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プレゼンテーションは長かった商談の最後の山場。ユーザー企業の出席者の“人物評定”など周到な準備が必要となる。ユーザー企業はSIerを“信頼”していても、“信用”はしていない。商談を勝ち取るために、さらに勝ち負けを超えてユーザー企業と長期的な関係を築くためにも、誠実で“中立”的なプレゼンを心がけるべきである。

 この連載もいよいよ最終回を迎えた。第1回の「RFPが出る前に勝負あり」からスタートして、提案の各ステージごとに必勝ポイントを紹介してきた。最後の山場は、何といってもプレゼンテーション(図1)。提案の価値を最大限に引き上げるためにどのような工夫が必要なのだろうか。

図1●ステージ別で見た提案の“業務プロセス”
図1●ステージ別で見た提案の“業務プロセス”

ユーザー部門長が出席するなら内容を変える

 プレゼンテーションでは、ユーザー企業の出席者を確認するのは当然(図2)。まさか「資料の部数の都合がありますので」などと、出席人数だけを確認して済ますようなお粗末なことはしていないと思う。情報システム部門だけなのか、あるいはユーザー部門の部門長も出席するのか。一般的に、ユーザー部門長が参加するか否かで、プレゼンテーションシナリオの組み立て方は大きく異なってくる。

図2●最大の山場のプレゼンテーションに向け周到な準備が必要
図2●最大の山場のプレゼンテーションに向け周到な準備が必要

 ユーザー部門長が参加するか否かによって、なぜ作戦が異なるのかと言うと、彼らの最大の関心事が、そのプロジェクトにより業務展開・営業活動をどのように変革していかなければならないかというところにあるからだ。だから、彼らは「○○システムの機能は…」とか、「△△システムの構成は…」などといった話にほとんど興味は無い。

 ユーザー部門長、あるいは同部門の企画推進担当者から「業務の何がどう変わりますか?」と質問が出た際に、“タジタジ&シドロモドロ”になるようでは、完全に失敗のプレゼン見本となってしまう。「そんなことは客が考えることであって、我々には関係無いよ!」などと心の中で思っていると、思わぬ失言が飛び出して、今回のプレゼンだけの失敗にとどまらず、以後のユーザー企業との関係を維持するうえでも、まずい状況になってしまう。

 実は、部門長をはじめユーザー部門のメンバーはSIer以上に正しい答えを知っていたり、あるいは自分なりの答えを持ってプレゼンに臨んでいたりする。ではなぜ聞くのかと言うと、「どれくらい自分たちのことを考えているのか、SIerの口から直接聞いてみたい」との欲求からだ。だから、適当なことを言うと手痛い目に遭う。

 そうはいっても意地の悪い質問なら恐れるに値しないので、知らないことは「知らない」と回答すればよい。むしろ下手な生兵法は怪我のもとだ。プレゼンの中でも、冒頭、趣旨、機能概要、システム構成などの説明の中で、ユーザー部門の業務面への配慮を意識した内容を若干付け足せばよい。そのあたりのセリフを語るために必要な情報は、営業担当者がヒアリングすれば簡単に入手できるレベルのもので十分である。

出席者の“人物評定”も不可欠

 次にチェックすべき内容として重要なのは、出席者の“人物評定”である。人物評定というのは、出席者がどのような立場で出席してくるかだけでなく、さらに把握レベルを上げて、出席者の職務上の経験とか、過去の商談でどのような発言ややり取りがあったかなどを、SIerのプレゼン参加メンバーの間で共有することだ。これは必須の作業だと考えてほしい。

 初めて会うような人は無理としても、過去に接したことがあるならば、その経験をベースに「どんな観点から質問をしてくる人物か」を事前学習して対策を練っておくことをお勧めする。なかには、上司である部門長の前で「いいところを見せよう」などと考え、とんでもない質問を浴びせてくる“曲者”が入り込んでくる場合もあるので、要注意人物のチェックも忘れずに行っておきたい。

 本来は、そのような輩に惑わされる必要などないのだが、そうしたくだらない質問に対する対応を誤ると、時としてマイナスに作用する場合もあり得ないことではない。そもそもユーザー企業のマネジメントクラスの人間は、自社の社員のそのようなレベルの低い質問など眼中に無いので、まともに渡り合ったりせず、適当にあしらっておけばOKである。ユーザー企業のマネジメントクラスも、そのように対応してほしいと思っているものである。

