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 国内だけでなく、中国やインドといった多様な国から、最適なパートナーを選びITを調達する――。グローバル・ソーシングが話題になりつつある。そのメリットは多々あるが、日本のITベンダーとユーザー企業は、まずその国の特色やリスクをよく認識する必要がある。海外に足を運び、現地の状況を調査しているガートナー ジャパンの足立 祐子氏、そしてアウトソーシングの現状について調査・分析を続けている山野井 聡氏に、進むべき道を聞いた。 (聞き手は高下 義弘=ITpro 兼 日経コンピュータ)

中国やインド、あるいはブラジルやベトナムといった多様な国から、最適なパートナーを選び調達する。こうした取り組みを「グローバル・ソーシング」と呼ぶ動きが起きています。なぜ今、グローバル・ソーシングが求められているのでしょうか。そもそも、日本のユーザー企業はグローバル・ソーシングに取り組む必要はあるのでしょうか。

山野井 聡氏(右)と足立 祐子氏(写真:新関 雅士)
山野井 聡氏(右)と足立 祐子氏
足立 グローバル・ソーシングという言葉は本来、もう少し広い意味を持っています。国や組織に関わらず、最適なITスキルやリソースを最適なコストで調達する取り組み、と表現する方が適切でしょう。

 日本のユーザー企業が海外企業にIT人材やソフト、ハード、設備を求めることには大いに意義があります。一つは、ITのスキルやリソースを調達する選択肢が増える、ということです。製造業であればグローバル調達は当たり前の施策ですが、ITについても例外ではありません。そもそもユーザー企業自身の事業が世界展開していれば、部分的かもしれませんが現地でITを調達する必要が出てきます。

 もう一つはリスク管理の視点です。日本国内でITを調達していれば安心だ、と考える人も多いと思います。ですが、日本のITサービス産業が今後も安泰とは断言できない今、海外からも調達できる体制を整えておけば、リスクをうまく分散できます。

 最近はインドに高いITスキルや先端技術が集中するようになってきています。インド企業にすぐアクセスできる手段を持っておけば、自社の競争力強化にも役立つでしょう。ですから逆に、ユーザー企業によってはグローバル・ソーシングを検討しないことにリスクがある、と言っても、決して大げさではありません。

安定する中国、まだ見えないベトナム

日本では、中国やインドがオフショア先として最もなじみのある国です。最近ではブラジルやベトナムも話題になっています。それぞれの国について、日本企業にとっての向き・不向きはあるのでしょうか。

足立 ベンダー、ユーザーともにオフショアの経験を積み、数年前に比べると特色がはっきり出てきました。

 まず中国について説明しますと、かなり安定したオフショア先である、という評価が確立してきました。オフショアを検討する際には、ITベンダーもユーザー企業もまず候補に入れたいオフショア先です。

 理由はいくつかありますが、一つは中国のITベンダーが「日本企業を第一の顧客」と考えていることです。中国政府は相次ぎIT産業への支援策を繰り出しています。2006年6月に開始した「1110プロジェクト」がその一つです。オフショア開発ができるITベンダーを中国国内に1000社作り、世界展開するグローバル企業を顧客として100社獲得し、10カ所のソフト輸出拠点を作る、というのがその主旨です。

 懸念材料である知財保護についても対策を進めています。知財保護に取り組む企業の認定制度がその一例です。つい最近まで中国についてはこの分野の懸念や心配がありましたが、少しずつ解消に向かっていると言って良いでしょう。

 しかし、中国にも懸念すべき点があります。一つは、中国企業における離職率の高さです。2~3年一緒に仕事をしてきて、やっと良好な関係を築けた中国側の人材が、スカウトされてその企業を離れてしまう、といった状況は珍しくありません。ですから、会社というよりは信頼できる「個人」と関係を深める、という姿勢が欠かせません。

 そうした状況の中、日本企業が重視すべきは中国人のブリッジSEです。日本と中国のオフショアの関係が上手く進んでいる理由の一つには、留学経験者の層に厚みがあることが挙げられます。天安門事件で中国に戻れず、日本に長く滞在していた元・留学生がブリッジSEとして活躍しているというケースが多く見られます。ただITベンダーの中には、ブリッジSEを置かないことでプロジェクトが効率よく進行する、という例も出てきました。いずれにせよ場合によりけりなのですが、オフショアが成熟してきた現れと言えるでしょう。

 いま中国のITベンダーは仕事を安定的にこなせる企業と、そうでない企業という二極化が進んでいます。優秀な人材は一部の企業に偏り始めています。日本企業は、周囲の評価を参考に、現地に行って自身の目で確認することが必要でしょう。

