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文:瀧口 樹良=札幌総合情報センター 主任研究員

 行政サービス改革の決め手として、「総合窓口」が注目を集めている。住民の利便性や満足度の向上、役所の窓口業務の効率化を実現する手段として、さらには市場化テストの対象となっている窓口業務のアウトソーシングを進めるための第1段階として、「総合窓口」に期待する自治体関係者は多い。

 富士通総研では、木下敏之(富士通総研 客員研究員、前佐賀市長)と私との2人で、2006年度から、この「総合窓口」に関する研究を開始し、全国の市以上の自治体に対するアンケート調査を実施し、その実態把握を行った。この調査結果は2007年4月に富士通総研のWebサイトに掲載した(『日経BPガバメントテクノロジー』第15号にも一部先行掲載した)。詳細はそちらに譲るとして、ポイントとしては大きく以下の2点が明かになった。それは、

  • 導入している自治体は、まだまだ多くない(全国の市以上の自治体で33.3%しか導入されていない)
  • 導入している自治体でも、「総合窓口」のサービスには大きな格差がある(参考記事

 ということである。

 

この調査を踏まえて木下と私の両名は、さらに各地の先進事例の研究を進めた。そして総合窓口を実現するための、あるいは、総合窓口のサービスをさらに向上させるための諸課題を以下の5項目に整理した。

  1. 窓口業務の見直し対する壁
  2. 人や組織の壁
  3. 庁舎・フロアの壁
  4. 予算の壁
  5. システムの壁

 本連載では、こうした壁を乗り越えるためには、どのように取り組めばよいのかについて考察していく。共同研究者である木下は、『日経BPガバメントテクノロジー』誌上で既に“顧客目線”の重要性を指摘している(参考記事)。この“顧客目線”という住民の視点を軸に、自治体が総合窓口の構築にあたってぶつかる諸課題の解決方法について、具体的に検討していきたい。なお、連載の内容は、木下と私の2人で行った研究成果に基づくが、文責は私が一切を負うものとする。

自治体の窓口が置かれている状況

 連載第一回目となる今回は、まず自治体の窓口が置かれている状況の整理と、「総合窓口」の定義を明らかにしておきたい。

 住民にとって、最も役所が身近に感じられる場所は窓口だろう。誰しもが一度は自治体の窓口に訪れたことがあるはずだ。ところが、一般的に自治体の窓口の評判は良いとはいえない。「待たされる」「職員に横柄な態度を取られた」「どこに行けばよいか分からない」「いくつもの窓口を回らされた」「手続きが面倒で何度も窓口に聞き直した」など、自治体の窓口は、電話応対と並んで“お役所のサービスの悪さ”の代名詞的に語られることが多いのが現状である。行政サービス向上のための努力している自治体もあることは承知しているが、「うちは民間の窓口サービスにひけを取らない」と胸を張って答えられる自治体はどれだけあるだろうか。

 総合窓口の話に入る前に、まず、なぜ自治体の窓口サービスへの評価が低いのかを考察してみたい。これには、主に三つの要因(弊害)が考えられる。

 第一は、「縦割り行政の弊害」である。従来、自治体では、窓口における業務を細分化し、それぞれの部署に窓口業務も設け、専門的に処理する方式で業務処理を行っている。このことは、それぞれの窓口で専門性を発揮し、住民に対して適切な相談対応と手続きの案内が可能となるが、一方で各課・担当間の垣根ができるなど、縦割り組織の弊害を生み出している。さらに、自治体の庁舎の構造上、関係部署の集中配置が望めないことなどにより、市民が行政サービスを求めて庁内を移動している。いわゆる「住民のたらい回し」である。さらに、各窓口で部署ごとに申請書・証明書のサイズ、様式とも統一性がなく、複数の行政サービスを受ける場合、その都度申請書記入が必要であるなどといった住民の手続きの記載における手間と労力を強いる結果を生み出している。

