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 今回はまず,IHI(石川島播磨重工業)と同業種,同規模の川崎重工業の固変分解(注1)の結果からお見せします(図1)。なお,固変分解でコストを固定費と変動費に分解するにあたっては,営業利益をベースにしています。

図1●川崎重工業の固変分解の結果
変動費率 年間の固定費の額
2005年3月期 93.1% 608億円
2006年3月期 90.6% 828億円
2007年3月期 89.6% 803億円

 前回のコラムで掲載したIHIの固変分解の結果も,以下に掲げます(図2)。

図2●IHIの固変分解の結果
変動費率 年間の固定費の額
2005年3月期 81.4% 1921億円
2006年3月期 88.4% 1089億円
2007年3月期 90.9% 878億円

 なんと,IHIだけでなく川崎重工業も,変動費型ビジネスの性格を表わしているように見えます(ただし,変動費率の推移をみると,川重は低下,IHIは上昇という違いはあります)。

 上記の固変分解の結果から,これら「重工業」が薄利多売のビジネスを展開していると即断するのは,もちろん誤りです。拙著『戦略会計入門』213ページでも述べたように,重厚長大産業では数多くの下請業者を「ケーレツ化」しています。この結果,例えば,変動費の典型例である外注費と言えども,固定費の性格を帯びるからです。

 その証拠に,両社の分割不能固定費(注2)を推算してみました(図3)。

図3●IHIと川崎重工業の分割不能固定費
IHI 川重
分割不能固定費 981億円 1872億円

 図3では,川重の分割不能固定費が1872億円もあります。ところが図1では,同社の「年間固定費の額」は最高でも828億円(2006年3月期)どまり。固定費には長期的に見ても固定費の性格を失わない分割不能固定費と,長期的に見ると変動費化する性格を持つ分割可能固定費とがあります。固定費は両者の合計ですから(注3),図1にある各期の固定費は1872億円超でないと,表3との辻褄が合いません。

 おそらく川重の場合,変動費の中に固定費の性質を持ったものが相当あると推定すべきなのでしょう。公表されている資料だけから変動費に関する分析を行なうことができないのは残念ですが…。

 なお,固変分解を行なうにあたって,分割不能固定費の算出はとても重要です。表1と表2の比較だけでは,IHIと川重は同じレベルに見えてしまいますが,表3の分割不能固定費を見比べると,無形の分割不能固定費である「のれん」について,川重はIHIの2倍近くあるものと推定されます(注4)

 もし,発行済株式を同数と仮定するならば,両社の株価は当然,2倍近くの差があって然るべきでしょう。四半期報告制度を利用した固変分解だけでなく,分割不能固定費を求めることによって,企業の実力を評価することが可能になります。

第4四半期に集中するIHIの売上高と営業利益

 さて,IHIと川重が似たようなコスト構造を持っているとしても,収益構造のほうはかなり異なるようです。IHIと川重の2007年3月期決算を四半期ごとに展開してみることにします(図4)。

図4●IHIと川崎重工業の2007年3月期売上高と営業利益の四半期推移
第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 通年
IHI 売上高 2301億円 2889億円 2533億円 4626億円 1兆2349億円
営業利益 ▲3億円 13億円 28億円 208億円 246億円
川崎
重工業
売上高 3022億円 3436億円 3553億円 4375億円 1兆4386億円
営業利益 100億円 155億円 191億円 245億円 691億円

 両社の「第4四半期」に注目してください。両者ともに,売上高は4000億円台,営業利益は200億円台で,一見,似たような印象を受けます。ところが,図4の右端にある「通年」を100%とした場合,IHIの第4四半期における売上高4626億円は通年売上高の37.5%,営業利益208億円に至っては通年営業利益の84.6%を占めます。

 一方,川重の第4四半期における売上高4375億円は通年に対して30.4%,営業利益245億円は同じく35.5%です。IHIの第4四半期の営業利益208億円が「通年」の8割強を占めるというのは,異常な印象を受けます。

 年度末の第4四半期に売上高や利益が集中するのは,工事完成基準か工事進行基準といった会計ルールの問題もあるかもしれません(注5)。しかし,第4四半期にこれだけ集中するとなると,この3か月間における基準操業度(注6)は,かなりのオーバーヒート状態であると推測されます。

 基準操業度を超えると,原価差異(注7)が幾何級数的に増加する性質を持つことは,拙著『戦略会計入門』168ページで指摘した通りです。2008年3月期のIHIが大幅な営業赤字となるのは,第4四半期どころか他の四半期でも「操業度オーバー」が常態化し,原価差異が異常発生しているせいなのかもしれません。基準操業度は企業の「身の丈」を表わし,身の丈を超えた受注至上主義は必ず無理を生じさせます。戦略会計を身に付けておかなかったために,2008年3月期は大きなしっぺ返しを受けたと言えるのかもしれません。

 以上,筆者のような一介のサムライが,外部公表資料で語れることなどこの程度です。組織力を動員すれば再生の道筋など容易に描けるはず。名門IHIの復活を期待したいものです。

(注1)「回帰分析」という統計学的手法を使って,コストを固定費と変動費に分解すること。四半期報告データを使った固変分解の手法については本連載の第13回でも解説しています。より具体的な手法については,拙著『ほんとうにわかる株式投資』116ページ参照
(注2)詳しくは拙著『戦略会計入門』113ページ以降参照
(注3)拙著『戦略会計入門』197ページ参照
(注4)拙著『戦略会計入門』196ページ参照
(注5)企業会計基準委員会『工事契約に関する会計基準』4項
(注6)拙著『戦略会計入門』41ページ参照
(注7)拙著『ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』116ページ参照


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/