 中国へのオフショアについては期待と失望が一巡し、かなり地に足のついた取り組みが進んでいます。良い傾向だと思いますが、気軽に取り組むと失敗します。まとまった仕事を明確なプロセスに基づいて依頼するという基本に忠実になり、覚悟を決めて取り組むべきことは言うまでもありません。

最近、オフショアの候補地としてベトナムが話題になっています。

足立 実力は未知数、といったところです。ガートナーに相談に来られるクライアント企業には、ベトナムについてはしばらくの間静観すべき、というアドバイスをしています。

 確かにベトナムには話題を集めるだけの材料があります。人件費の単価は安く、中国の6割から8割程度で済みます。ベトナム政府は日本への協力を明言していますし、国民性も日本人に近く、かつ親日的な感情を持っており、仕事を進めやすい相手と言えるでしょう。

 ただし、人的リソース、ITインフラともに不十分というのが現状です。確かにベトナムは国を挙げてIT人材の育成に取り組んでいるとはいえ、IT産業の従事者は数十万人レベルで、そのうち日本向けの仕事に従事できるのは1000人程度と言われています。

 それでも5年後には、ベトナムは一つのオプションになり得るでしょう。日本のベンダーが相次ぎベトナムに投資し、現地法人を設立し、人材育成に取り組んでいます。FPTソフトウェア自身も大学を設立し、IT人材の育成を進めています。その人材が社会に出て活躍し始めた時こそが、ベトナムの真価を評価すべきタイミングでしょう。

インドやブラジルは「学ぶ相手」として付き合え

インドやブラジルはいかがでしょうか。

足立 祐子氏
足立 祐子氏
足立 まずインドについては、もはや従来で言うオフショアの場ではない、と認識すべきです。

 インドのITベンダーは欧米企業の仕事を多く受注していることから、日本向けの仕事には人材が集まりにくい現状があります。また、案件の増加やインド国内での人件費の高まりといったことを背景に、インドのITベンダー自身がグローバル・ソーシングに取り組んでいます。インドのITベンダーは東欧や中国に進出し、現地の人材確保に乗り出しています。全世界のITインフラを担う存在になるというのがインドおよびインドのITベンダーの戦略です。

 このような状況から、コスト削減のためにインドにオフショアする、という日本企業のアプローチはもはや通用しません。技術パートナーとしてとらえる方がなじみます。インドはレガシー・システム関係の技術や金融分野に長けています。またSOA(サービス指向アーキテクチャ)関係のソフト技術がインド企業に集まりつつあります。日本企業は、これらの技術をピンポイントで活用するための協業の場、あるいは学びの場としてインドをとらえるべきでしょう。

 ブラジルもインドと同じような位置づけで考えることができます。FBI(米連邦捜査局)が仕事を依頼するほどのセキュリティ技術を持つITベンダーがブラジルにはあります。私が視察した限りでは、セキュリティ技術は主要なオフショア対象国の中で一番高いと感じました。また過去のハイパー・インフレを乗り越えた金融システムの開発ノウハウは、目を見張るべきものがあります。そのようなノウハウを持つブラジル企業とパートナー関係を結び、強い技術をピンポイントで活用する、という姿勢で臨むのが良いでしょう。ブラジルのITベンダーが持つ技術力は、コスト削減のためのオフショア先という姿勢は失礼とも言える状況なのです。

 一方、海外ばかりではなく、日本の地方拠点も、ソーシング先としてもっと重視すべきです。日本のベンダーは地方に子会社やグループ会社を持っています。スキルやノウハウの不足を指摘する声が親会社から聞かれますが、日本語ができ、日本のビジネス慣習を知る最適な“オフショア”先です。日本国内の地方拠点を再定義し、グローバル・ソーシングの重要なリソースとして取り込むべきです。

複数の国にソーシングを進めていくベストなモデルとしてはどんな形が考えられますか。

足立 中国、インド、そして日本国内の地方。この3極が主要な拠点を形成し、ベトナムやブラジルがバックアップする形を採るようになるでしょう。そんなにうまくいくのだろうか、と思われる人もいるでしょうが、金融やITの分野では、既にこの形を目指して動き始めている企業があります。

 中国企業は付き合いやすい相手として挙げられますが、10年後を見据えたときに、果たして中国企業ばかりと付き合うのがベストなのか、ということも考えるべきだと思います。多少リスクがあっても、先進的な技術を持つインドやブラジルの企業と手を組む、といった姿勢があってもよいと思います。