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 『熱血!!第三営業部』を再開します。昨年度下期に事業部に昇格した第三営業部は、協力会社の失踪や詐欺事件などの危機を乗り越え、着実にプライム契約の実績を伸ばします。中田部長はその実績を評価され、事業部長に大抜擢。事業部としての2期目に当たる今期もメンバーは意気揚々・・・のはずですが、なにやら全社を巻き込む暗雲が・・・。第3部は波乱の幕開けです。


「予算達成できますようにーっ」
 賽銭を投げ、垂れ下がった大紐で鐘をがらがらと鳴らし神妙に柏手を打つ猫柳君。
「なんだよ、ネコ。たった10円か? ケチケチしてるから、お前の商売は繁盛しねえんだよ」 新年早々、猫柳君をいじる坊津主任です。
「ほっといてくださいよ。冬のボーナスがもう残ってないんですー」
「なんだ? 猫柳君は、確か上期はA評価だったはずだぞ」と内藤課長代理。「上乗せが多かったと思うけどなあ」
「ボーナス払いの買い物で先食いしちゃいましたよ」
「そりゃ俺もだけど賽銭はケチるもんじゃねえよ」と言いながら、坊津主任は10円玉を2枚投げ込みます。
「一緒にしないでくださいよ、僕は液晶テレビとiPodと新型パソコン。坊津さんは飲み代だけじゃないですか。計画性が全く違いますから」「うるせえ、このやろう」
「あぁ、相変わらず今年もバカコンビ健在ですね。使っちゃえば同じです。あたしなんて全額嫁入り貯金に回しましたよ、ふふん」と気取って言うのは、りえぴーです。

「なんだよ、バカコンビって? お前こそ、そんな使いようのない貯金をするんだったら俺に貸せ、貸してくれ」
「先輩たちに貸すなんて、ありえませんね、それに坊津さん、あたしの嫁入り貯金を使いようがないなんてセクハラですよ、ねえ、中田事業部長!」
「あはは、お前らは新年早々、賑やかだなあ。さあ、お参りを済ませて、お神酒をいただこうじゃないか」
 第三事業部の新年は、オフィスから少し離れた商売繁盛で有名な神社で迎えます。中田事業部長は社内の賀詞交換を済ませると、第三事業部の営業を連れて今年もここにやってきました。ITの営業が初詣?最初は驚いた面々ですが、いざ来て見ると初出の日の神社はスーツ姿のサラリーマンで一杯です。商売繁盛の神様ですから、破魔矢を持ってたり、なにやら奥の院でお祓いを受けたりする一団もいます。中田事業部長はゲンを担ぐタイプには見えないのですが、妙にそういうところがあって、やれ午前中に行かなくちゃとか、やれ入り口で手を洗えとか小うるさくなります。さてお参りが済み、ベンチを見つけた面々はワンカップで乾杯です。

「では中田事業部長から一言いただきまーす」 最近の仕切りはりえぴーです。
「みんな今年もあと少しだ! 毎年言っていることだが営業の元旦は4月1日、大晦日まであと3カ月を切った。ラストスパートでこの状況を乗り切ろう!」
 「おっしゃー! 頑張るぞ~!」「ハッスル、ハッスル!」「そんなネコには空中元禰チョップ」「ああ、もう、おでんがこぼれますよ、坊津さん、バカー!」
 深刻な状況にもかかわらず明るく振舞ってくれているこのメンバーたちを見て、少なからず心を打たれた中田事業部長でした。

(イラスト:尾形まどか)

 3カ月前、9月も終わりのある日のこと。
 夜11時を回り、デスクで上期の最終数値をチェックしていた中田事業部長の内線電話が鳴りました。
「中田事業部長、加納副社長が至急、お呼びです」
 思いがけない副社長秘書の声です。「なぜこんな時間に秘書が残っているのだろう」と怪訝な思いで役員専用応接に入ると、そこには加納副社長、この春から昇格した鯨井取締役、鮫島第一事業部長代理の3人が彼を待っていました。
「中田君、大変なことになった…」
 すがるような目で立ち上がった3人の前には、禁煙のはずの応接にある灰皿にうず高く積み上がったタバコの吸殻、打ち捨てられたコーヒーカップ。それらが長時間にわたる会議を、そして土気色の表情が、どうしようもない結論であったことを物語っていました。
「助けてくれ、もはや君しかいないのだ」

