っていきましょう。そして部下も思いっ切りバットを振ることができるように、企業としての環境や組織文化を、勇気を持って作っていきましょう。

岩本 哲夫 アイル社長
1991年のアイル創業以来、業界の常識を打ち破る斬新なサービス企画で毎年2桁の成長を続ける。新卒社員にいたるまで徹底的に経営理念を浸透させるユニークな経営手法が業界でも注目されている