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ほんのわずかな失敗にも挫折してしまう若手エンジニアが増えている。乗り越えなければならない壁から逃げていては,いつまでもプロフェッショナルにはなれない。 「石の上にも3年」――。言い古された言葉だが,その意味するところは今も色あせない。

イラスト 野村 タケオ

 K社は,顧客企業向けに業務アプリケーションを開発するベンダーである。そのK社で人事業務を担当するHさんにとって,新入社員が入社する4月は1年で最も忙しい時期だ。今年は,150人の新入社員を迎えた。Hさんは,150人分の事務手続きや研修手配作業を前に,「毎年のことながら,殺人的だな」と苦笑してから,ふと顔を曇らせた。G君のことを思い出したのである。


一流を目指して再出発

 G君がK社に入社したのは,ほぼ1年前の4月だった。実は,当時24歳だったG君にとって,K社は初めての就職先ではなかった。大学を卒業後,一度は中堅SI企業のI社に就職したが,わずか10カ月で辞めてしまったのである。「職場の上下関係が厳しいうえに,残業を強要される。しかも,毎日の仕事が単調で代わり映えしないことに耐えられなくなった」というのがG君の言い分だった。

 I社を退職後,G君は次の就職先を探した。だが,実務経験が10カ月しかないG君を受け入れる企業はなかなかなかった。そんなある日,新聞を読んでいたG君の目に,K社の募集広告が飛び込んだ。経験の浅い社会人を「第二新卒」として採用するというのだ。「これだ!」。G君はさっそく,K社に履歴書を送付。筆記と面接試験に経て,採用にこぎつけた。

 4月の入社式を済ませると,G君は新卒入社組と一緒に研修に臨んだ。まず,ビジネス・マナーや社会人としての心得を学ぶ,1カ月の一般研修を受講した。その後,いよいよ技術研修が始まった。「情報システム概論」を皮切りに「OS」や「開発言語」,「データベース」,「ネットワーク」と,ITエンジニアに必要な基礎知識を,2カ月で網羅する予定だった。研修スケジュール表を見たG君は,「今度こそ,ゼロから基礎を固めて一流のITエンジニアを目指すぞ」と,大いに意気込んだ。

 しかし,それも長くは続かなかった。講義についていけなかったからだ。「10カ月とはいえ実務経験があるから」と密かに抱いていた自信を打ち砕かれて,G君はすっかりやる気を失った。講義中も,「ああ,ITなんてつまらない」とため息ばかりつくようになった。当然のことながら,演習の成績は常に最下位だった。5月末には,出社するのも嫌になっていた。

研修から脱落

 6月上旬,G君の様子を見かねたHさんがG君をオフィスに呼び出した。「何か問題があるようだね」。G君は,「研修内容が難し過ぎるんです。僕にはついていけません」と口をとがらせた。Hさんは腕組みして少し考えてから,「理解できないところがあったら放置せず,講師に聞くなり自分で調べるなりして,その日のうちに解決することだ。最初は大変だろうが,だんだん自信を持てるようになるはずだよ」と励ました。しかし,その後もG君に変化は見られなかった。相変わらず,つまらなさそうに座っているだけだった。

 それでもなんとか7月中旬,G君は製造業向け開発本部に着任した。Hさんは「やれやれ」と胸をなでおろした。ところが,Hさんの安堵は一時的なものだった。9月初め,G君は再びHさんのところにやってきてこう言った。「現場に出て確信しました。やっぱり,僕はこの仕事に向きません」。

 Hさんは「まだ1カ月しかたっていないのに,何が分かるんだ」と言いたい気持ちをぐっとこらえて,G君の話を聞いた。G君は,「一生懸命やっているのに,先輩に怒られてばかり。どうせ僕には適性がないんです。ITにも興味を持てません」と泣き言を並べて,「もう,続ける自信がありません。辞めます」と言い放った。

 Hさんは,G君のあまりに短絡的な思考に驚きながらも,「まあ,そう結論を急ぐな。『石の上にも3年』と言うじゃないか」となだめた。さらに,「壁に突き当たる度にギブアップしていては,何も達成できないよ。くよくよ悩まずに,成長する機会と考えれば自ずと道は開ける」と諭した。だが,G君の反応は薄かった。「…そうですね」とそっけなく言って,自分のオフィスに戻って行った。

再び逃げ出す

 10月半ば,Hさんは社内の廊下でG君にばったり出くわした。Hさんは,「どうだい,仕事には慣れたかい?」と声を掛けた。すると,G君から思いがけない言葉が返ってきた。「実は僕,今月いっぱいで退職します。やっぱり,エンジニアとしての適性がなかったんです」。Hさんは肝をつぶして,「え,それでどうするんだ?」と尋ねた。G君は,にっこり笑って答えた。「O社に転職します」。

 O社と言えば,K社と同じITベンダーである。Hさんは思わず,「ITに関心が持てないから辞めるんじゃないの?」と聞き返した。「大丈夫。今度は営業部門ですから。よく考えると,僕はそもそも営業向きだったんですよ」とケロッとしていた。Hさんはあぜんとした。内心は,「営業担当者といっても,IT知識は不可欠なのに。目先のことから逃げ出すことしか頭にないのか」と思っていた。

 それから数カ月後。Hさんが小耳に挟んだところによると,G君はK社の同期会に顔を出した折,転職先のO社について不満をこぼしていたらしい。「営業なんて,頭を下げるばかりでつまらない。自分はやっぱり,腕一本で稼ぐエンジニアの方が性に合っていると思う」と話していたという。Hさんはこの話を聞いて,「G君は,全く変わっていないんだな」と,あきれ返った。それ以来,HさんはG君の消息を聞いていない。

 はっと我に返ったHさんは,苦い思い出を振り払って目の前の作業に戻った。目の前の新入社員名簿を見ながら,そこから「第2のG君」が出ないことを願った。

今回の教訓
・一人前になるには,やり遂げる闘志と強い意志が不可欠だ
・時に,失敗は最高の師である
・悩まずに問題を明確にして解決せよ

岩井 孝夫 クレストコンサルティング
1964年,中央大学商学部卒。コンピュータ・メーカーを経て89年にクレストコンサルティングを設立。現在,代表取締役社長。経営や業務とかい離しない情報システムを構築するためのコンサルティングを担当。takao.iwai@crest-con.co.jp