 深夜のうちに携帯電話とメールを使い第三事業部のメンバーを翌朝一番で招集した中田事業部長は、全員に昨夜の話を始めました。
「朝早くからすまない。みんなに相談がある」
 中田事業部長から召集理由の説明が始まりました。
「昨年度の終わりに第一事業部が大規模な仕事を請けたことは、みんなも知っていることと思う」
「社長表彰を受けたやつですよね」と桜井主任。
「エンドユーザーの新規開拓でもないし、単に金額がでかいってだけで…」
「こらっ。 猫柳君」 内藤課長代理がたしなめました。
「そして、そのプロジェクトが火を吹いていることも知っていることと思う」
「そりゃー知ってますよ。おかげでこっちは見積もりは遅れる、プロマネ不足で提案がストップなんて、ここんとこしょっちゅうでしたからね」 どうやら坊津主任は被害を受けているようです。
「うん、みんなにも苦労をかけていると思うんだが…」
 中田事業部長は一息ついて全員を見回し、言いました。「あと半期を残して第三事業部の予算が倍になった。困難な目標ではあるが全力でクリアしてほしい」
 コトリ、りえぴーのペンが床に落ちる音だけが部屋に響きましたが、誰もペンを拾おうとしません。
「下期について5億の売り上げ目標を10億に、粗利を1億から2億に、だ…さらに、その噂の案件をうちで引き受けることになった」

 この話の発端は、昨年の3月。第一事業部の鯨井事業部長が業界大手のラビット製薬に呼び出されました。
「鯨井さん、そろそろうちもIBWから脱却したいのだよ。ひとつ協力してくれませんか」ラビット製薬の宇佐田情報システム部長はそう切り出しました。
「いつまでも我々ユーザーがハードメーカーにSIを頼む時代ではないだろう、あなたもそう思いませんか」
 昨年、この若手の情報システム部長が抜擢されてからというもの、どうもIBWとラビットがうまくいってないようだと、鯨井事業部長は担当SEからは聞いていました。IBWがレベルアップと称して大型ハードをねじ込んだときは、OS周りの環境変更対応で鯨井事業部長の部下も苦労はしていました。しかし、しょせんは下請けです。契約上、残業分を全額、IBWに請求できますから、「売り上げが増えてよかった」くらいの認識しか、彼にはありませんでした。請求すればしただけ湯水のように出てくるSE費に、「こいつら、ラビットから、いくらふんだくってやがるんだろう?」と思っていましたから、今回の申し出も当たり前のような気もします、が。
「当社はIBWさんの二次請けですから…。元請けを飛ばして契約するわけにもいきませんしねえ。困りましたな」
「そこを我々ユーザーのためになんとかなりませんか」
『なにを言ってるんだろう。まったくコイツは勉強不足だ。だからIBWからふんだくられるんだよ。ユーザーは5年に1回しか仕事くれないけど、元請けは毎月新しい仕事をくれるんだよ。いくら業界大手かしらないが、ユーザーなんてそんなもん。元請け様とはビジネスの格が違うんだよなあ』そう心の中で呟く鯨井事業部長ですが、口に出しては言えません。
「当社といたしましてはユーザー様の立場に立ってビジネスを展開したいのですが、契約違反をするわけにはいきませんので、ええ」と悩む振りをしていると、宇佐田部長から提案がありました。
「ではIBWがOKなら、受けていただけるんですね」
「あ、いや、その…」
「実は、もうOKが出ているんですよ」
「なんですって!」
『ああ、IBWはこの客を切ったんだな』 そう直感した鯨井事業部長でした。

「素晴らしい!」 加納副社長は立ち上がり叫びました。
「すぐ契約したまえ。君の部隊も第三事業部のようにプライム契約を取れるようになったんだ。地味だがユーザーサポートは大事な仕事だということだなあ、うむ」
 第一事業部はIBWの下請け、第二事業部はジャパン電気系の下請け、第三事業部はプライム契約という事業分担はあるものの、直販の比率を上げることが中期計画に入っているだけに、加納副社長は大乗り気です。「しかし…」と言いかける鯨井事業部長に副社長はたたみかけます。「これでやっと君を役員に推薦できるってことだな、ははは。役員昇格おめでとう」
 鯨井事業部長はいくつかの懸念を口にするのをやめました。SE出身といえど、鯨井事業部長も元IBWの社員ですから、たくさんある不安要素に気づいていなかったわけではありませんでしたが、「まあ、なんとかなるだろう」と加納副社長と握手をしてしまいました。「分かりました。中田事業部長に負けないように頑張ります」 それが地獄の入り口だったとは、そのときは二人とも気づきませんでした。

次回に続く

今号のポイント:営業は季節感が重要、日ごろから節目を意識しよう!

 今回のポイントは季節感です。営業は、とても季節感が重要な仕事。3月などの期末は当たり前ですが、日ごろから節目、節目を意識して活動することが重要です。決算期だけ騒ぐのは経験の浅いマネジャーですが、最近はそれさえやらない人もいたりします。当たり前のことですが、3月の前には2月があり、2月の前には正月、年末があります。忘年会、新年会はお客さんと親交を深くするチャンスですし、お歳暮の時期でもあります。この時期を生かさない手はありません。もっとも酒飲んで、モノを贈れば済む、なんて営業姿勢ではいけませんが。

油野 達也
自らもトップ営業として活躍しながら、自社の営業担当者だけでなくパートナー企業の若手営業、SE転身組を長期にわたり預かる育成プログラムに尽力。ITコーディネータのインストラクター経験もあり。

出典:日経ソリューションビジネス 2006年1月15日号 56ページより

記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。