PR

 携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の登場がきっかけとなり,「テレビ携帯」の普及に向けた放送技術や受信技術が進化している。2007年10月24日に開催されたデジタルテレビセミナー「ワンセグの次に来るもの」(主催:日経エレクトロニクス)において,こうした国内外における新しいテレビ携帯開発の最前線に立つキーパソンが講演した。現在開発が進む新しい放送方式と,受信機に搭載する部品の動向について紹介する。


ワンセグの良いところをまねる

 テレビ携帯の新しい放送方式の開発を進めているのが,米国である。日本の地上デジタル放送方式(ISDB-T)をベースにしたワンセグに刺激されて登場したのが,欧州の標準化団体DVBが作成した「DVB-H」であり,韓国勢が推進する「T-DMB」である。現在米国では地上デジタル放送の標準方式を検討するATSCで,「ATSC M/H」の検討が進められている。

 ATSC M/HとしてMPH方式を提案する韓国LG Electronics Digital TV Lab.のKook Yeon Kwak氏は,ワンセグの魅力的な点として,In-Band(固定受信向け放送のチャンネル内で携帯端末向け放送を実現)であることを挙げた。新たな周波数を必要とせず,放送事業者の投資も最小限で済む経済性などを評価するためである。ATSC M/Hも,In-Band型の放送方式の実現を目指す。

 ATSC方式はLGが買収した米Zenithが開発した方式だが,モバイル向け放送には適しないとされていた。過去にもE-VSBというモバイル放送向けデータに誤り訂正を追加する方式が提案されたが,実用化には至らなかった。Kwak氏は,その要因を貧弱なリファレンス信号にあるとした。そこでMPHでは,リファレンス信号を定期的に追加することで,刻々と受信電波の状態が変わるモバイル環境に対応させる。さらに誤り訂正には,ターボ符号を採用した。

 米国では既に専用の帯域を利用する形で,米QUALCOMMが開発したMediaFLOが実用化されている。一方でNBCやFOXなど有力な地上波放送事業者が集まってOMVC(Open Mobile Video Coalition)が結成された。2009年にも自社の電波を利用した携帯機端末向け放送を始めたい意向である。ATSC M/Hの成否で,米国のテレビ携帯の様相が大きく変わりそうだ。


広帯域でも低消費電力,電池の持ち以外にも利点

 今回のセミナーでもう一つ注目を集めたのが,米MediaPhyによる超低消費電力の受信LSIである。ISDB-Tを例にとると,1セグンメント放送受信時に80mWであるのに対し,13セグメント受信時には130mWしか消費しない。例えば,米Broadcomが2007年10月2日に発表した携帯端末に向けたH.264コーデックLSI「BCM2727」と組み合わせれば,携帯機器でHDTV(高精細度テレビ)放送を受信することが現実的になりつつあることを示している。

 講演したAfshin Shaybani氏(Co-Founder and VP of Marketing)は,こうした広帯域放送を低消費電力で処理するチップを利用することで,デジタル放送を受信する携帯電話機の機能を一変できることを強調した。例えば,DVB-Hは番組の送信時間を区切り,瞬時にデータ送信(タイムスライス+バースト送信)している。ある番組のデータが送信されている時間以外は回路を動作させないで済むため,低消費電力化を図れるが,チャンネルの切り替えに時間がかかる。MediaPhyのチップを使えば,受信回路を常時オンにしても消費電力がそれほど増えないので,チャンネル切り替えを瞬時にできる。さらに複数の番組を同じディスプレイに表示するといったことも可能になる。日本のISDB-Tについても,例えば「ワンセグ連結再送信システム」(ワンセグの番組を再構成して一つのチャンネルで複数の番組をまとめて再送信するシステム)が実現すれば同様のことが可能になる。将来的には,携帯端末向けマルチメディア放送方式「ISDB-Tmm」に応用できるそうだ。

 携帯端末向けデジタル放送は受信機の低消費電力化を図るため,DVB-Tでは時間軸で,ISDB-Tでは周波数軸上で処理の範囲を狭める工夫をしてきた。これがサービスの制約条件にもなっていた。MediaPhyのチップのように広帯域でかつ常時オンでも消費電力がそれほど増えない受信チップが続々と登場してくると,「電池の持ち」という利点だけではなく,端末機能を多様化することにもなりそうだ。