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クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント 福川 勲氏 福川 勲氏

クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、大和総研を経て現職。現在、ITサービスセクターの株式調査を担当。

 本誌9月30日号の特集の通り、受託ソフトウエア開発に関して、進ちょく度合いに応じて売り上げや利益を計上する「工事進行基準」の適用が2009年度から義務付けられる見通しである。

 現在、国内では完成時に収益を計上する「工事完成基準」の適用も併せて認められており、富士通、野村総合研究所など一部企業を除く大多数の企業が工事完成基準を採用している。しかし、米国会計基準および国際会計基準では工事進行基準が原則的に義務付けられている。今回の工事進行基準への一元化は、国際会計基準との整合性を重視し、日本の会計基準を見直していく一環と言えるだろう。

 我々はITサービスセクターの主要各社と工事進行基準導入に関して意見交換をしたが、その反応は否定的なものが多かった。工事進行基準を適用する際に重要となるのが、プロジェクトの見積総原価を事前に精度を持って算出する点である。このため、工事進行基準の適用に際しては、可能な限り事前に最終成果物となるソフトウエアの仕様を確定させなければならない。また、作成を開始する時点で受注金額を確定する商慣行の確立と、将来の総原価を正確に見積もるための内部管理体制の整備が必要となる。

 こうした点が、ITサービス各社から「業界の現状が考慮されてない」とか、「現場の負荷を増やす」などの反発を招いているのだろう。

 それでも我々は、工事進行基準の導入はITサービス業界にとって中長期的にポジティブと考えている。ITサービス担当アナリストとして普段から痛切に感じているのは、顧客との契約や会計報告などの面での「透明性の乏しさ」である。一時期問題となった不採算案件がその好例だ。不採算案件の典型的な原因は、契約時の要求仕様の不明確さ。どのような仕様で開発するのかという点が必ずしも明確ではないままで、開発が進むことが本質的な問題だ。

 会計報告の面でも、工事完成基準で収益認識していると、費用超過が期間損益に反映されるのが遅れ気味となりやすい。事実、過去に上場大手企業で突如巨額の損失が計上されるケースが生じている。こうした不採算案件の発生を、投資家やアナリストが予見することは極めて困難であり、リスクプレミアムの上昇により、ITサービス各社の資本コストは必要以上に上昇していると考えられる。この点で自らの「透明性の乏しさ」により、ITサービス業界は不利益を被っているのだ。

 工事進行基準が適用されれば、見積総原価を厳密に算出する必要性から顧客との契約の透明性が高まる。プロジェクト管理体制もより精緻化され、結果的に不採算案件が減少するのではないかと考える。確かに管理人員の増員などの費用負担が生じるため、工事進行基準はコストが掛かるだけの不要なものとの見方もあるだろう。

 しかし我々は、そうした見方を売上高成長重視というITブーム期の考え方にとらわれた時代遅れのものと考える。現在、富士通、NEC、NTTデータといった大手が共同で要求仕様書の標準化に向けたガイドラインを作成するなど、顧客との契約を明確化する取り組みが進められている。今回の会計基準変更は、こうした取り組みにもフォローと言える。透明性に欠けると言われてきた業界体質を変革する契機となることを期待したい。