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 オフィスや店舗の床は1平方メートル当たり1分、トイレは同5分ーー。清掃の作業工程を細かく分解し、工程ごとの標準時間を「見える化」したことで、作業効率を約2倍に高めた会社がある。国内約500カ所の清掃業務を請け負っている宮豪だ。

 同社は約10億円をかけて、工程管理システム「BOIS」を開発。清掃担当者一人ひとりにPDA(携帯情報端末)を配布し、最適な作業の流れや標準時間を指示したり、実際の作業時間や結果を収集している(図1)。

図1●宮豪はビル清掃作業の工程を「見える化」し、生産性と作業品質を向上
図1●宮豪はビル清掃作業の工程を「見える化」し、生産性と作業品質を向上
スタッフ全員にPDAを配布し、清掃の順序や内容、作業時間などを管理する
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 工程を「見える化」する以前は、清掃担当者への指示や管理は、現場のマネージャー任せ。「打ち合わせや清掃用具の準備といった清掃以外の時間が、清掃時間全体の7割近く占めていた」と的場一博社長は振り返る。一方、工程を「見える化」したことで、打ち合わせなど余分な時間が全体の4割近くに減少。床磨きなどの清掃作業に割く時間を、従来の2倍に増やせた。

担当者は画面をクリックするだけ

 宮豪は清掃業務を請け負うと、まず工程管理の担当者が現場を視察する。自社で定めた標準時間を基に、作業工程を決めるためだ。大規模なビルだと、清掃工程は100を超えるという。その後、清掃を担当するスキルに応じて、各工程を割り当て、工程管理システムやPDAに登録する。

 清掃担当者は、PDAの指示に従って清掃作業をするだけだ。例えば、売り場の清掃が終わると、胸ポケットからPDAを取り出して、「作業完了」ボタンをクリックする。すると、次の作業内容と標準時間が画面に表示される。これを繰り返せば、「初めて清掃を担当する人でも、最適な流れで清掃できる」(的場社長)。

 一連の作業が終わると、清掃担当者は控え室にあるパソコンにPDAを接続し、その日の作業時間と内容を本社に送る。単なる作業報告ではなく、清掃の標準時間を日々、見直すためだ。「清掃担当者の平均スキルが変われば、標準時間も変わるはず。理想を押しつけるだけでは、実効性は上がらない。結果を見るだけでなく、改善して初めて“見える化”する意味がある」と、的場社長は強調する。

全体の15%は意図的に「見ない」

 宮豪の「見える化」は、一人ひとりの行動を分単位で細かく管理するため、清掃担当者に過度のプレッシャーを与えかねない。がんじがらめの管理下だと作業の遅れを隠そうと、清掃担当者が偽ったデータを入力する可能性も否めない。

 この課題を解決するため、宮豪では意図的に「見ない」時間も作っている。清掃に当てる時間の15%を「自主作業時間」に割り当てているのだ。あるビルの清掃作業が2時間の場合、作業終了前の18分間は、作業担当者は何をやってもよい。この時間に何をしたかは、PDAに入力する必要はない。

 「業務の“見える化”は、見る側となる管理職や本社の都合だけで推進すると、必ず破綻する。見られる側となる社員の心理に配慮した仕組み作りが不可欠」と、的場社長は指摘する。