 従って、営業担当者は普段の時からユーザー企業のプロジェクト担当者の性格や癖、さらには業務経験・見識などさまざまな角度からの情報把握に努め、ユーザー企業と一心同体になって、プレゼンが円滑に運ぶように心掛けてリードしていただきたい。ユーザー企業で皆さんの提案に好意を持っている人といえども、プレゼンではどうひっくり返ったところで “SIer支援者”として助け舟を出すことはできない。そのことを肝に銘じておいてほしい。

プレゼンの場は“研修の場”ではない

 プレゼンの時間についても、きちんと把握しているだろうか。もちろんユーザー企業から事前に所定時間を指示されている場合がほとんどだが、逆にユーザー企業から「どのぐらい必要ですか」と質問されたら、何を根拠に回答するのか。

 過去の事例から見て、「このボリュームであれば、このくらいの時間では」といった算段程度の認識ではダメなのである。提案書を作る時から説明時間、説明者を意識して作業を進め、完成時には「説明時間は○○分」と設定できるくらい洗練された提案であってほしい。ダラダラと記述内容を説明されたりするのは、ユーザー企業としてはカンベンしてほしいのだ。

 提案書を読めば分かる内容を改めてクドクドと説明されたのでは、ユーザー企業にとっては時間の無駄である。「退屈の限り」で終わればよいのだが、ユーザー企業から「説明能力の欠陥」との烙印を押されてしまって、今回の商談だけでなく次の商談でも“マイナス効果”が残存してしまうことになる。

 私も過去、若く経験の少ないプレゼンターが熱意のあまり資料の全内容をしゃべろうとして、モノトーンの説明に終始する場面に数多く遭遇した。若手育成の観点から、場数を踏ませるとの意味では結構なことなのだろうが、ユーザー企業でのプレゼンの場は“研修の場”ではない。若手の研修なら、リハーサルで済ませておいていただきたい。

 与えられた時間の中で“何を強調するのか”、“何を印象付けるのか”、競合他社を意識し、プレゼンの順番も考慮した上で表現ができればベターだ。なぜならば、同じRFPに基づいて提案を受けるわけだから、SIer各社の提案は当然重複する部分がある。ユーザー企業としては、重複内容はカットして説明してほしいと思う。従ってプレゼンするにあたって、SIerが発表順序を事前に把握することは重要なポイントとなる。

提案内容の説明は中立的立場で

 ユーザー企業は複数の提案書を比較検討したうえでプレゼンに臨んでいるので、“自慢話”みたいな説明では、ユーザー企業に選別させるための判断材料を提供していることにならない。SIerの皆さんにはぜひとも、中立的な立場で自社の製品・サービス・技術力の優位点を“淡々”と説明していただきたい。

 よく見かけるのは、他の案件でのプレゼンでうまくいったので、今回も同じ“手口”を踏襲するというもの。こうした二番煎じのシナリオが通じるユーザー企業もいるが、それが通用するユーザー企業かどうかは皆さん自身で判断していただきたい。

 また、コストパフォーマンスは申し分ないが実態はオーバースペックといった提案内容の場合、ユーザー企業は提案書提出時には質問をせず、プレゼンの場で見解を問うことがある。SIerの皆さんは、ユーザー企業から“信用されていない”との前提に立って行動していただきたい。いくらユーザー企業と懇意な関係にあったとしても、赤字になってまで仕事を取ることはあり得ないのだから、SIerのスタンスを明快に打ち出した内容のプレゼンであってほしいと思う(“信用していない”とは言ったが、“信頼していない”とは言っていないので念のため)。

 最後にクロージングの心構えを述べる。ユーザー企業としては、誠意ある対応をしてくれたSIerとは一度限りの出会いではなく、長期間にわたってより良い関係を築いていきたいと思っている。何事にも最初の関門があるわけで、次の機会には学習効果を高めて、質の高いユーザーオリエンテッドな提案を出してほしいと考えている。SIerの皆さんも、プレゼンに漕ぎ着けたものの受注に至らなかったとしても、そうしたユーザー企業の思いに応えてほしい(図3)。

図3●プレゼンの心得
図3●プレゼンの心得

 さて5回にわたり、ユーザー企業の立場で私が経験した事例を基に、SIerの提案に対して思うところを紹介してきた。SIer、そしてユーザー企業の双方にとり、ベストソリューションが採択され、それぞれの企業にの業容・業績拡大への一助になればとの熱い思いで筆を取った次第である。

松澤 純一 テクノロジストコンサルティング 取締役主席テクノロジスト
UFJ信託銀行で事務企画部長、IT企画部長を歴任後、UFJトラストシステム常務取締役。2006年11月にテクノロジストコンサルティング入社、現在は取締役主席テクノロジスト。