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ユーザー企業からIT投資の決断を勝ち取るには、システムの機能や価格をアピールするだけでは不十分。システムの導入が、その企業のビジネスにどのような効果をもたらすのかを具体的に示すことが求められます。最終回の今回は、提案するソリューションの効果を定量的に示し、財務諸表への影響を分析する手法について解説します。

 「なぜ失敗したのか、分析して報告しろ」。ソリューションプロバイダA社の営業担当者N氏は、営業部長からの強い口調に、会議室でがっくりと肩を落としました。N氏が、機械販売会社B社からの依頼に対して提案書を提出し、「失注」の連絡を受けたときのことです。「何が良くなかったのだろう」。N氏はこれまでの提案活動を振り返りました─。

 N氏は、あるソフトウエア関連のイベントで、B社の経営企画部門の担当者O氏と知り合いました。その後O氏から、経費事務処理の効率化およびペーパーレス化を促進するワークフローシステムを構築したいと考えている旨の連絡を受けました。

 B社に提出する提案書には、自社商品のシステム機能の詳細な説明や競合他社製品と比較して優れている点を説明した上で、過去の導入事例も紹介しました。きれいで分かりやすい提案書に仕上がり、B社には喜んでもらえる出来栄えだと思っていました。

 その結果が、失注です。提案の過程で落ち度はなかったと思ったN氏は、O氏に連絡をしてみました。するとO氏は「我が社をよく分析していたし、競合他社と比較して機能もコストも大差はなかった。ただ他社の提案は、システム導入が業務のどんな効果に結び付くのか、経費をいくらぐらい削減できるかを具体的に示してくれていたよ」と話してくれました。

 N氏の提案書は、顧客企業の意思決定を促す「一押し」、言い換えるならば「商談を成功に導くポイント」が欠けていたようです。ではそのポイントはどのようなものなのでしょうか。

導入効果への「気付き」で購買意欲を醸成

 ユーザー企業がIT投資を意思決定する際には、当然、投資に伴う「コスト(イニシャルコスト+ランニングコスト)」と「効果」を比較します。提案金額を低く抑えるというアプローチは当然考えられますが、ここでポイントとなるのは顧客企業のビジネスにおける具体的な効果です。効果は、提案の内容次第で広範囲になったり限定的になったりします(図1)。

図1●ITソリューションの商談を成功に導くポイント
図1●ITソリューションの商談を成功に導くポイント

 そして、ソリューションプロバイダがIT投資の効果をユーザー企業に提案するためには、「顧客を理解する力」、「ニーズに合致したサービス提供」、「購買意欲の醸成」の三つが必要です(図2)。

図2●IT投資効果を顧客に提案するための必要要素
図2●IT投資効果を顧客に提案するための必要要素
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 顧客を理解する力とは、前回までの連載で説明してきたように、財務諸表などの顧客情報を収集し、顧客が抱える課題を分析することです。ニーズに合致したサービス提供とは、顧客企業が抱える課題を解決するITソリューションサービスを提供することです。そして三つ目の購買意欲の醸成は、提供するITソリューションを買いたくなる意識を高め、顧客企業の意思決定を促すことです。

 購買意欲を醸成するためには、顧客を分析した結果などを利用して、顧客企業が気付いていない、もしくは明確にイメージできていなかった効果を提示し、気付きを与えることが有効といえます。その気付きによって提案内容に納得感が増し、競合他社の提案と比較して優位性を得ることができるはずです。

 冒頭の話に戻ってみましょう。競合他社の提案書には、顧客企業がイメージできていなかった導入効果が明確に提示されていました。一方N氏の提案書では、自らが提案するサービスが、顧客企業の目標達成のために、どの業務にどのくらいの効果を与えることができるかを具体的に示すことができていなかったのです。

 では、どのように効果を提示すれば、購買意欲を醸成することができるのでしょうか。

経営の数値目標に置き換え効果を示す

 IT投資に伴う効果とは「ITソリューションの導入」ではありません。SCM(サプライチェーン・マネジメント)やERP(統合基幹業務システム)などの仕組みを導入することが目的ではなく、ITをツールとして「経営戦略上の重要な目標を達成すること」こそが目指すべき効果です。

 一般的に効果は「定量効果」と「定性効果」の2種類に分類されます(図3)。ここでは、財務諸表と関連のある定量効果に焦点を絞って説明します。

図3●IT投資によってユーザー企業が得られる効果
図3●IT投資によってユーザー企業が得られる効果
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 定量効果とは、「在庫を従来に比べて3割削減する」「決算処理にかかる時間を半分にする」といった、具体的な数値で示すことができる効果です。ユーザー企業にとっては、イメージをつかみやすい内容です。

 さらに、「在庫を従来に比べて約10億円削減する」「決算処理にかかる時間を半分に削除し、経理部門の人件費を1億円削減する」など、効果を金銭的な価値に置き換えて示すことで、意思決定にかかわる誰が見ても分かりやすいものになるのです。

 ユーザー企業にとって、なぜ金銭的価値に置き換えた効果が分かりやすいものなのでしょうか。顧客企業が掲げるさまざまな目標の多くは定量的な数値目標であり、数値目標の多くは、企業活動の写像ともいえる財務情報に基づいて設定されているからです。トップマネジメントがIT投資の意思決定をする際は、新規事業への進出や新工場建築のようなビジネス上の意思決定と同様に、損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書(C/F)といった財務情報への影響を重視するのです。

 これらの効果を提示することが、ユーザー企業の購買意欲を醸成するための有効な手法の一つといえます。