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本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

コスト削減を目指し,海外ソフト会社に開発を委託する日本企業が増えている。しかし,多少経験を積んでも失敗し続け,結局は海外への発注をとりやめてしまうことも多い。海外でのソフト開発委託を15年にわたり継続してきた筆者が,前号の「初級編」に続き,品質の確保や納期遵守のためのノウハウ,委託先との信頼関係を築くための要諦を解説する。

岡崎 邦明

これまで何回か海外のソフト会社に開発を委託していますが,品質と納期にいつも苦労しています。どうすればよいでしょうか?

 国内の協力会社であれば,ある程度任せておいても相応の品質のものが納品されることが多いのですが,海外への発注ではそうはいきません。納入日になって進ちょく遅れが報告されたり,品質が極端に悪いという問題が発生することがよくあります。同じようなミスを繰り返すことが多いので,毎回きっちりと注文をつけ,フォローする仕組みを作るのが大切です。

 ただし,日本の発注者も気をつけなければなりません。要件があいまいなままで発注しないことが肝要です。これは現地のソフト会社が日本企業の責任を追及するときによく言うことです。さらに,開発中の安易な要件変更や追加も避けなければなりません。遅れが不具合修正などの開発そのものの問題によるものなのか,仕様の修正・追加によるものなのかわからなくなり,責任があいまいになります。

 期待どおりに成果物を出してもらう仕組みやマニュアルを作る前に,委託先が日本の要求レベルを理解しなければ改善は望めません。日本国内と海外とで委託取引実績があまりない場合は,まず中心となる外国人技術者を日本に呼ぶ「オンサイト開発」を実施して,モジュールなどの部分的な開発を経験してもらいましょう。その中で日本市場が要求する品質と納期,仕事のやり方,ビジネス習慣などを覚えてもらいます。実績や信頼関係ができた段階で,海外のソフト会社が現地で開発する「オフショア開発」などに進めるのが望ましいです。

 それでもうまくいかない場合は多いものです。大原則は任せきりにしないことです。コストだけを追い求めると「安かろう,悪かろう」という結果に終わります。オフショア開発では,日本側だけでなく現地トップの指導が重要です。品質や納期を万全にするには,仕様変更手順,開発途中のレビュー,受け入れ検査,ドキュメント作成など,それぞれの改善が必要と考えたほうがよいでしょう。

 ただ,これと言った完ぺきな解決策はなかなかありません。方法論まで立ち入って議論し,成果物そのものの品質と,開発組織の成熟度の両方を評価する必要があります。

 海外の委託先の啓蒙,教育には一定の効果があります。最初は発注者から要求項目・手順などを提示しますが,言いっぱなしでは効果が期待できません。委託先に自ら手順を作ってもらうべきです。それを実行する中で何が障害となるのかを議論したほうがよいでしょう。

 委託先が,CMM(能力成熟度モデル)などの認証を取得していても日本の発注者が満足できるとは限りません。CMMを取得していない日本企業が,取得している企業より高い品質のソフトを開発している例はいくらでもあります。実態としては,海外のソフト会社は,日本のソフト会社と比べて,品質・納期意識が低いことが多い。日本の発注者がCMMのレベルだけを見ていては,失敗するだけです。

 発注者は,委託先の品質や納期を現場レベルでしっかりと把握していなければなりません。欧米の堅実な企業は,相手のレベルに合わせてそれなりのことしか発注しません。短期的にレベルを高めようとする日本の企業がありますが,賢明ではありません。

 「個人主義」ということも品質や納期に大きな影響を与えます。海外のソフト会社は,欧米企業のように役割分担が徹底しており,個人の役割を果たすことが目標となります。日本では,各個人がプロジェクト全体のことを考え,自分の担当でなくても不十分な点を補ってプロジェクトを進めることが多い。良しあしは別にして,品質や納期に違いが出がちです。

 品質と納期の改善については,日本でもそうなのですが,一度言っても伝わりませんし,直らないと考えておくべきです。改善するためには,理解(Understanding),忍耐(Patience),意思疎通(Communication),管理(Management)という4点に気をつけて努力を継続する必要があり,日常業務における習慣にすることが重要です。

これまで進ちょく管理などで失敗しています。どうすべきですか?

 管理体制をしっかり整えることが必要です。オフショア開発が失敗する原因は,開発プロセスや進ちょく状況が日本側から見えにくいことです。

 国内への開発委託でも,日本人は接近型の開発を好む傾向があります。さらに日本人は外国人とのコミュニケーションが下手です。要求事項や思ったことをはっきり表明したり,要求事項をびしびし言うことが少ない。言わなくても相手はわかってくれるだろうという考える傾向が強い。これではオフショア開発は成功しません。

 オンサイト開発で信頼関係がある程度作られても,その技術者が帰国すれば母国の雰囲気に戻る傾向が強い。プロジェクトの進行中は,図1のように発注者からお目付け役になるブリッジSEやブリッジ・コーディネータを設け,日本での開発環境や雰囲気を現地に持ち込み管理することが必要です。

図1●海外委託の体制。日本企業と海外ソフト会社の間を橋渡しするブリッジSEやブリッジ・コーディネータが重要である
図1●海外委託の体制。日本企業と海外ソフト会社の間を橋渡しするブリッジSEやブリッジ・コーディネータが重要である
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 同時に,ソフトの品質を計測するメトリクス手法など,客観的かつ定量的なソフト開発の仕組みも導入しなければなりません。会社が変わることの多い外国人技術者に対しては,人に依存するやり方では限界があります。組織的な取り組みがどうしても必要になります。

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