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IMS利用の帯域制御例

 図3はIMS適用型IPTVシステムでの帯域制御にかかわる手続きを図式化したものである。ここではNGNでサービス・セッションを管理するサーバー(CSCF)が中心となってユーザーからのIPTVサービス要求を処理し,ネットワークの帯域管理を担当するサーバー(RACS)がユーザー指定のサービスに必要なネットワーク帯域の割り当てをエッジ・ルーターに指示することで,利用するサービスに必要十分なネットワーク品質を確保する手順を示している。

図3●NGN上でIMSを使って帯域を制御するシステムの例
図3●NGN上でIMSを使って帯域を制御するシステムの例
CSCFがIMSのSIPサーバーであり,それが中心になってRACSに帯域の割り当てを要求する。
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 NGN上で提供するIPTVサービスでは,サービス品質を担保するために帯域制御機能が必須になる。実際にユーザーがIPTVサービスを利用するシーンにおいては,コア・ネットワークでの帯域制御のみではなく,アクセス・ネットワークも含めた帯域制御機能が必要となる。さらに,同一ユーザー宅内において,複数のIPTVサービスが同時に利用されるケースやIPTV以外のサービスが並行して利用されるケースまで考慮にいれると,アクセス・ネットワークでの帯域制御はユーザーが利用するサービス単位で実施する必要がある。

 NGN上で提供されるサービスには,IPTVのように非常に高い信頼性とリアルタイム処理が必要となるサービスがある一方で,メッセンジャー・サービスのようにアプリケーション処理で品質を確保すれば十分なサービスもある。アプリケーションによってネットワークに求める品質レベルは様々である。これらサービスごとに要求される品質の違いは「QoSクラス」という概念で分類される。アクセス・ネットワークでの帯域制御においては,各サービスに望まれるQoSクラスを明確化した上で,各QoSクラスに応じた適切な帯域制御が行われることが必要となる。アクセス・ネットワークでのQoSクラス定義と,その具体的な帯域制御方法については,FG-IPTVでの議論が開始されたところであり,今後,議論が深まることが期待される。

極めて重要な操作性

 私たちにとって,テレビは日常の生活から切っても切れない身近な存在であり,幼児期からの体験に基づいたテレビ独特の使用感覚が身に付いている。そのため,IPTVサービスでの各種操作についても,その感性に合わせることが重要であり,サービス普及を大きく左右する要因になると言われている。欧米のIPTV関連カンファレンスなどではこれを「ユーザー・エクスペリエンス」と表現し,その重要性を繰り返し強調している。

 IPTVにおいては,既存の放送サービスと比べて圧倒的に多数のコンテンツが提供され,さらにIP網の双方向性を生かした新たなサービスも登場するなど,これまでのテレビの使用感に収まらないサービス提供形態が予想されている。その中でいかにユーザーが使いやすいインタフェースを実現するかについては,サービス提供事業者や機器ベンダーなどの経験やノウハウが生かされる領域であり,後述のEPGなどの付加サービスも含め,各社のIPTV方式提案の重要ポイントになると見られている。

アクセス回線と提供サービス

 IPTVはアクセス回線の伝送速度に依存して,各家庭内で視聴可能な放送チャンネル数が限定されるという課題を抱えている。例えば,AT&TのIPTVサービスU-Verse TVではFTTN方式を採用しており,宅内引き込みはVDSL2で,伝送速度は20Mビット/秒前後になると見られている。この速度では,HD品質のテレビ・チャンネルを1~2本程度提供するのが限度である。

 各家庭において1人に1台の割合でテレビが普及し,それに加えて番組録画用の機器がテレビ用チューナーを複数備えている状況において,家庭内で同時に視聴できるチャンネルが二つにとどまるというのはサービス仕様上の大きな課題である。さらに今後のHDTVの普及を考慮すると,CATVとの競争に伍していくだけのサービス内容を確保するには,提供可能なHDTVチャンネル数のさらなる増加が必要だとの声も聞かれ,今後の市場での評価が注目されるところである。

