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 前回に引き続き,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度の中間まとめ(注1)について,検討を加えたいと思います。今回は,中間まとめの第2節にある「海賊版の拡大防止のための措置について」を取り上げます。

現行法では海賊版のネットオークション出品は原則として規制対象外

 「第2節 海賊版の拡大防止のための措置について」では,大きく2つの内容が検討されています。1つは「海賊版の譲渡のための告知行為の防止策について」,もう1つは「親告罪の範囲の見直しについて」です。

 「海賊版の譲渡のための告知行為の防止策について」は,海賊版(著作権等の権利を侵害する物品)の販売のための告知行為,すなわち,海賊版のインターネットオークションへの出品行為等の広告行為を規制すべきかどうかについて検討するものです。

 現行の著作権法(113条1項2号)でも,海賊版であること知っていながら海賊版を公衆に譲渡または貸与する行為(頒布する行為)や,海賊版であることを知りながら公衆への譲渡等の目的で海賊版を所持すること等は,著作権侵害行為であると見なされ,規制されています(注2)。しかし,譲渡行為の前段階である,インターネットオークションへの出品等の譲渡告知行為自体は,上記条件にあてはまるものではなく,侵害行為とは見なされていません。

 規制(対策)の必要性に関して言えば,以下のような問題が指摘されています。

  1. インターネットを活用した譲渡告知行為は,伝達の範囲やその取引の迅速さなどの面でチラシやカタログの配布,ダイレクトメール等の従来の広告手法と比較して権利侵害を助長する程度が高い
  2. プロバイダ責任制限法(注3)の削除請求や発信者情報開示請求をおこなう要件として「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」であることが要求されているため,譲渡告知行為自体が権利侵害でないとこのような制度が利用できない

 中間まとめでは,さらに,現状の著作権法113条1項2号の適用で対応できる類型もあるものの,実効性確保の観点から,譲渡告知行為の権利侵害化を検討する必要があるとしています。

 ただし,譲渡告知行為すべてについて「権利侵害を構成する」ことになると,譲渡告知行為を引き受けただけの広告業者なども権利侵害者として追及されかねません。そうなると,広告関連業界に過大な事前調査義務を課すことになってしまいます。こうした事情があるため,譲渡告知行為は「情を知って」などの一定の要件の下でのみ,著作権等を侵害する行為と見なすことが適当であるとしています。このあたりは,当然の限定だと思います。

 また,中間まとめでは,譲渡告知行為のうちインターネット環境のみを新たな規制の対象とすること。また,譲渡告知行為の場の提供者(プロバイダ等)については,規制の対象外とする方向で考えられています。

海賊版の摘発強化は非親告罪化より捜査体制の問題

 中間まとめの第2節では「親告罪の範囲の見直しについて」という問題も取り上げられています。現在,著作権法上刑事罰が科されている行為の多くが,「親告罪」となっています。これを,「非親告罪化」することを検討の対象としています。

 親告罪というのは,訴追の要件として告訴を必要とする犯罪のことを言います。親告罪では,通常は被害者の告訴があって捜査が始まることになります。それが非親告罪になれば,告訴なしに訴追ができるようになりますので,被害者自身が訴追不要であると考えていても,警察等が捜査を行い,起訴することも可能になるわけです。

 中間まとめでは,親告罪の範囲の見直しに関して次のようにまとめています。

著作権等の侵害罪についての親告罪の範囲の見直しについては,著作権等侵害行為の多様性や人格的利益との関係を踏まえると,一律に非親告罪化してしまうことは適当でない。なお,例えば現行の犯罪類型のうち一部を新たな犯罪類型としてそれのみを非親告罪とするとの考え方もあるが,そのような要件設定が立法技術上可能かどうかという点や,非親告罪とした場合の社会的な影響を見極めることも必要であり,慎重に検討することが適当である。

 すなわち,中間まとめでは,親告罪の非親告罪化を慎重に検討すべきであるとしています。詳細な理由については,中間まとめの23頁以下を読んでいただければと思いますが,上記の引用でも指摘しているように,まず「著作権等侵害行為の多様性」という問題があります。著作権違反行為は,反復性のある海賊版の大量販売の事案から不適切な引用まで多岐にわたっています。ですから,少なくとも一律の非親告罪化は問題があると言わざるを得ません。

 また,捜査側の要請としても,親告罪であることが捜査の大きな障害になるという認識はないとされています。著作権侵害事件の場合には被害者である著作権者等の協力が不可欠ですから,親告罪の範囲見直しの必要性は低いと言えるでしょう。

 実務的に言えば,著作権侵害事件のような「私権」に関わる事件の場合,刑事告訴してもなかなか警察が動いてくれないのが実情です。これは「私権」に関わる他の事件でも同じでしょう。海賊版の摘発を強化するという観点からは,親告罪かどうかという問題ではなく,捜査側の体制をどうするのか等の問題を解決しないと,どうしようもないでしょう。このような観点からも,あえて親告罪の範囲の見直しをする必要性に乏しいように思います。

 次回は,中間まとめの目次からは「第3節 権利制限の見直しについて」を取り上げる番になりますが,第3節の検討対象が「1.薬事関係」「2.障害者福祉関係についての権利制限見直し(著作権者等の許諾を得ないで著作物が利用できる範囲の見直し)」で,IT関係者と直接関連する対象ではありません。そこで第3節は割愛し,その次の「第4節 検索エンジンの法制上の課題について」を取り上げることにします。

(注1)「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について。中間まとめはこのページから参照できる
(注2)著作権法第113条第1項第2号「著作者人格権,著作権,出版権又は著作隣接権を侵害する行為によって作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を,情を知って,頒布し,若しくは頒布の目的をもつて所持し,又は業として輸出し,若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為」
(注3)正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。