 第二は、「窓口業務を担う職員(担当者)の能力の差」である。窓口業務を処理するにあたっては、窓口で受け付ける職員(担当者)の接遇態度や、業務知識、処理能力などに左右されることがある。その結果、窓口に来た住民に不快感を与えるとともに、均一な行政サービス提供ができていない一面を生み出している。さらに、今後、2007年以降の団塊の世代が、ここ数年で第一線から退く時期を迎え、大量の職員退職が予想され、職員定数が計画的な削減が行われる中で、窓口を担う職員の減少や、これに伴う業務ノウハウの引き継ぎが十分に行えないことなどによる行政サービスの低下も危惧される。

 第三に、「窓口のフレキシビリティの低さ」である。多くの自治体の窓口は、年間を通じて3月4月の繁忙期や、週単位における月曜・金曜の混雑曜日があることは知られているが、窓口を拡張したり、混雑の平準化を図ったりといったことはあまり行われない。この結果、こうした各種の申請や届出等の件数の集中化により、窓口での住民の待ち時間・処理時間が長くなり、行政サービスの低下を生み出している。

 以上のから、窓口業務に対する何らかの将来的な対応策や改善策が求められてきている。そこで、こうした状況を打破する1つの手段として、1カ所の窓口で住民の用件のほとんどが完了し、待ち時間も短く、かつ手続き等も簡潔で分かりやすい「総合窓口」が期待されている。

 「総合窓口」には、先ほど述べた自治体の窓口サービスの評価が低い三つの要因(弊害)の克服が期待されている。自治体の業務処理の都合ではなく利用者の都合(利用目的)の窓口の業務処理が行われることによって「縦割り行政」を打破し、職員のノウハウを集約・可視化してITによる支援や職員研修を強化することで職員のスキルが平準化され、そのことによって繁忙期や平常期の混雑状況に合わせて人員の増減ができるようにすることが期待されている。

まずは「総合窓口」を定義する

 それでは次に、改めて「総合窓口」の定義について整理しておきたい。まず、その前提として自治体における「窓口サービス」の定義について整理する。本連載では、自治体の「窓口サービス」とは、一般的に住民が連想する「自治体の窓口での各種証明書の発行や手続き等に関わる対人的なサービス」のことである、とする。近年では、「窓口サービス」を、より広範な意味で用いて、「住民と自治体との接点である「窓口」を介した双方向のやりとりに関わるサービス全般にあたり、自治体で実施されている行政サービスの中でも、「『窓口』の持ち方や果たす役割・機能によって当該サービス全体の構造が大きく変化するもの」としている場合もある(玉村雅敏『行政マーケティングの時代』第一法規、2005年)。

 例えば、すでに民間企業では、窓口を顧客との接点として捉え、窓口対応のみならず製品やサービスを提供する業務処理の仕組みや企業の組織構造およびマネジメントまでを含めた一連の流れを、「顧客満足(CS:Customer Satisfaction)」を最大価値として持続的に向上させる取り組みが行われる。つまり、窓口を通じた顧客との「関係づくり(リレーションシップ)」という観点で、サービス全体の構造を変化させている。自治体においても、そうした顧客満足を住民満足として捉え、窓口業務の見直しとマニュアルの整備および窓口対応する職員の人材育成といった取り組みや、窓口から出た苦情を分析して業務改善に活用するといった取り組みも「窓口サービス」の一環として捉えることもできるが、本連載では、前者で述べた行政サービスに伴う手続き等に関るものとして捉えておきたい。

 こうした「窓口サービス」の定義を踏まえたうえで、総合窓口とは、「住民をたらい回しせず、自治体の窓口で行われる各種証明書の発行や届出等の手続きを、1カ所で住民が行政サービスを行える窓口」のこととして、本連載では話を進めていく(図表1)。

図1●総合窓口の実現イメージ
図1●総合窓口の実現イメージ
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 つまり、「1カ所で住民が行政サービスを行える窓口」であれば、内部的には多くの縦割り組織のままであってもよいということになる。ただし、業務効率性を考えれば、当然、縦割りとなっている組織の再編も必要である。

