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 「GPhone」(グーグル電話)登場の噂が,かなり信ぴょう性を帯びてきた。10月8日付けのNew York Times紙によれば,通称GPhoneは2007年中に発表され,2008年には市場に出回る見込み。しかし米GoogleのGPhoneは,米Appleの「iPhone」のようなハードウエアそのものではなく,GoogleがLinuxをベースに開発中の携帯端末の基本ソフトを指すという。Googleとしては,キャリア(携帯電話サービス事業者)や端末メーカーを説得して,Google仕様の基本ソフトを搭載した携帯端末を作らせ,その上で思い通りのモバイル広告事業を展開したい。つまりモバイル産業をパソコンのようにオープン化し,その主導権をキャリアから奪い去るのがGoogleの狙いだ。


 「GPhone登場の背景には,Googleの強力なロビー活動によって実現した「無線インフラのオープン・アクセス・ルール(Open Access Rules)」がある(前編を参照)。これは2008年早々にも行われる「700MHz帯」の競売を前提にしている。米国では,2009年にテレビ放送の方式がアナログからデジタルに切り替わり,それに伴い,国に返還されるアナログ放送波(700MHz帯)が2008年1月ごろに競売にかけられる。この競売への参加を希望する企業に対し,入札条件として提示されるのが「オープン・アクセス・ルール」で,それは以下の2項目からなる。

(1) 落札した電波で作るモバイル・ネットワーク(無線インフラ)には,そこで使う端末の仕様やアプリケーションに関して,いかなる拘束も課してはならない
(2)これまで携帯電話端末は一つのキャリアでしか使えなかったが,これをどのキャリアのサービスでも利用できるようにする

 ここでGoogleがGPhone実現へのよりどころとするのが条件の(1)である。米FCC(連邦通信委員会)が「700MHz帯の無線ネットワークに接続される携帯電話の仕様に対し,キャリアはいかなる拘束も課してはならない」と定めている以上,「そこに独自仕様の基本ソフトを搭載したい」というGoogleの要求を,キャリアは無下に退けるわけにはいかない。そもそも条件(2)によって,端末メーカーがキャリアの支配を脱却して,自分たちの意思で多様な携帯端末を開発し始めるので,Googleとしては端末メーカーを説得してGPhoneを作らせればよい。これはキャリアを説得するよりも容易であろう。

 いずれにせよ,今回のFCCの決定によって,GoogleやSkypeのように固定系インターネット(パソコンとインターネットの世界)を何らかの形で制したIT企業が,満を持してモバイル分野に本格進出する道筋がひらかれたのである。

Googleが狙うのはモバイル・プラットフォームの開放

 これらのIT企業がやりたいことは,モバイル・プラットフォームのオープン化である。特にGoogleは強くそれを望んでいる。ここでいうプラットフォームとは,携帯端末に搭載される基本ソフト,あるいはその上のミドルウエアあたりまでを指す。日本と同じく,米国のキャリアもプラットフォーム上に搭載されるアプリケーション(サービス)を厳しくコントロールしている。これをオープン化するということは,ちょうど固定系インターネットの世界のように,誰もが自由にアプリケーションやWebサイトを開発し,それをどのキャリアのネットワークからも無差別で利用できる環境を整えることだ。

 それを実現する一つの方法は,プラットフォームをキャリアから分離する,つまりキャリアとは別の企業がプラットフォームを提供することである。たとえば米Microsoftが提供する携帯向けOS「Windows Mobile」がその一例だ。ところが,世界で販売されている携帯電話のうち,Windows Mobileが搭載されているのは全体のわずか12%。パソコン向けOSのWindowsのような業界標準にはほど遠い。しかし逆に言えば,付け入る余地が十分にあるということだ。

 そこでGoogleは,Windows Mobileに代わって,Google仕様の基本ソフトをモバイル産業のオープン・プラットフォームにすることを狙う。そこに数多くのソフトウエア・ベンダーを引き付け,多種多様なアプリケーションを開発してもらう。あるいは固定系インターネットで起きたWeb2.0のような,ユーザー中心の文化をモバイル・サービス上でも開花させる。それにより,Google仕様のプラットフォームをユーザーにとって魅力的なものにして,モバイル産業の主導権をキャリアから奪い去るのだ。あるいは,そこまでいかなくても,相応のシェアを奪い取るのがGoogleの狙いである。自らのモバイル・プラットフォームが普及すればするほど,Googleがその上で広告ビジネスをやりやすくなるのは言うまでもない。

 もちろんGoogleがそこに至る道のりは険しい。どの国でもモバイル産業は,少数の大手キャリアを中心に,いくつかの閉じた世界を形成してきたからだ。そこはパソコン系の世界とは全く違うルールによって支配されている。彼らの牙城を崩すことは,いかにGoogleといえども至難の業と見られている。しかしGoogleがそうした野望を抱いていることは,ほぼ間違いないと言っていいだろう。