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 関東広域圏における地上デジタル放送の新しい送信所(親局)を巡る関係者の駆け引きが,再び激しくなってきた。現在の親局である「東京タワー」を運営する日本電波塔(本社:東京都港区,社長:前田伸氏)が2007年9月21日にNHKと民放キー局5社に対して,「地上波放送が完全にデジタル化される予定の2011年7月24日以降も,東京タワーを継続して使用してほしい」と求めたからである。

 NHKと民放キー局5社は既に,東京都墨田区に建設される「新東京タワー」(すみだタワー)を2011年7月以降,地上デジタル放送の親局として使用することを決めている。建設を担当する東武鉄道と,2006年3月に最終合意していた。その東武鉄道は,日本電波塔が東京タワーの継続使用を求めた1週間後の9月28日に,新東京タワーの施工業者を大林組に決定したと発表した。2008年夏に着工し,2011年度に開業する予定である。東武鉄道は,「新東京タワーの計画は順調に進んでおり,日本電波塔の真意を測りかねる」と困惑している。

 そもそも,NHKと民放キー局5社が新東京タワーの使用を決めたのは,地上デジタル放送の難視聴エリアをできるだけ減らすためである。携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の視聴エリアを広げるためにも,現在の東京タワーよりも高い場所から電波を発信する必要があると判断した。新東京タワーの高さは610mであり,東京タワー(333m)の2倍近い。しかも現在の地上デジタル放送の電波は,東京タワーの特別展望台(高さ250m)のやや上から発信されている。新東京タワーを使用すれば東京タワーを使うよりも,中継局や「ギャップフィラー」(電波が届かないエリアをカバーするための小型中継器)の設置数を減らすことができる。

 これに対して,東京タワーの継続使用を求めた日本電波塔は,(1)地上デジタル放送の送信アンテナを,現在よりも80~100m高い位置に移す,(2)関連工事を含む費用は日本電波塔が負担する,(3)NHKと民放キー局5社が日本電波塔に支払う使用料を現行より引き下げる──といった条件を出している。現在の東京タワーを使い続ければ,既に設置されている家庭のUHFアンテナの方向を変更するといった新たな受信対策をとらなくても済むというメリットもある。

 こうした日本電波塔の動きに対して,テレビ朝日の君和田正夫社長は9月26日の会見で,「日本電波塔の要請には,NHKを含む業界全体で対応する」と述べ,表向きは平静を保っている。しかし民放キー局の関係者の中からは,「新東京タワーの使用計画を,今さら白紙に戻すことはできない」という声が上がっている。NHKや民放キー局が作成し,段階的に実施している中継局やギャップフィラーの設置計画は,親局が新東京タワーに変更されることを前提にしている。東京タワーを使い続けることになれば,その計画を今から作り直すといった問題があるからだ。