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 2007年9月29日(土曜日)の日本経済新聞朝刊一面に,「IHI,170億円営業赤字/500億円を超す下方修正」の見出しが掲載されていました。IHIといえば,言わずと知れた,石川島播磨重工業。

 記事にあった170億円や500億円といった金額はともかく,IHIが2008年3月期の業績予測について,いずれ下方修正を行なわざるを得ないだろうな,ということは,筆者が制作した上場400社データ収集ソフトによって,すでに4か月前に予測済み。今回の記事は筆者にとっては特段,驚くべきものではありませんでした。

 「あと講釈」といわれないために,戦略会計の視点から,その根拠を説明しましょう。合わせて,IHIが今回,なぜ「甘いコスト管理」とマスコミから叩かれることになったのか,その理由についても,2007年5月までに公表されている資料のみに基づいて分析してみることにします。

 なお,このコラムに記述してある専門用語の意味については,コラムの末尾脚注に掲載してある該当書籍を参照してください。

変動費型ビジネスへ急速に移行していたIHI

 現在,上場企業では2004年以降,四半期報告制度が導入されています。連結ベースの四半期報告データを使って,営業利益を基準にIHIの固変分解(注1)を行なったところ,図1の結果を得ることができました。

図1●IHIの固変分解の推移
変動費率 年間の固定費の額
2005年3月期 81.4% 1921億円
2006年3月期 88.4% 1089億円
2007年3月期 90.9% 878億円

 過去3カ年の推移を見ると,変動費率は上昇し,固定費の絶対額は減少傾向にあることが分かります。わずか3期で固定費が半分以下にまで減少(1921億円→878億円)しているのは,ちょっとした驚きです。

 このことからIHIは,本連載の第18回コラムなどで紹介した変動費型ビジネスへ移行していることが分かります。

 2008年3月期の業績予想については,図1を加重平均した値,すなわち変動費率87.3%,固定費1271億円をベースに,以下で推算してみることにします。

 IHIが2007年5月に公表した決算短信によると,2008年3月期の予想売上高は1兆2300億円。利益予測はともかく,予想売上高を読み誤る企業はないでしょうから,この金額と変動費率87.3%,固定費1271億円をもとに2008年3月期の予想営業利益を算出してみました(図2)。

図2●予想営業利益の計算
(予想営業利益) =(予想売上高)×{1-(変動費率)}-(固定費)
=1兆2300億円×(1-87.3%)-1271億円
=291億円

 同社が2007年5月に発表している,2008年3月期の予想営業利益は400億円でした。それに対し,図2の計算結果は291億円どまり。

 両者の乖離(かいり)幅である109億円(=400億円-291億円)を図2で求めた予想営業利益291億円で割ると,なんと37.5%もある。予想営業利益に4割近くの水増しがあっては,業績の下方修正は避けられないだろう,ということが2007年5月時点ですでに予測できたのです。

 参考として,過去3か年のIHIの損益分岐点売上高を見てみましょう(図3)。右端にある損益ポジション倍率は,損益分岐点売上高の何倍の売上高を実際に達成しているかを表わす指標(注2)で,第14回コラムなどでも登場しています。

図3●損益分岐点売上高等の推移
損益分岐点売上高
(A)
実際売上高
(B)
損益ポジション倍率
(B)÷(A)
2005年3月期 1兆0320億円 1兆0890億円 1.06倍
2006年3月期 9393億円 1兆1271億円 1.20倍
2007年3月期 9644億円 1兆2349億円 1.28倍

 IHIの損益ポジション倍率は,過去3か年にわたって改善をみせていただけに,今回の下方修正は,既存の株主にとって残念な結果といえるでしょう。

 次回は,IHIのコスト管理のどこに問題があるのかを検証してみることにします。

(注1)「回帰分析」という統計学的手法を使って,コストを固定費と変動費に分解すること。四半期報告データを使った固変分解の手法については本連載の第13回でも解説しています。より具体的な手法については,拙著『ほんとうにわかる株式投資』116ページを参照してください
(注2)詳しくは前掲書111ページ参照


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/