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デヴィッド・ワイク氏 ミルクシェイクメーカーの営業担当者だったレイ・クロック氏が1955年、マクドナルド兄弟のハンバーガー店を買収して創業。本社はイリノイ州オークブルック。2006年度の売上高は過去最高の216億ドルで、純利益は35億ドル。2002年に価格破壊で業績不振に陥った日本マクドナルドに、米本社との意思疎通のため役員を送った。 |
当社のCIO(最高情報責任者)としての仕事は大別すると2つある。戦略を練ることと人材確保だ。IT(情報技術)を使ってどんな変化を起こし、ビジネスをどこへ導いて財務成果を得られるか、常に戦略が必要である。それを実行するには、ITチームに会社を引っ張る経営者的なリーダーシップが欠かせない。
ITチームには、米国本部に店舗、経営管理、コミュニケーション、人事、サプライチェーン担当のトップが個別にいて、さらに北米、南米、中米、アジア太平洋、欧州に地域CIOがいる。彼らは技術面だけでなく当社のビジネスをよく理解し、時にはリスクを犯しても、より良い結果を得るための決断を下すことを求められるのだ。
彼らは良きコミュニケーターでなくてはならない。例えば日本で新しいITを導入するには、いかに自分が真剣に取り組んでいるかを示し、日本のITチーム全員に影響を及ぼすことが必須だ。
こうしたベストの人材をITチームに加えることができるかどうかが、私の挑戦の1つ。実現すれば、ビジネスに重要な変化をもたらせる。
現在ITチームは3分野に重点投資している。店舗改革、「プラットフォーム」と呼ぶ主にサプライチェーンのための共通システム、ビジネス・インテリジェンス(BI)だ。
店舗改革については、新世代のPOS(販売時点情報管理システム)導入が進行中。例えば日本マクドナルドは約1年前からこの新しいPOSを採用し始めた。新POSは現在80カ国の約1万店で使われているが、大きな市場としては豪州と英国、フランスなどにとどまる。だから世界第2の市場である日本が全店導入を精力的に進めているのはエキサイティングだ。簡単ではないが、日本がモデル国となれば、米国を含む残り38カ国への展開が加速するだろう。
サプライチェーンは、顧客に安全で高品質のメニューを提供するのになくてはならない。私たちは8年前に、各国がサプライチェーンを確立するために共通で使うプラットフォームシステムの形成に着手した。プラットフォームの周辺に、各国で異なる条件をカスタム化していけるようにする。現在豪州がカスタム化を進めている。
BIについて説明すると、当社は以前から統一の店舗経営などオペレーション重視の会社だった。だが競争が激しさを増すなか、今日そして明日は、どう生き残っていくのか。「スピード、品質、正確さ」は当社のマントラ(真言しんごん)みたいなものだが、どうやってそれを今後も確実にするのか。BIは、本部が顧客や従業員を迅速かつ深く理解し、素早い決断につなげるためのもの。例えばサービスの質、正確さ、親しみやすさ、速度などをすべて売り上げに結び付けて測る。従業員が仕事に満足しているかどうかも測定項目の1つだ。彼らが幸せなら心のこもったサービスにつながる。
ノベルティーがおもちゃからデジタル体験に
「変革を起こす」と言うのは易しいが、当社で実現させるのは容易でない。マクドナルドの1店舗の年間平均売上高は約200万ドルにもなり、118カ国に3万1000店以上もある。1店だけの変革はたやすいが、この規模では話は別だ。
しかし正しい決断をすれば、ほんの小さなことで大きな変化を起こすこともできる。最近興奮したのは、レジのボタンを商品名から商品のアイコンに変えたことだ。従業員は注文を取り、お金も勘定し、顧客の目を見て、にこやかに対応をしなければならない。ボタンをアイコンにしただけで、この大変な作業がスムーズに進むようになり、精算作業がスピードアップした。
今後は新しい「消費体験」を創造していくことも、CIOの役割の1つだ。携帯電話や携帯ゲーム機、携帯音楽プレイヤーの「iPod」などは、今の子供にとっては「技術」というより「あって当たり前のもの」。ハンバーガーを食べに来るという体験以外に、若い世代にITを使ってどんなエンターテインメントを提供できるのか検討している。今や売上高上位10カ国のうち8カ国でブロードバンドが普及している。マクドナルドは子供におもちゃのノベルティーを提供してきたが、それがデジタル体験になるだろう。例えば店内でゲームをダウンロードできるようにし、それをマーケティングにつなげるなど、デジタル体験は様々な可能性を秘めている。今後5~7年は当社にとって重要な時期となる。
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