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 世界の大富豪,ビル・ゲイツ氏。彼の総資産は5兆円以上と言いますから,うらやましい限りです。ゲイツ氏は学生時代,数日間ほとんど寝ずにプログラミングに夢中になり,BASICインタプリタを作り上げたと聞きます。彼が成功した秘訣の一つは,毎日の睡眠時間が短くて済むことにあるのではないかと,私は考えています。

何時間寝れば大丈夫?

 前回お話ししたように,1日に必要とする睡眠時間は,4時間の人もいれば9時間の人もいます。寝つきが良くて目覚めはいつもスッキリ爽快,睡眠時間は6時間未満で十分という人を「短時間睡眠者(ショート・スリーパー)」と呼び,逆に9時間以上の睡眠を必要とする人を「長時間睡眠者(ロング・スリーパー)」と呼びます。一般的に,短時間睡眠者には比較的女性が多く,長時間睡眠者は男性が多いと言われています。

 短時間睡眠者として有名な人物と言えば,やはりナポレオン皇帝でしょう。ナポレオンの平均睡眠時間は1日3時間程度という記録があり,非常に密度の高い人生を送ったことが知られています。ただしナポレオンは,眠れるときは馬の上でも眠り,座れるときは必ず座ったと伝えられています。この方法は参考にしたいものです。

 短時間睡眠者として有名な人と言えば,英国の元首相ウィンストン・チャーチル氏も挙げられます。彼は1日3~4時間眠れば十分だったそうです。精力的に仕事をこなし,素晴らしい業績を残したのです。

 短時間睡眠者は,全人口の5~10%を占めると言われています。中には3時間どころか毎日1時間程度の睡眠で大丈夫という驚異的な例も報告されています。このような極端な短時間睡眠者は,「無眠者」と呼ばれています。

 睡眠時間の長さは,実は遺伝子で決められています。ですから長時間睡眠者が努力して睡眠時間を切りつめようとすることは無駄だと知ってください。それよりも,起きている時間を有効に使うように努力したほうが,はるかに賢明です。

ファスト・フードが不眠や肥満の一因になった

 かつてゲイツ氏が来日したとき,招待した側が「ゲイツさん,昼食は何がご希望ですか?」と聞いたら「ハンバーガーにしてください」と言ったという話があります。ゲイツ氏のハンバーガー好きは有名ですから,本当かもしれません。

 ハンバーガーに象徴されるファスト・フードによって,アメリカの食文化が世界中に輸出されました。同じ施設,同じ味で統一されたハンバーガーを片手に歩きながら食べるという食の簡略化や孤食(1人で食べること)といった新しい“文化”が世界に広がったのです。

 その善し悪しは別として,ファスト・フードの普及は,従来の食文化の破壊につながりました。ファスト・フードは土地ごとの旬の食材を用いた食事に取って代わり,さらには,家族が食事のために集まる一家団らんの機会を減らしました。一方で,猛烈な仕事の忙しさの中にいて,他人との煩わしい関係も店員との接触も最小限に抑えたいと思っている現代人にとって,ファスト・フードは好ましいものでした。そのため猛烈な勢いで,受け入れられていったのです。ただしその便利さと引き替えに,ファスト・フードの普及が不眠や肥満といった文明病の一因になったことに留意してください。

夜食は脂肪になりやすい

 プロジェクトが佳境を迎えたりして忙しさが極みに達すると,日中はろくに食事をとらず,深夜になってからファスト・フードで空腹を満たす方が少なくないと思います。ファスト・フードの夜食は,健康に大きな害を与えます。夜食に頼る食行動である「夜食症候群」は異常です。できるだけ避けるべきです。

 その害の一つは,睡眠障害が引き起こされることです。夜寝る前に満腹になっていると,寝付けたとしても熟睡できなくなるのです。害は,それだけでありません。二つ目の問題は肥満体になることです。食べ物は,体内でエネルギーに変換され,エネルギーは心身の働きによって消費されます。このとき,食事量が消費量を超えると,余分なエネルギーが生まれます。この余分なエネルギーが身体の脂肪となって蓄積されるわけです。これが太るメカニズムです。夜食は,この太るメカニズムが効果的に機能します。

 身体の中では「昼間・活動期・消耗班」と「夜間・安静期・修繕班」という二つの班が交代制で動いています。昼間・活動期には身体は活動し消耗します。それを決めているのが「交感神経」です。昼間は労働に必要な循環器や呼吸器の働きが高まっています。これに対して夜間・安静期班は,昼間の消耗を修理する役割をしています。道路の夜間修理のような働きです。それを支配しているのが「副交感神経」の活動です。そこで消化器系の働きを高めて,修繕に必要なタンパク質などを盛んに作り出します。つまり夜食べた栄養素は,昼に食べた栄養素よりも吸収率が高くなるのです。だから昔から「寝る子は育つ」というでしょう。

 肥満は,生活習慣病と言われる「糖尿病」「高血圧」「高脂血症」「動脈硬化症(心筋梗塞,脳梗塞)」などを引き起こします。さらに食生活が不規則になり,栄養素の摂取も片寄り,栄養素によっては,潜在的な不足状態になり,かぜを引きやすいとか,体調不調,場合によっては重大な病気の引き金になる可能性もあります。食事のとり方の基本は,規則的な三食制度の順守であり,摂取量からいうと,朝,昼をしっかり取り,夜は少な目にすることが重要です。これは,肥満防止だけでなく,よく眠ることにもつながります。

 PCと向き合って仕事をすることは,自然の摂理に反していて,ただでさえストレスを生みます。ましてや,ファスト・フードや夜食を組み合わせることは,自分の心身を危険にさらしていることにほかなりません。心地よく感じる自然な生活リズムを取り入れて,よく眠り健康に働いてください。

田村 康二(たむら こうじ)
立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問 田村 康二氏 医師,医学博士。立川メディカルセンター(新潟県・長岡市)常勤顧問。内科,循環器病,時間医学などが専門で,著書に「生体リズム健康法」(文藝春秋社),「健康安心ノート」(和泉書房)などがある
■変更履歴
「WindowsOSを作り上げたと聞きます」としていましたが,正しくは「BASICインタプリタを作り上げたと聞きます」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2007/11/26]