PR

 前回まで、企業がいかにITをビジネスに生かしているかを見てきた。各社に共通しているのは、ビジネス・プロセスの革新にITを“組み込んで”いること(図1)。つまり、企業の強さは新しいビジネス・プロセスであり、その実現にITを活用している。

図1●強さを支える情報システムは、ビジネス・プロセスの革新にITを組み込むことで実現する
図1●強さを支える情報システムは、ビジネス・プロセスの革新にITを組み込むことで実現する

 従来、こうした取り組みはあまり行われてこなかった。ほとんどのシステムは、個々の組織もしくは業務の効率化を目的として構築されてきたからだ。組織をまたがって存在するビジネス・プロセスと従来型のシステムは結びつきにくかった。

 では、ITのビジネス・プロセスへの組み込みに成功した企業は、何が違ったのか。それは、大きく2つある。一つは、ビジネス・プロセスに沿って、組織の壁にとらわれないITのあり方を考えていること。もう一つは、基幹系の“質”を高めていることである。

ITがビジネス・プロセスを生んだ

 ビジネス・プロセス革新にITを組み込む際に求められることを具体的に示す前に、ビジネス・プロセスとITの関係を明らかにしよう。

 まず、ITを使って全く新しいビジネス・プロセスを生むケースがある。第8回で紹介したコマツが、その代表例だ。KOMTRAXというシステムにより、それまで把握できなかったデータを集め、顧客サポート・プロセスを革新した。笠原KOMTRAXグローバル推進室長も「技術を基にどのようなビジネス・モデルを描けるか、というプロダクト・アウトの発想がうまく作用した」と成功要因を語る。

 三井住友カードもITを使って新しいビジネス・プロセスを生み出した一社だ。Webサイトからの入会申し込みに、顧客とコールセンターの担当者と画面を共有するための機能を加えた(図2)。この機能の導入により、申し込みの画面に入ってから途中で止めずに手続きを完了する顧客の割合は、従来の55%から70%前後まで上がった。「Webからの申し込みは月間数千件と小さくない上、増加傾向にある。Webサイトで取りこぼしを減らせた意義は大きい」(フォーユーセンター企画部の堀之内裕丈シニアスタッフ)。

図2●三井住友カードはWebからの申し込みを増やすためにコールセンターのオペレータが顧客と画面を共有できるようにした
図2●三井住友カードはWebからの申し込みを増やすためにコールセンターのオペレータが顧客と画面を共有できるようにした
[画像のクリックで拡大表示]

 これが実現できたのは、カナソフトウエアの「KANA Response Live」というパッケージがあったからだ。同ソフトは、本体のWebサーバーとは別のプロキシ・サーバーに一時的なWebページを生成。そのWebページをオペレータと顧客が閲覧し、画面を共有する。顧客側のパソコンに設定変更が必要ないのが特徴である。

人手を補強し、正確性を高める

 既存のビジネス・プロセスをITで補強することで、その正確性や処理速度を高めるケースもある。第3回,第4回で紹介したインクス、キユーピーは、まさにそうだ。両社は生産工程のビジネス・プロセスをシステムに登録し、それ通りに実際の作業が進むようにした。プロセスを確実に、速く実行するためにITを利用したわけだ。

 このほか、富士ゼロックスも人手で実施しているビジネス・プロセスをITで補強している。同社は顧客の声(VOC:ボイス・オブ・カスタマー)を集めて新商品の開発に生かしている。VOCは営業担当者などが専用システムに直接入力し、それらをマーケティング担当が精査して開発部門に伝える。1機種の新商品開発でマーケティング担当が目にするVOCは数万件。それを関係する開発部門に割り振るだけでも相当な労力が必要だ。その作業を、ITで補強しているのである。

 具体的には、テキストマイニングを利用し、頻度の高い単語を統計的に抽出。人手でまとめた情報だけでは足りない客観的な視点で分析する。2005年からこの取り組みを始めた同社は今年1月、VOCシステムからの意見を反映した複合機「ApeosPort-II 7000/6000/5000」などを出荷。これらの製品では、1つ前のモデルと比べて再起動にかかる時間を2分30秒から30秒に高速化、エネルギー消費効率を227.7Wh/hから87Wh/hに改善、本体稼働音を34%低減した。

 これらの改善はカタログには示していない“隠れた新機能”だが、顧客からの要望が高かったものだ。同社がJDパワーの調査で、モノクロ・レーザー・プリンタの分野における8年連続顧客満足度1位を取得しているのは、こうした「地道な活動を積み重ねてきた結果」(オフィスプロダクト事業本部の麻生修司マーケティング部長)だ。