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筆者:佐藤 洋志氏

みずほ情報総研コンサルティング部マネジャー。ITコーディネータ。企業内の情報共有や情報活用のあり方を中心に,戦略策定などのコンサルティングを展開中。


 経営や実業の世界では,2005年にフランスの欧州経営大学院(INSEAD)教授のW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏により発表された著書「ブルー・オーシャン戦略」が一つのブームになった。同じパイ(市場)を奪い合い血みどろの競争を行う「レッド・オーシャン」(赤い海)に対して,顧客へ新たな付加価値を提供し,既存製品との競争を無意味なものとする「ブルー・オーシャン」(青い海)を目指すべきだというのがその趣旨である。

 この書が大きな話題となったのは,主張の明確さや分かりやすさ,事例の豊富さ(例えば,既存の理髪店市場に対して15分で散髪する「QBハウス」などが挙げられた)に加えて,実践的な分析や発想転換のためのツールが提供されたためである。こうした有益なツールを多くの対象に適用し,自らの思考の癖を知り,客観的な分析を試みることは,ビジネスパーソンにとって決して無駄ではないだろう。

 本稿では,今話題の動画投稿サイト「ニコニコ動画」をブルー・オーシャン戦略の視点から分析する。分析に用いるツールとしてはブルー・オーシャン戦略で提示された「4つのアクション」と「戦略キャンパス」を使う。これらを通して,ニコニコ動画のブームが意味するものに少しでも迫ってみたい。

「4つのアクション」でニコニコ動画を分析

 まず,4つのアクションによる分析から始めよう。4つのアクションとは,業界の平均的な製品・サービスが持つ要素に対して,(1)思い切って「減らす」べき要素は何か,(2)大胆に「増やす」べき要素は何か,(3)これまで提供されていないもので,今後「付け加える」べき要素は何か,(4)業界常識として備わっているもののうち「取り除く」べき要素は何か,を考えるものである(図1)。動画投稿サイトの場合,業界の平均的な製品・サービスはイコール「YouTube」と考えて良いだろう。

図1●「ニコニコ動画」における4つのアクション。
図1 「ニコニコ動画」における4つのアクション。
W・チャン・キム+レモ・モボルニュ「ブルー・オーシャン戦略」(ランダムハウス講談社,2005年)をもとにみずほ情報総研で作成。
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 ニコニコ動画は,意図的か事後の自然発生的かはともかく,共感や参加意識,仲間意識が持てる楽しくて,“ゆるい”場の醸成に成功した。この点がYouTubeや,仮想空間サービスの「Second Life」などと比べて際立っている。

 映像とコメントを同時に見られる一覧性と,スクロールによるダイナミックなコメント表示,時間を超越した疑似同期コミュニケーションが,みんなで一緒にテレビを見ているかのような感覚を生み出した。コメントの「弾幕」のような楽しみ方も発生した。

 さらに,ニコニコ動画には独特のゆるい感覚がある。これを説明するのは難しいが,ニコニコ動画内で生まれ,交わされるユーザーの意識は,これまでの公か私かという二元的感覚ではなく,より曖昧で中間的な心地の良いものになっている。

 ゆるい感覚を生み出しているのは,ニコニコ動画の各種アイコンが“ゆるいデザイン”で統一されていることに加え,交わされるコミュニケーションの深さとコミュニティ機能を大胆に省いたことによる影響が大きいだろう。つまり,動画に付けるコメントの短さと,ユーザー一人ひとりの顔が見えにくいシステムの効果である。

 仮に,ニコニコ動画のコメント欄がもっと大きく,長いコメントを書き込める場合や,YouTubeのように各動画がそれぞれ掲示板を持っている場合を考えてみよう。

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