 一方,ネットワークの光化を前提としない南米などでの導入例では,アクセス速度が1.5Mビット/秒程度に限定されるため,H.264方式での符号化でも,家庭内にはSD品質のテレビを1チャンネル伝送するのが限界である。この場合はCATVが導入されていないエリアでの展開を対象としたVOD中心のサービスとするなど,メディア特性を考慮した導入を図っているようである。

放送連携ビジネスの展開

 NGN上のIPTVで最も期待されているのは多様なサービスの創出による新しいビジネスの展開である。テレビ放送にとって通信機能と連携する上での最大のポイントは,IP技術を活用することでサービスの双方向化が容易になることである。

 サービスが双方向化することで,放送番組に連動したゲーム,視聴者からの投票やアンケート回答,テレビコマースといった新サービスの提供が可能になる。さらに,番組視聴者の履歴情報に対応した番組案内(EPG)や録画予約などのように,番組視聴時間を伸ばしていくような機能も提供されるようになる。

 それだけでなく,IPTVでは放送サービスでの新しい収益を実現するために,高付加価値ビジネスモデルも検討されている。そこでは,視聴者カテゴリー,視聴履歴から構成される視聴者プロファイルをNGNのSDP(service delivery platform)内に構築し,その情報を活用することで,個々の視聴者に最適な広告の提供や,その視聴履歴統計の広告クライアントへのフィードバック機能といったことも実現可能となる(図4)。

図4●IPTVの新しいビジネスモデル
図4●IPTVの新しいビジネスモデル
視聴者の行動を分析することで,最適な広告を提供することなどが考えられている。
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 パソコンの検索に連動した広告モデルが消費者の能動的なアクションに対応する高リテラシー消費者へのモデルであるのに対して,これらのIPTVビジネスモデルは,どちらかというとパソコン利用者に限定されない,より広範囲な消費者を対象とすることが特徴である。リラックスした状態での,比較的長いテレビへの接触時間を対象に視聴者にアプローチできることなど,マーケティングから見た魅力は大きい。なお,Webアクセス時のクリックのような積極的アクションではなく,リモコン操作によるチャンネル切り替えを基本とするデータに基づくため,商品購買などへの直接的連動は必ずしも望めない可能性があり,このビジネスモデルの運用についてはさらなる経験と評価が必要とされている。

ホーム・ネットワーク

 最大の課題は家庭内の各部屋の設置されるテレビ受像機や録画機を結ぶホーム・ネットワークにある。

 新築する住居であれば各部屋にEthernet用のケーブルを敷設することも可能であり,これを介して各部屋のSTBあるいはIPTV対応のテレビ受像機をおく場合であれば問題ない。しかし,IPTVの普及期においては,既築住居での配線,すなわち電力線が主体で,場合によってはTV用の同軸ケーブル,電話用の平衡ケーブルが対象となる。

 IPTVにふさわしい宅内伝送方式として現在電力線を利用したPLC,電話線を利用したHomePNA,同軸ケーブルによるMoCAなどの方式が開発されており,さらに無線のWiFiも加え合わせて検討されている。ホーム・ネットワークについてはFG-IPTVの検討項目にも含まれており,標準化でやっと議論が充実し始めた段階である。

まとめ

 現時点でのIPTVはニッチ市場へ対応する形で世界各国で着実に利用者を増やしつつある。一方で,本格的な放送サービスとして視聴者に受け入れられるには,社会インフラとしての品質の担保が必要なため,NGNの普及と相まって,より高付加価値のサービスを提供する手段として導入が進むものと思われるが,そのサービスを支えるビジネスモデルの構築についてはまだ多くの議論が必要である。各家庭では,多チャンネル同時録画が可能な家電機器が普及しつつあり,IPTVサービスとしてもユーザーの多様な視聴形態への対応や,ホーム・ネットワーク機能の標準化議論も含めて,世界レベルで様々な標準化活動が急速に進んでいる状況である。

新庄 将之(しんしょう・まさゆき)
NECキャリアネットワーク企画本部 主任
1995年,NEC入社。局用交換機,IP電話用呼制御サーバーなどのソフトウェア開発に従事。2004年より事業戦略の立案・遂行にかかわる業務を担当。現在はIPTV関連の事業企画業務に従事。