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前回のRFP受領時のチェックポイントに続き、今回はRFP受領後から提案書作成・提出までのフェーズで注意するべきことについて述べる。このフェーズでのユーザー企業との接点は「質問」に限られるため、ユーザー企業の評価ポイントはここに集中する。にもかかわらずSIerは提案書作成を急ぐあまり、思わぬミスを犯すことが多い。

 前回は、RFP(提案依頼書)を受領するときのチェックポイントとして、「落とし穴を事前に見付けて回避する」ことの重要性を指摘した。今回は、RFPを受領して提案書を作成し提出するまでのフェーズでの注意点を解説する(図1)。

図1●ステージ別で見た提案の“業務プロセス”
図1●ステージ別で見た提案の“業務プロセス”

 ユーザー企業としてはRFPを出した後は、ひたすら提案書が提出されるのを待ち続けるしかない。従って、SIer各社がRFPの受領後、どのような体制でRFPをチェックし、内容の確認、依頼内容の理解、提案内容の検討、提案書のドラフト作成・検証といった一連のプロセスを実施しているかは知る由もない。そこでユーザー企業からすると、RFPの内容に関する疑問をどういう形で整理して自分たちにぶつけてくるかが、SIerを評価する上で大きな着眼点になる。そのことが、このフェーズで最も重要なポイントであることを、まず十分に認識していただきたい。

 ユーザー企業はRFPを投げる段階で、SIerをある程度絞り込んでいる。さて、選定した各社がどのような行動を取り、どのようなレベルの質問を、いかなるタイミングで出してくるのか、ユーザー企業は興味津々で注目しているのだ。

 老婆心ながら申し上げておくと、SIerの皆さんはまさか、いきなり担当者ごとにRFPの各パートを振り分け、一斉にしらみつぶしのようにRFPを読み込んで、それぞれの質問をバラバラにユーザー企業の担当者に照会するようなことはしていないだろうか。過去には、そのようなことを平気でやるSIerがあったように記憶している。

 そこまでひどくはないにしても、質問事項を担当営業が集めて、「当社からの質問は下記の通りです。よろしくお願いします!」というのもあった。SIerにとっても自分たちの提案が採用された後のことを考えると、提案を作る上で重要な質問をそのようなやり方で済ませることはできないはずだ。ところが、それがそうでないのが不思議なところである。

 SIerの質問がこのようなレベルだと、ユーザー企業としてはその後のことが心配でならなくなる。なぜかと言うと、このようなコミュニケーションの能力レベルでは、発注後のシステム開発プロセスを安心して任せることのできるプロジェクト管理能力を備えているのだろうか、と疑問に感じてしまうからだ。

 もちろんコストが著しく廉価な小規模プロジェクトなど、案件によってはユーザー企業のオウンリスクの判断において、その程度のレベルの低さは大目に見ることができる場合がある。いわば“承知の上”で付き合う覚悟を決めた場合であるが、そのような事例は例外中の例外だと思った方がよい。

質問内容、質問者の選定は慎重に吟味せよ

 それでは、どのような「質問」が良いのか。答えを簡単に言ってしまえば、RFPを読みこなす作業過程で出てきた疑問を全部集めて分析した上で、質問に向けた作戦を練るのが賢明であるということだ。以下、この点について解説していく(図2)。

図2●RFP受領後の質問は評価に直結するため戦略が不可欠になる”
図2●RFP受領後の質問は評価に直結するため戦略が不可欠になる

 RFPを読む過程で出てくる疑問は、大きく分けて、業務的なものと技術的なものとに分類される。RFPの中で業務的な内容の部分は、ユーザー企業の業界動向あるいは業務知識に精通していないと理解できないものが数多く含まれている。従ってユーザー企業から評価を得る業務的な質問のポイントは、「ユーザー企業の業界の直近の動きについて、いかに敏感に反応しているか」ということを示す内容に、質問を仕立て上げることにある。一方、技術的な質問については、ユーザー企業のプロジェクトメンバーの知識レベルに合わせた内容にする必要がある。技術者の興味本位の質問は、この時点ではテークノートにとどめ、後々の場面において確認していけばよいものが比較的多い。

 もちろん、質問を単に分類しただけで、後は手分けをしてユーザー企業の担当者に闇雲に質問していたのでは、結果がおのずとはっきりしてしまう。肝心なのは、質問の組み立て方を戦略的に検討し、戦術として効果的な質問の流れを作るということに尽きる。そのため、誰が誰に質問するかというシナリオを作ることも、質問の分析と併せて重要なファクターになる。少なくとも、「RFPの個々の内容に疑問を出した部署・担当者が質問すれば一番クリアーでよい」ではダメなことは、ご理解いただけると思う。

