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30代の社員が「心の病」にかかりやすいのは、仕事の内容や収入面など将来に大きな不安を抱えているからだ。このため企業は、30代の社員に向けて個人の希望や適性を基にしたキャリアプランの支援に取り組む必要がある。個人と企業のベクトルを一致させることができれば、社員のやる気につながるはずだ。

 前回は、ソリューションプロバイダの営業担当者が特に陥りやすい「心の病」について、いくつかのケーススタディを基に実情を述べた。企業としても、社員の心の病にどう対応するかが問われている。今回は心の病への対処法を解説したい。

 心の病にかかる人は、実は若手社員より30代の中堅社員に多い。成果主義の導入など企業環境の大きな変化が一つの要因ともいわれており、最近では重大な社会問題の一つに発展している。状況は深刻であり、すぐに手を打つ必要があるが、具体的な対策を実行するとなると、まだ後手に回っている企業が多いようである。

 筆者は営業人材開発部と呼ぶ部門に所属しており、いかに社員の営業スキルを向上させるか、が主な仕事である。しかし最近は心の病が少しずつ広がっているため、企業としてこうした問題の解消に取り組む必要が出てきている。社員として採用した以上、大きな責任があるからだ。

 心の病への対処法といっても、筆者は医療的な手段について言うことはできない。マネジャーとしては部下が心の病にかからないように普段から注意して気を配り、部下の悩みをじっくりと聞いたり、仕事の負担が集中しないようにするしかないだろう。

 特にソリューションプロバイダの営業担当者は「システム」という見えにくい製品を扱っている。顧客だけではなく、社内の関連部門との交渉も求められる。社内外から圧力がかかるため、余計に心労を感じる社員もいるようである。

 そうした状況でも、心の病を何とか克服して職場に復帰した事例がいくつもある。以前と同じ仕事に戻るのではなく別の仕事に従事するケースが多いが、新しい仕事や環境に積極的に取り組んで、現在は生き生きと活躍している。「営業として必要な人材であると周囲から見られている」ということを本人に気付せるのが最も重要になる。

 以下、これまでに周囲の産業医などから聞いたいくつかの事例を基に、筆者なりに心の病への対処法のヒントを述べてみたい。

明暗を分けた二つのケース

 まずは二つのケースを紹介したい。背景や状況など詳しい説明はあえて控えるが、心の病への対処法によって明暗を分けた典型的な例といえるだろう(図1)。

図1●二人の明暗を分けたのは、将来の目標を示せたかどうかだった
図1●二人の明暗を分けたのは、将来の目標を示せたかどうかだった
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 Aさん(男性)には、売るべきシステム製品のきつい予算があった。上司からいつも叱咤激励され、顧客への説明資料の作成に追われていたが、そのうち社内のSEとの人間関係までうまくいかなくなった。責任感の強いAさんは、自分だけで問題を抱え込んでしまった。そして不眠や頭痛によって、次第に出社しなくなる日々が続いた。布団から2週間も出られなかったそうだ。

 Aさんは産業医と相談して、すぐに心療内科を訪れた。さらに先輩社員はAさんと積極的にコミュニケーションを図るようにした。Aさんは現在、営業支援を担当する部門に異動して、無事に職場復帰している。仕事への新たな意欲を見いだし、明るい表情が出てきた。面倒見のよい先輩社員がいたためかもしれないが、退社という最悪の事態は避けられた。「ずっと休んでしまい、社内に迷惑をかけた」とAさんは語っていた。

 Bさん(女性)の場合は、部門の人数が削減されたあおりを受け、業務量が一気に増えたことが原因だった。これまでの担当以外の顧客まで引き継ぐことになり、期末になると残業で、毎日のように終電で帰宅していたという。Bさんは「連日、遅くまで働いていた。今後どうなるのか、先が全く見えない日々が続いた。これからも毎日、残業が続くのかと思った。とても疲れていた」と言う。

 そんなBさんに対し、上司は「もう少し頑張るように」などと励ましていた。数週間後の月曜日、どうしても出社できなかったBさんは、「体調が悪いので休みたい」と上司に電話した。その後、地元に戻って心療内科に通ったという。

 さらに数週間が経過し、Bさんは退職届を会社に送った。上司はBさんを説得したが、Bさんの意志は変わらなかった。上司は「他部署に異動することもできるから」などと話したが結局、Bさんは退職の道を選択した。

30代でもキャリアプランの支援が必要に

 AさんとBさんの結果の違いはどこにあるのだろうか。筆者は、企業が社員に対してどこまでキャリアプランを提示、支援できたかどうかにあると考えている(図2)。

図2●30代の社員の不安をどう解消するかが問われている
図2●30代の社員の不安をどう解消するかが問われている

 キャリアというと「私は今までどんな仕事をして、どんな経験を積んできたか」といった過去の実績を示す場合が多い。だが重要なのは、むしろ将来や今後の方向である。例えば「自分は今後、どうしたいのか。社内でどのようになっていくのか」といった目標を見付けることができれば、心の負担も変わってくるはずだろう。

 実は、こうした自分のキャリアプランをしっかりと自覚している人は心の病になりにくい、といわれている。Bさんのように仕事に追われて自分の将来が見えにくくなる場合、心の病になる可能性は高くなる。

 目標といっても、成果主義などで掲げられる社員の行動や数値の目標ではない。自分はなぜ働くのか、さらに何のために生きるのかなど、いわば自己実現のための目標である。企業のための目標ではなく、自分のための目標を真剣に考えて実行している社員こそが、心の病に対して一番強いのだろう。

 30代を対象に実施したある調査によると、約8割が「仕事に不安を感じている」と回答し、原因の多くは今後の収入面や企業の将来性にあったという。30代はむしろ40代や50代よりストレスを受けやすく、大きな不安を抱えているようだ。

 そうした社員に対し、企業はもっと積極的にキャリアプランを支援できるようにすべきではないだろうか。定年退職を控えた50代に向けてキャリアプランを支援する企業は多い。だが、30代の方がむしろ切実だといえよう。

 Bさんの場合、企業(上司)は「もう少し頑張るように」と言うだけで、Bさんの将来のキャリアプランの相談に乗ってあげられなかった。自分が置かれた環境がこのままずっと変わらないと思えば、やる気を出せなくなる。

 Aさんのときは、すぐ別の職場に異動させるようにしたり、先輩社員がコミュニケーションを図るなど親身に相談に乗った。このためAさんは、自分の将来について新たな目標を見いだすことができた。目標が明確になれば、社員の不安は次第に解消に向かっていくのである。