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消費者参加型を特徴とするWeb2.0と呼ばれる潮流の拡大に伴って、消費者が発信した情報をマーケティングに活用する企業が増えている。花王、味の素ゼネラルフーヅ、三洋電機、日本航空、資生堂などの事例から最新動向を追う。

 「情報発信の主体が企業から顧客に移ったということだ」

 花王で社外向けのWebサイトを統括する石井龍夫Web作成部長は当たり前のようにこう語る。

 「たとえテレビ・コマーシャルでどんなにいいことを言っても、『買ってみたらそんなことはなかった』という評判が広がれば企業のメッセージは信用されなくなる。ネットが普及したことで、口コミの影響力が以前とは比べものにならないほど大きくなった」

 同社では、ネットを使った消費者の力をマーケティング活動に生かすためにさまざまな試みを続けている。

 1つはネット上に散在する自社製品の評判を集め、販売促進や商品開発に役立てることだ。外部業者に委託し、毎月1万5000件のブログ記事のテキスト・データを収集。これらをWeb作成部が所有するデータ・ウエアハウスに記録し、複数のテキスト・マイニング・ソフトで分析する。Web作成部では、この業務のために専任の担当者を置いているほどだ。

将来のニーズを先読みする

 花王がブログの分析に力を入れているのは「生活習慣の変化や世間の潮流を察知し、将来求められるだろう機能をいち早く商品に盛り込む」(石井部長)ためである。インターネット上の膨大な情報を分析することで、既存の調査では浮かび上がってこなかった動きを見つける。

 これまでもアンケートの記述欄やコールセンターなどから顧客の声を集めることはできたが「そこに書かれる要求はすでに顧客が気付いていることにすぎず、それらを基にしても提案型の商品は作れない」(石井部長)という。

 分析テーマは1カ月に1度、事業部から募る。新発売した「重点商品」などに関して「コマーシャル・メッセージが届いているか」「購買動機は何か」といった点を調査する。商品名と共に書いてある形容詞や動詞の内容から検証する。分析結果は、Web作成部が毎月20ページほどの報告書にして事業部の担当者に提出する。

 ネットを通じた情報発信については、CGM(コンシューマ・ジェネレーテッド・メディア)と呼ばれる、消費者からの情報を活用した。CGMは不特定多数の消費者が情報発信して作成していくメディアで、Web2.0の特徴の1つである。

 具体的には、今年4月にリニューアルした、主婦向け情報サイト「GO GO pika★pika MAMA」がそうだ。サイトにきた消費者同士が、自らの子育てに関する体験談を書き込み、相互に情報交換できるようにした(図1)。

図1●花王は今年4月、SNSを自社サイトに導入し、主婦向け情報サイト「GO GO pika★pika MAMA」をリニューアルした
図1●花王は今年4月、SNSを自社サイトに導入し、主婦向け情報サイト「GO GO pika★pika MAMA」をリニューアルした
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 以前は「ベビー服のお洗濯のコツ」、「花粉の気になる季節のお掃除」など主婦に役立つ情報を、花王が定期的に紹介していた。石井部長は「当事者でない企業発の情報だけだと発信できることに限界があるので、消費者中心の形でリニューアルした」と説明する。

 サイトには、エイベック研究所がASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)で提供するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)構築システム「Avec11.0」を利用している。

顧客とのきずなが企業を強くする

 花王のように、ブログやSNSといった、Webの技術や潮流をマーケティングに生かす企業は珍しくない。その背景には、ブログやSNSといったツールにより、消費者の情報発信力が企業にとって無視できない影響力を持つようになったことがある(図2)。

図2●企業の情報発信力は相対的に弱まっている
図2●企業の情報発信力は相対的に弱まっている
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 現在、日本でブログを執筆している「ブロガー」は延べ約1000万人にのぼるという。「圧倒的な量の書き込みがあるだけでなく、ブログ同士を関連付けるトラックバックやコメントなどの技術によってコミュニティを形成していく。その結果、総体としての消費者の声が力を持つようになった」(Web2.0の動向に詳しい野村総合研究所の山崎秀夫上席研究員)

 Webマーケティング最新動向に詳しい、ニフティ研究所の友澤大輔所長は、別の視点から現在の動向をこう分析する。「近年のマーケティングでは『エンゲージメント(きずな)』というキーワードが注目されている。顧客とどれだけ深い関係を築けるかが重要という意味だ。消費者が情報を発信するようになったことで、一方的にものを売られる時代よりも強いきずなを生み出せる可能性が出てきた」

 きずなを強めることで「自社のファンを増やすことが企業にとっての目的」と、日本総合研究所でマーケティング戦略を研究する上田真弓主任研究員は語る。「ポイント制度などがはんらんし過ぎて、特典だけでは顧客を囲い込みにくくなっている。リピート客を増やすにはファンを育成するのが一番の近道だ」(同)

 消費者が自分の思いをネット上で自由に書けば、企業にとって否定的な意見が広がることも少なくない。数年前までは、販促のために企業ブログを立ち上げても「都合の悪い意見を書き込まれたくない」と考える企業が多かった(本誌2005年5月2日号136ページ「広がる企業ブログ」を参照)。

 こうした企業に対して、双方向型のマーケティング手法に詳しい、電通の秋山隆平インタラクティブ・コミュニケーション局長は「自社の言い分と異なる意見が出ることを逆風と見なすか、今までは聞くことができなかった貴重な情報としてとらえるかで、その企業の将来に大きな違いが生まれる」という。同氏は「さまざまな意見が飛び交うのがインターネット。それを受け入れ、今までよりも安いコストで顧客の生の声が聞けるようになったことをまず評価すべきだ」と続ける。