 質問をする人の人選では、不用意な質問をする者、つまり相手の出方次第でボロを出す可能性がある者は絶対に避けるべきである。ユーザー企業の担当者が優秀なら、質問の内容をトリガーにして、あらゆる手段でSIer の資質を見極めようと躍起になっているはずだ。そこに“おいしい質問”をする人を出したら、まさに飛んで火に入る夏の虫である。要は、前回説明したRFP受領時の説明会の席と同じである。ユーザー企業は質問を通じてSIerを審査しているのだということを忘れないでほしい。

 SIerが質問をぶつけるユーザー企業の担当者の見極めも重要だ。一般的に説明会の席上で、ユーザー企業から質問要領などについて事前説明がなされているはずである。その際に質問先に指定された人物がどのようなポストでどのような役回りを担っているかは、ぜひとも確認しておかなければならない。

 単に儀礼的に(形式上)名前を記載しているだけの人もいれば、“SIerウォッチャー”のような評価専門の手強い相手もいるのだ。ユーザー企業の中にはプロジェクトによって、質問内容で質問先をあらかじめ担当割りしているところもある。しかし、それは効率的に質問をさばくため担当割りしているだけであり、基本的には後で質問内容を集約して「SIerの対応分析」を行っていると考えてもらって間違いはない。

片っ端から質問ではダメ、質問の流れが重要

 さて、質問の流れの組み立てについてである。SIerの皆さんは、質問を分類・検討した上で、質問の順序を決めているだろうか。普通はそこまでやっていないと思うが、質問の出し方まで検討するような競合相手がいたとしら、スコアリングに差が付いてしまう。

 「質問の出し方まで考えている時間なんかない。片っ端から質問をして、質問の多さで誠意を見せるのだ!」といったやり方は“営業の浅知恵”とまでは言わないが、こうした“営業の鏡”的な行動スタイルは、ユーザー企業から見れば無いよりましといった程度。インテリジェンスを感じさせず、いささかお粗末な感がある。過去のプロジェクトでも、終盤での力任せの作業で修羅場を乗り切ってきたのではないか、とユーザー企業は不安を抱いてしまう。

 一概には言えないが、質問の流れを組み立てる上で一番良い方法は、質問ごとに「なぜこの質問をするのか」、「この質問をしたらユーザー企業はどう反応し、SIerをどう見ることになるのか」などについて整理してみることだ。そうすれば“ひとひねりの工夫”が出てくるだろう。質問の流れを組み立てる必要性がよく分からないのなら、過去の案件でのRFPに対する質問をヒストリカルに振り返り、それがユーザー企業にどう評価されたのかというテーマで勉強会を開いてみてはいかがだろうか。ユーザー企業の評価まで分析できなくても、過去の案件での質問を調べ直してみるだけでも、学習効果を上げることが可能だ。

 ちなみにユーザー企業のシステム企画担当者は、SIerの過去の質問の巧拙について記憶しているものと思っていた方がよい。担当者が替わったとしても、SIerの過去の言動、成果について組織内で受け継いでいるものである(もちろん、継承できないユーザー企業もあるとは思うが)。なぜユーザー企業がそのようなことをする必要があるのかと言うと、学習効果の無いSIerは仕事を始めてからも、さまざまなフェーズで同じような過ちを犯す確率が格段に高いということを経験しているからなのだ。

 さて今回の最後のポイントは、提案書の決裁権限者を認識しているかということである。“真の決裁権限者”は誰かということを認識して質問するとしないとでは、評価に影響を与える。決裁権限者を意識した質問の表現や表記をとっているかどうかについては、工夫を凝らすことが必要だ。これは、質問の組み立て時の重要な要素である。

 担当者の単なる疑問や確認事項であっても、その質問内容(表現・表記)がユーザー企業のマネジメント、CIO(最高情報責任者)の目に触れることを十二分に意識(計算)した上で作成しないと、せっかくの良い質問が付加価値を生まないことになる。

 質問は単に分からない個所を明確にして、正しく提案するための手段に過ぎないと思っているようでは、気が付かないうちに、とんでもない評価を受けて取り返しのつかないことになる(図3)。SIerの皆さんには、そのことをよく認識していただきたい。

図3●RFPに対する「質問」の重要性
図3●RFPに対する「質問」の重要性

松澤 純一 テクノロジストコンサルティング 取締役主席テクノロジスト
UFJ信託銀行で事務企画部長、IT企画部長を歴任後、UFJトラストシステム常務取締役。2006年11月にテクノロジストコンサルティング入社、現在は取締役主席テクノロジスト。