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 温水・空調機器メーカーのノーリツは長年、社内に散在する顧客データの管理に悩まされていた。システムごとに個別構築したデータベースは全部で12種。コールセンターで電話を受けたり修理を受け付けたりするたびに、各システムのデータベースに同じ顧客のデータを格納してきた。業務効率の低下は無視できないものだったという。

 ノーリツが採った策は、顧客データの名寄せシステムの構築である。すべての顧客データを名寄せして、一人ひとりにIDを付与。この顧客IDを基に、どの顧客データがどのデータベースに存在するか、瞬時に検索できるシステムを1億2000万円かけて構築した(図1)。運用開始は06年9月。現在でも毎日1回、全データベースを検索して名寄せ処理を実行している。

図1●ノーリツが顧客データに関して抱えていた問題と、実施した施策
図1●ノーリツが顧客データに関して抱えていた問題と、実施した施策
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IDを基に瞬時に検索

 統合顧客IDが威力を発揮するのは、顧客から個人情報の削除や修正を要求されたときだ。住岡洋光 管理本部IT推進部副主事は「統合IDをキーにして、瞬時に顧客データを突き止められる」と語る。

 既存の顧客データベース自体を変更せずに顧客データが検索できるので「今後の変化にも柔軟に対応できる。データベースが増減したり一部のデータベースを修正したりしても、変更したデータベースのデータだけを抽出して、再び名寄せすればよい」(住岡副主事)という。

 以前は顧客相談窓口などから依頼を受けたIT部門の社員が、すべてのデータベースを検索し、削除や修正を実施していた。1つのデータベースに格納した顧客データの件数は、最大で600万件ほど。顧客からの削除要求は1カ月に数件とはいえ、IT部員にとっては丸一日を費やしかねない作業だった。

 ノーリツが顧客データベースの名寄せに着手したのは、05年末のこと。同年3月に「プライバシーマーク(Pマーク)」を取得したのがきっかけだ。角谷俊郎 管理本部IT推進部長は「Pマークを取得した以上、顧客データに関する問い合わせへ、迅速に対応できる体制を作る必要があった」と語る。

 名寄せのツールには、アグレックスが販売する「トリリアム」を選んだ。名寄せに当たっては、まずデータベースを2つ選んで小規模な名寄せシステムを構築。このシステムで顧客データの傾向を洗い出し、顧客の名前、住所、生年月日などについて、どの属性を基にマッチングすべきかを検討した。

 その結果、入力率が90%を超えていた住所データを、マッチング処理に使う属性に決めた。住所データの入力率が高かったのは、「当社製品の性格上、住居に取り付ける工事が伴うためだ」(住岡副主事)。

 マッチング処理を実施した結果、個人顧客の全データ中、58.6%のデータが、何らかの形で重複していたことが分かった。「思ったより多かった印象だ。顧客データの管理に手が回っていなかったことが、改めて分かった」(同)。

製品事故防止のインフラに

 07年9月には経済産業省が、販売から10年が経過した家庭製品について、顧客への点検時期の通知を義務付ける方針を固めた。対象はガス瞬間湯沸かし器や風呂釜など、ノーリツの主力中の主力商品である。

 こうした法改正に対応するため、ノーリツは今後、どの顧客にどの商品を販売したか、それをいつ製造したかなどを、より事細かに把握できるよう、システムを改良していく。名寄せした顧客データを基にダイレクト・メールの配信を効率化するなど、CRMにも活用していく方針だ。

専門家だけが知るデータ・エントリ業務の深さ

 金融商品の加入申込や学校の試験、ファクシミリによる受発注業務。紙に記入された情報を正確にデータ化するニーズは依然として多い。「データ・エントリ業務は単純作業だと軽く見る人がいるが、これは大きな間違いだ」。電算の河野純副社長はこう言い切る。

 電算は1960年代から紙の書類をコンピュータに入力するデータ・エントリ業務を中核に事業を展開してきた企業。業界では老舗の1社だ。

 データ・エントリ業務の核は正確で迅速なデータの入力にある。電算はエントリ業務に特化した情報システムと設備を用意し、業務の高品質化と効率化を追求している。

 業務に携わるのは、最低3カ月間、専門教育を受けた担当者である。まずイメージ・データとしてスキャンした紙の画像を、データ入力フォームと並行して入力端末の画面に表示。入力時の目の動きを極小化している。キーボードは特注品を使う。専用の漢字入力ソフトを用意し、最短のキーボード・タッチで、かつ変換ミスが発生しないように工夫した。また一度入力したデータを別の担当者が再入力する「ベリファイ」を実施。入力結果を比べて間違いを洗い出す。

 「人は必ず間違う。訓練を受けた人間が複数人でかかわることで、間違いを洗い出す」と河野副社長は言う。こうした取り組みにより、同社は年間の平均エラー件数を、0.000005%(1億レコード中の5カ所)にまで低減させることに成功した。

 「エントリ業務は単純作業。アルバイトに依頼して安く済ませればいい」と考える企業もある。だが「工場と同じように、しかるべき設備とノウハウがなければ、高品質の成果物を早く提供するのは無理。プロとアマチュアの差は大きい」と河野副社長は語る。

 実際に社内でデータ・エントリに取り組んだもののエラーが多発し、電算に相談に来る企業も多いという。「書類の種類にもよるのだが、OCRによる文字認識率は一定以上にはならない。結局、最初から目視でエントリした方が早いということもある」(同)。