 なお、「総合窓口」は、「ワンストップ」と同義語に扱われることが多い。確かに、ワンストップとは、「1カ所または1回で」という意味を持つため、「総合窓口」によって「ワンストップ」が実現されるといえよう。ただし、ワンストップを「1カ所かつ1回で」と定義する場合もある。つまり、1つの窓口で、氏名など必要事項の記述や添付書類の取得を重複して行うことなく、手続きが"完了すること"までも行えなければ、厳密に言えばワンストップとはいえないという考え方である。

 本連載では、前者を広義のワンストップ、後者を狭義のワンストップと位置づけ、「総合窓口では、まずは広義のワンストップを目指し、その行政サービスを成熟化していった先の究極目標として狭義のワンストップの実現がある」という立場を取りたい。

 このように、「総合窓口」とは、住民をたらい回しせず、窓口に不満を持たせず、“できるだけ1カ所で行政サ-ビスの対応が行えるようにすること”がまずは重要となる。ここでキーとなるのは、住民にとって必要な行政サービスとは何かを見出すための視点、つまり「どの窓口業務を集約すべきか」ということである。

 それでは、総合窓口に集約すべき窓口業務とは何であろうか。まずは、処理件数が多い窓口業務から進めていくのが妥当といえるだろう。証明発行や、住民異動等に伴う「転入」「転居」「転出」および「世帯変更」「出生」「婚姻」「離婚」「死亡」といった住民のライフイベントに伴って行政が行う必要のある諸手続きである(表1)。

表1●住民異動等に伴うライフイベント別の手続きの例
ライフイベント 関連する窓口サービス(例)
(1)転入 国民健康保険、医療、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、税務、就学、上・下水道、飼い犬登録、etc.
(2)転居 国民健康保険、医療、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、税務、就学、上・下水道、飼い犬登録、etc.
(3)転出 国民健康保険、医療、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、税務、就学、上・下水道、飼い犬登録、etc.
(4)妊娠・出産 国民健康保険、医療、健診、etc.
(5)婚姻 国民健康保険、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、上・下水道、飼い犬登録、etc.
(6)離婚 国民健康保険、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、上・下水道、飼い犬登録、etc.
(7)死亡 国民健康保険、医療、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、税務、上・下水道、飼い犬登録、火葬・葬儀、etc.
(8)世帯変更 国民健康保険、国民年金、介護保険、障害者福祉、児童手当、保育所、学童保育、上・下水道、飼い犬登録、etc.

■変更履歴
表1を差し替えました。お詫びして訂正します。なお、訂正前の表はこちらです(編集部)。 [2007/11/30 11:50]

 このように、総合窓口においては、あくまで自治体の窓口業務の視点ではなく、「住民が役所に来て何の手続きを行いたいのか」という “顧客目線”に立って、その関連する手続きを集約することで、住民はサービスを理解しやすくなるし、窓口業務の効率も向上すると考えられる。例えば大阪府箕面市では、総合窓口の構築に向けた過程で、住民が自治体の窓口で行う必要のある手続きをライフイベントごとに洗い出して一覧にまとめている(参考:箕面市「第1期窓口改善について)。

 さらに、総合窓口の導入に伴い、分かりやすいフロアのサイン計画、長い待ち時間を解消するためのオペレーションの工夫、手続きの申請書の記載における負担解消等に取り組むことも、併せて住民の視点である“顧客目線”として重要である。

 次回以降、総合窓口実現のための具体的な方法について、住民の視点である“顧客目線”に基づいて検討していきたい。

瀧口 樹良(たきぐち・きよし)
札幌総合情報センター 主任研究員(課長職)
瀧口氏の写真 1971年神戸市生まれ。駒澤大学大学院人文科学研究科社会学専攻修士課程修了。在京のメーカー系シンクタンクにおける公共系コンサルティング活動を経て、現在は札幌市の第三セクターである札幌総合情報センター株式会社に在職。主に自治体の業務改善、行政経営およびIT活用戦略等を中心に積極的な活動を行っている。著書に『地域情報化 認識と設計』、『東アジアの電子ネットワーク戦略』(いずれも共著)など。